ASML Holding(ASML)決算分析|EUV売上+39%、製品ミックス改善で利益構造が一段強化【2025年 20-F 日本語解説】
この記事は、SEC EDGAR(米国版の有価証券報告書データベース)に提出された20-F(本決算報告書)を日本語訳・分析したものです。決算速報よりはタイムラグがありますが、より詳しい財務情報が記載されており、企業の実態を深く知ることができます。
AI向け半導体の設備投資が世界中で加速しています。その恩恵を最も直接的に受けているのが、EUVリソグラフィ装置で唯一の供給者であるASML Holdingです。2025年通期の純利益は96.1億ユーロ(約1兆7,586億円)で前年比+26.9%と過去最高を更新。株価は直近1年で約85%上昇し、約1,355ドル(約20.2万円)で推移しています(※1)。EUV(極端紫外線リソグラフィ)システムの売上構成比が38%→48%に拡大したこの1年、利益構造はどう変わったのか。決算から詳しく見ていきます。
今回決算のまとめ(3行)
・EUVシステム売上が116億ユーロに急伸し、システム売上の48%を占めるまでに拡大
・営業利益113.0億ユーロ(前年比+25.3%)、営業費用の売上比率は19.3%→18.3%に低下し営業レバレッジが効いた
・2026年売上ガイダンスは340〜390億ユーロ、受注残388億ユーロが下支え(※2)
会社概要
一言でいうと、半導体製造に不可欠なリソグラフィ(回路パターンの焼き付け)装置を供給する会社です。特にEUV(極端紫外線)リソグラフィではシェア100%を握っており、最先端ロジック・先端DRAMの露光工程ではASMLが事実上の唯一の供給者です。TSMC、Samsung、Intelなど主要メーカーがこの装置なしには最先端チップを量産できません。
本社はオランダ・フェルトホーフェン。従業員数は約44,000人。報告通貨はユーロで、ニューヨーク証券取引所にもADR(米国預託証券)として上場しています。
今期のポイント3点
ポイント1:EUV急伸がけん引、製品ミックスの転換点

2025年の売上成長をけん引したのは、EUVシステム売上の急伸です。EUV売上は116.0億ユーロ(約2兆1,228億円)で前年比+39%と大幅増。システム売上全体に占めるEUV比率は38%→48%に拡大しました。これはAI向け先端ロジック工場の投資加速に加え、DRAM(メモリ半導体)向けにもEUV採用が広がった結果です。一方、DUV(深紫外線)システム売上は120.0億ユーロで前年比-6%と減少。出荷台数も279台と前年の374台から25%減りました。ただしDUVは成熟ノード・車載・パワー半導体の量産工程で引き続き重要な収益源であり、中国向けDUV事業も「想定より堅調」でした。成長の中心がDUVの「台数」からEUVの「単価×高付加価値」にシフトした製品ミックスの転換が、今期の最大の特徴です。
サービス・フィールドオプション売上は81.9億ユーロ(約1兆4,988億円)で前年比+26%と好調。EUV装置の設置台数が積み上がるほど保守・アップグレード需要が増える仕組みで、新品装置の販売サイクルに比べて収益の安定性が高く、景気後退局面でのバッファーとしても機能します。
ポイント2:地域別売上が激変、背景は規制だけではない

2025年の地域別売上で最も大きな変化は、台湾向けの急増と中国向けの急減です。台湾向け売上は83.4億ユーロ(約1兆5,262億円)と前年比+91%。韓国向けも81.8億ユーロで+27%と拡大しました。一方、中国向けは75.8億ユーロ(約1兆3,871億円)で前年比-26%と大幅減少。構成比も36.1%→23.2%に低下しています。
この変動には複数の要因があります。オランダ・米国による中国向けEUV輸出規制の影響に加え、主要顧客の大型設備投資のタイミング、売上認識のズレ(納入から検収までの期間差)、前年の高ベース効果も影響しています。ASMLの年次報告書でも、2025年の中国向けDUV事業が「想定より堅調だった」と記載されており、規制だけで説明するのは単純化しすぎです。
ポイント3:営業レバレッジが効いた利益構造

