「オレ、ここにいる!」紛失防止タグの仕組み(465号)
前にも書いたかもしれませんが、筆者は子供の頃から忘れものが多い人でした。
いや、多いなんてものではない、忘れものの王者でした。
当時、教室には「忘れものシート」という紙が掲示され、忘れものをする度にマークが付けられていました。(もちろん昭和の話)
特に、筆者ともう一人はダントツで多く、二人でトップの座を競っていました。(全くもってほめられた話ではない)
この傾向は大人になっても続いていて、しょっちゅうものを失くしたり、置き忘れたりをしています。
今回は、筆者のような忘れものキング、紛失キングへのIT業界からのプレゼントともいえる、紛失防止タグのお話をします。
1. 紛失防止タグとは?
タグというのは、もともと、荷札とか値札のことです。プライスタグ、なんて言い方をしますよね。あれです。
紛失防止タグは値札ではありませんが、なくなると困るものに付けておいて、いざとなれば探しやすい仕組みを持った小さな電子機器です。
筆者はもう10年以上も前から、Tile(タイル)という紛失防止タグを、印鑑が入ったポーチやクルマのキーに付けています。
この製品(Tile)の場合、最初にタグをスマホに登録するだけで、以降は、そのタグがどこにあるかを追跡し続けてくれます。
万一、印鑑入れが行方不明になった!となったら、スマホのアプリ上でそのタグを指定してやると、最後にそのタグと通信した場所を教えてくれます。
例えば、客先に忘れた、ランチを食べたお店に忘れた、といったことがスグにわかります。
また、スピーカが付いているタグなら、近くにあることがわかれば、スマホで「音を鳴らして」とお願いすれば、タグに通信して音を鳴らせてくれます。
筆者は冒頭に書いた通り、忘れものがひどいので、この紛失防止タグにはよく助けてもらっています。
さて、さきほど、さらりと「最後にそのタグと通信した場所を教える」と書きましたが、タグとの「通信」って何なのでしょうか?
2. Bluetoothという無線通信
通信というと、今時ならインターネット通信を思い浮かべる人が多いでしょうが、それ以外の無線通信というのは、いろいろな方法があります。
その代表格とも言えるのが、多くの紛失防止タグで利用されている、Bluetooth(ブルートゥース)です。
これは、いわゆる無線LAN(Wi-Fi。のインターネット用)とは用途の異なる短距離無線に特化した通信規格です。
初登場は1999年(!)、とかなり老舗(しにせ)の通信方式ですが、バージョンアップを重ねていて、今も現役バリバリです。2026年現在の最新バージョンは6.1です。(v5.1などの多少古いバージョンでも困ることはないでしょう)
このBluetoothの最大の特徴は、キーボード、マウス、ヘッドセットなど、身の回りの機器同士をつなぐことを目的に設計されている点です。
無線LAN(Wi-Fi)のような、インターネット接続は主目的ではありません。
Bluetoothはもともと低消費電力を重視していたので、電池のもちは良いのですが、V4.xからはさらなる低消費電力モード(BLE:Bluetooth Low Energy)が追加され、さらなる低消費電力をも実現し、さらに応用範囲を広げています。
さて、紛失防止タグの多くは、Bluetoothでスマホやパソコンと通信をします。通信といっても、マウスやヘッドセットと違って、タグ側から伝えるべきは、「オレは今ここにいる。オレのID=xxxxx」だけですので、通信内容は極めてシンプルです。
ただ、いつ近くにスマホがあるかわかりませんから、タグは定期的(例えば10秒に1回)にBluetoothで通信をするしかありません。
10秒ごとの発信だと、1日に8640回、1年で約300万回の通信が必要です。
でも、考えてみてください。
ボタン電池(2032というちょっと大き目のやつ)1個の電池容量なんて、660mWh(ミリワット時。以下同じ単位)くらいしかありません。
今時のスマホなんて、10000mAhとかのでっかいバッテリーが内臓されてますが、これって、mWhになおすと、37,000mWh、ボタン電池の100倍ほどあります。
片や、37,000mWhあっても1日持たないこともあるくらいなのに、タグはたったの660mWhで、1年動くんですよ?一体どんな魔法を使っているのでしょう?
