テンパスAI / Tempus AI(TEM)決算分析|キャシー・ウッドが1,230万ドル買い増し、売上+83%のAI医療企業【2025年10-K 日本語解説】
この記事は、SEC EDGAR(米国版の有価証券報告書データベース)に提出された10-K(年次報告書)を日本語訳・分析したものです。決算速報よりはタイムラグがありますが、より詳しい財務情報が記載されており、企業の実態を深く知ることができます。
2月25日、Cathie Wood率いるARK Investが決算発表後に株価7%下落したTempus AI(TEM)を約21万株・1,230万ドル分買い増しました。ARK Innovation ETFでは組入8位・ウェイト4.5%と、すでにARKの主力銘柄です。
Tempus AIは2024年6月にIPO価格37ドルでNASDAQ上場。一時は104ドルの高値をつけましたが、現在は約54ドルで推移しています。2025年度は前年比で売上がほぼ倍増し、2026年のガイダンスでは調整後EBITDA黒字化を掲げています。10-Kから紐解いていきます。
今回決算のまとめ(3行)
・AI医療データ企業Tempus AIの2025年度売上は12.7億ドル(約1,981億円)で過去最高を更新
・営業損失は前年比63%改善、調整後EBITDAは△740万ドルとほぼ損益分岐点に到達
・遺伝子検査Ambryを買収し、年間検査件数を前年比3倍の80万件超に拡大
会社概要
一言でいうと、がん患者のゲノム・臨床データをAIで解析し、医師に最適な治療法を提案するヘルスケアテック企業です。創業者が妻の乳がん診断をきっかけに2015年設立。大手製薬20社中19社と提携し、累計8,500名超の医師が利用しています。
事業は「診断事業」(売上の75%)と「データ・AI事業」(売上の25%、製薬企業向けデータライセンス)の2本柱です。
今期のポイント1:売上急成長でも費用+10% ── 営業レバレッジが効き始めた

売上に対し、営業費用の伸びは+10%に抑えられました。営業費用比率は前年の200%から120%へ80pt改善しています。主因はIPO関連株式報酬の正常化(5.3億ドル→1.2億ドル)ですが、Ambry統合費用を吸収しつつこの改善幅はスケールメリットが効き始めた証拠です。調整後EBITDAは△740万ドルとほぼ損益分岐点に到達しました。
今期のポイント2:Ambry買収で検査件数3倍 ── 「診断+データ複合型」で差別化

診断事業は9.6億ドル(約1,498億円)と前年比+111%。増収の約7割は2025年2月に買収したAmbry Geneticsの寄与です。がん検査34万件に遺伝性検査46万件が加わり、年間80万件超の体制を構築。がん検査の平均単価もMedicare償還率改善で1,600ドルへ+6%上昇しています。
競合のGuardant Health(売上9.8億ドル(約1,529億円))はリキッドバイオプシー特化、Natera(約17億ドル(約2,652億円))はMRD検査が主力です。Tempusは「検査+データ収益」の複合型で独自のポジションを確立しています。
今期のポイント3:大手製薬との大型契約 ── AI基盤モデルで新領域にも進出

Tempusの強みは検査で得たデータを製薬企業に「売る」ビジネスです。AstraZenecaとは最大3.2億ドル(約499億円)、GSKとは最大3.0億ドル(約468億円)の長期契約を締結。2025年にはPathos AIとのAI基盤モデル共同開発で3年間2億ドルのデータライセンス収入も確保しました。
最大のリスク:患者データアクセス権の喪失
Tempusのビジネスは「匿名化された患者データ」への継続的アクセスに全面依存しています。医療機関との契約は非独占のため、競合にも同じデータが提供される可能性があります。
FDAはLDT(自社開発検査)規制を強化する最終ルールを2024年5月に公布しましたが、2025年3月にテキサス州連邦地裁が全面無効の判決を下しました。FDAは控訴期限内に控訴せず、議会でのLDT関連法案(VALID Act等)も未提出です。仮に将来法制化された場合、FDAの過去の医療機器規制違反では数百万〜数千万ドル規模の制裁金事例があり、加えて再認可に1.5〜3年の対応期間が必要です。
・監視指標:議会でのLDT関連法案の再提出状況
・現在値:裁判所により無効化済み、法案未提出
・閾値:新法案が議会に提出され公聴会が開催された場合
・解釈:法制化されれば数千万ドルの追加コストと1.5〜3年の対応期間が必要
筆者の見解
判断:様子見(中長期は強気)
現在の時価総額約103億ドル(約1兆6,068億円)に対し、PSR(株価売上高倍率)は約8.1倍。有利子負債10.6億ドル・現金6.1億ドルを考慮したEV/Salesは約8.5倍で、2026年ガイダンスベースでは約6.8倍に低下します。競合Guardant HealthのPSR約8倍、NateraのPSR約12倍と比較し、前年比ほぼ倍増の成長率を考慮すれば割高感は限定的です。無配当(利回り0%)。
LDT規制リスクは裁判所の無効判決で短期的に後退しましたが、議会の動向次第で再燃する可能性はあり、中長期では引き続き監視が必要です。Ambry統合の無形資産償却(年6,150万ドル、5〜15年で逓減)は構造的費用ですが、費用全体の伸びが+10%に収まっており統合は順調と判断します。2026年Q2までにEBITDA黒字が定着しなければ再評価が必要です。
総合判断:「AI×医療データ」で唯一の診断+データ複合型モデルを確立した成長企業。短期は赤字継続と2030年の負債返済集中がリスクだが、中長期ではデータ蓄積の参入障壁が効いてくる。
今後の事業見通し
診断事業の拡大(確度:高)
年間80万件超の検査基盤確立済み。Medicare償還率の改善傾向が追い風。
製薬データライセンス(確度:中)
大手との大型契約あり。ただし新規契約は製薬R&D予算に左右。2026年の+25%成長達成が試金石。
AI基盤モデル・デジタル病理学(確度:低)
Pathos AIやPaige買収は「ゼロイチ」段階。商用化時期と収益貢献は未知数。
まとめ

Cathie Woodが決算下落後に買い増すほどの確信を持つAI医療銘柄です。売上ほぼ倍増の成長力は本物で、2026年にEBITDA黒字化を達成できれば、「がんデータのプラットフォーマー」として中長期の勝ち組になるポテンシャルを持っています。
免責事項: この記事は筆者個人の見解であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
※記事中の円換算は1ドル=156円(2026年2月時点)で計算しています。
※競合売上データはAstute Analytica推計(2026年1月発表)を参照
※ARK Invest取引データはBenzinga報道(2026年2月25日)に基づく
出典: Tempus AI, Inc. Q4 2025 Earnings Release (2026年2月24日)
出典: ACLA v. FDA, No. 4:24-CV-479, E.D. Tex. (2025年3月31日判決)