売上が+15.6%伸びたのに対し、営業利益は+25.3%と上回りました。研究開発費は47.0億ユーロ(前年比+9.2%)ですが、これはHigh NA(高開口数、0.55 NA)EUVの開発やDUV次世代機種への投資に起因するもので、一時費用ではなく今後も継続する性質の支出です。販管費は12.6億ユーロ(+7.9%)。いずれも売上成長率の+15.6%を下回ったため、営業費用の売上比率は19.3%→18.3%に改善しています。粗利益率もEUVミックス好転とサービス比率の向上で51.3%→52.8%に上昇しました。
最大のリスク:顧客・地域・サプライヤーの三重集中
ASMLの最大リスクは、売上基盤が「特定顧客」「特定地域」「特定サプライヤー」の三重に集中している点です。
2025年の最大顧客は売上の23.9%(前年16.6%)を占め、上位2顧客で38.0%に達しました。半導体装置業界では大口顧客への依存は避けにくいですが、問題は前年比+7.3ptという急上昇ペースです。リスクの核心は「比率そのもの」より「その顧客の投資サイクルが変調したときの影響度」にあります。
地域面では台湾向けが25.5%に急増。受注残の構成や顧客のグローバル体制を考慮すると、即座に売上消失とはなりにくいものの、集中度の高まり自体がリスク信号です。
光学部品のサプライヤーであるCarl Zeiss SMT社への単一依存も重要です。20-Fでは「この供給元が停止すれば事業の継続が事実上不可能になる」と明記されており、同社の生産能力がASMLの出荷上限を規定しています。
監視指標
・最大顧客比率:現在値23.9%(閾値30%、乖離幅-6.1pt。ただし業界特性を踏まえ、注視すべきは「前年比+7.3ptの急上昇ペース」)
・台湾売上比率:現在値25.5%(前年15.4%からの急増自体がリスク信号。受注残構成との比較で評価) ・
中国売上比率:現在値23.2%(規制強化でさらなる低下の可能性あり。2026年は受注残構成と同程度と会社側が示唆(※2))
筆者の見解
総合判断:条件付き「買い」
ASMLはEUVリソグラフィでシェア100%という地位を持ち、売上成長率+15.6%、粗利益率52.8%と成長と収益性を両立しています。
バリュエーションの評価です。直近のトレーリングPER(実績株価収益率)は約46倍、フォワードPER(予想株価収益率)は約40倍(※1)。PEG(株価収益成長率)比率は5年EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)成長率21.9%ベースで約2.1倍(※3)。本シリーズ共通の「買い」基準(PEG 2.0倍以下)をわずかに超えていますが、EUV市場で代替供給者がゼロである点、装置更新サイクルが長期(10年超)で受注残が売上の1年分以上ある点を踏まえ、業界特性として許容範囲と判断します。
競合との比較では、Applied Materials(売上約270億ドル、PER約21倍、営業利益率約27%)やLam Research(売上約170億ドル、PER約24倍、営業利益率約29%)はいずれも複数の競合がいる市場で事業を展開しています。ASMLのプレミアムは、この競争環境の違いと収益の可視性に起因します。配当利回りは約0.5%と低水準ですが、配当性向は約27%で増配余地は大きく、120億ユーロの新規自社株買いプログラムも発表されています(※2)。
強気シナリオ(確度:中):
2026年売上390億ユーロ上限、粗利率53%、EPS(1株あたり純利益) €33 × PER 43倍 → 株価1,800ドル付近
基本シナリオ(確度:高):
2026年売上360億ユーロ、粗利率52%、EPS €30 × PER 38倍 → 株価1,400ドル付近。押し目はPER 35倍(=約1,050ドル)以下
弱気シナリオ(確度:低):
中国規制強化や顧客投資延期で売上320億ユーロ(ガイダンス下限割れ)、粗利率50%に悪化、EPS €25 × PER 32倍 → 株価950ドル付近
今後の事業見通し
確度:高 ーー EUV装置需要の継続拡大
受注残388億ユーロ(うちEUVが65%)が2026〜2027年の売上可視性を高めています。AI向け先端ロジック・DRAM投資の加速を背景に、2026年Q1ガイダンスも売上82〜89億ユーロと堅調です(※2)。サービス売上もEUV設置台数の増加に連動して拡大が続いています。
確度:中 ーー High NA(高開口数、0.55 NA)EUVの商用化拡大
2025年に4台を出荷(前年2台)。Intelが2026年1月にEXE:5200Bの受入を完了し、1.4nmノード時代への移行が始まりました(※4)。初期導入フェーズのため利益率が振れやすく、短期的には粗利率を押し下げる要因です。ただし長期的にはEUV単価の上昇を通じて粗利率改善に寄与する見通しで、導入先が限られる間は業績寄与の読みにくさが残ります。
確度:低 ーー 2030年売上600億ユーロの上限シナリオ達成
半導体市場のCAGR(年平均成長率)9%が前提。地政学リスク、Carl Zeiss社の供給制約、顧客投資サイクルの変動など複数の不確実要因があり、目標レンジの幅(160億ユーロ)自体がリスクの大きさを示しています。
まとめ

ASMLは、EUVリソグラフィ市場でシェア100%を握る参入障壁の高い企業です。2025年通期はEUV売上の急伸をけん引役に、製品ミックスの改善と営業レバレッジで増益を実現しました。地政学リスクと顧客集中は注視が必要ですが、豊富な受注残が当面の売上可視性を高めています。総合判断は条件付き「買い」。基本シナリオのPER 35倍(=約1,050ドル)以下が中長期エントリーの目安です。
本記事はSEC EDGARに提出されたASML Holding N.V.の20-F(Annual Report)を基に分析したものです。 Accession No.: 0001628280-26-011378
【出典注記】
※1 株価(約1,355ドル、直近1年+85%)、PER(トレーリング約46倍、フォワード約40倍)、EPS予想(約€30)はStock Analysis / Yahoo Finance(2026年3月時点)を参照
※2 受注残388億ユーロ、配当1株€7.50(+17%増配)、120億ユーロ自社株買い、2026年ガイダンス、中国売上見通しはASML 2025年Q4決算プレスリリース(2026年1月28日発表)を参照
※3 PEG比率(約2.1倍、5年EBITDA成長率21.9%ベース)はGuruFocus(2026年3月時点)を参照
※4 Intel High NA EUV受入についてはASML 2025年Q4決算説明会トランスクリプト(2026年1月28日)および業界報道(Tom's Hardware等、2026年1月)を参照
※ASMLはオランダ企業のため、報告通貨はユーロ(EUR)です。本記事の円換算は1ユーロ=183円(2026年3月時点)で計算しています
※株価等のドル建てデータはNASDAQ上場のADR価格を基に記載。ドル円換算は1ドル=149円(2026年3月時点)
※投資は自己責任でお願いいたします。本記事は特定の金融商品の売買を推奨するものではありません