その答えが、上でも書いたBLE(低消費電力モード)なのです。
BLEを使用すると、タグはほとんどの時間を寝て過ごします。いや、寝るどころか、ほぼ仮死状態といっていいところまで機能を止めて電池を節約しようとします。
そして、10秒に1回だけ、ガバっと起き上がって、「オレ、ここにいる」と叫ぶやいなや、また仮死状態になる、みたいなことを延々とやり続けるのです。
とにかく電池の節約が最優先ですから、「ここにいる!」と叫んだことをスマホが受信したかどうかすら確認しません。(これをアドバタイズモードと呼びます。インターネットでいうブロードキャストに近いかな)
さて、スマホ側では、Tileというアプリケーションがバックグラウンドで動き続けています。
そのアプリが、タグの叫びを受けとると、その受信日時と、スマホの現在位置をタグの現在位置とみなして保管します。(サービス元にも提供します)
こうすることで、間接的に、タグがいつどこにあった、という情報をアップデートするわけです。
紛失防止タグは「オレはここにいるよ」と叫ぶだけで、場所の確認や記録は、全てスマホにおまかせ状態なのです。
3. Bluetoothが使えなかった時代
Bluetoothの最初期、v1.1の頃(2000年より少し後)は、「違う会社のBluetooth機器がつながったらラッキーと思え」というありさまでした。
何で?というと、仕様書にあいまいな記述や取り違いしやすい記述が多く、各社がそれぞれの理解で、実装を進めてしまったからです。
筆者などは、「これではBluetoothは終わりかなあ」と思ったほどです。
ところが、Bluetoothの規格団体は実にねばり強く互換性の確保に向けてガンバります。
その柱は、認証制度の強化でした。
特に相互接続検証ラボでは、製品販売前に各社の製品を揃え、徹底的なテストが行える環境をメーカに提供し、製品にBluetooth対応のロゴを付けるには、このラボでの検証をクリアしてね、というルールにしたのです。
ところで、今も安価な無線マウスは、Bluetooth対応ではありませんよね。
あれは、ラボの検証費用節約が理由の一つといわれています。検証作業にはかなりの手間とオカネが要るそうなんですね。
一見、カンタンそうに見える互換性を維持が、いかに大変な努力によって守られているかを示す良い例だと思います。
4. これって、他人にも探してもらえるんじゃ?
2章で書いたとおり、タグ自身は自分の場所などを知る術がありません。
この特徴はローコストに紛失防止タグを作るためには避けられない制約ですが、紛失防止タグが行方不明になった時に困ります。
自室に置いてきたとか、お客さん先に忘れた、といった場合はともかく、盗まれたり、電車などに置き忘れた場合、最後に記録が残っている場所には、タグはありません。
つまり、最後の記録後にタグが移動されると、まったく追跡ができなくなります。
これを何とかしようとして、Tileのサービス元が考え出したのが、「他人にタグを捜してもらうモード」です。
さっきも書いたように、Tileのアプリはバックグラウンドでずっと動いています。
だから、登録済のタグだけじゃなくて、未登録のタグの「オレ、いまここ!」の叫びも、拾えるのです。
これを積極的に使い、未登録のタグの叫びも受信したら、その位置情報をサービス提供元のサーバに伝えるという「おせっかい焼き」をすればいいんじゃないの?という発想です。
こうやって「おせっかい焼き」をするアプリがたくさんあれば、たとえ盗難された後でも、たくさんのスマホが連係することで、タグの移動履歴が残せるはずだ、ってことですね。
ちなみに、他人のタグの情報ですから、プライバシーには細心の注意を払って設計されています。例えば、そのスマホで検出した他人のタグを後で見ることはできないようになっています。
さて、これが有効に機能するには、多数の人がTileというアプリを使ってくれる必要があります。しかしながら、Tileの場合は、タグの追跡効果はそれほどでもなかったように筆者は感じていました。
もっとも、筆者は紛失防止タグを盗難されたことがありません。なので、効果を感じる期会がなかっただけかもしれません。
5. そして、OSの標準機能へ
この「みんなで探そう(Crowd Finding)」というアイデアをAppleがiOSの標準機能へと発展させます。(どうでもいい話ですが、クラウドファンディング(Cloud Funding)とは全く関係ありません)
もともと、AppleのiOSは紛失したスマホを見つけるための「探す」機能がありましたが、これが2021年に大巾に強化され、AirTagというApple製の紛失防止タグに対応します。
つまり、全てのiPhoneやiPadを使って、スマホ、タブレットを探せる、巨大な探索ネットワークがあり、それに加えて紛失防止タグも探せるようにしたわけです。
こうなると、これまた大量のAndroid端末ネットワークを持つGoogleも負けていられません。
Google Find Hubを強化し、同様にタグが探せるようにしています。(こちらはGoogle以外がタグ製品を売っています)
Tileが考案した「みんなで探そう」は、今や、スマホの標準機能となったのです。
6. まとめ
今回は、TileやAirTagと呼ばれる紛失防止タグのお話をしました。
紛失防止タグは本当に便利な道具で、忘れものキングの筆者も、これのおかげで随分と助けられています。
そんな便利な紛失防止タグですが、一点だけ注意。
いくらBLEの低消費電力モードとはいえ、いつかは電池切れになります。
まだ動いているから、ではなく、定期的にタグの電池交換をしましょう。
紛失した時に追跡できなければ、せっかくのタグが助けになりませんから。
次回もお楽しみに。
今日からできること:
・紛失防止タグはBluetoothを使って通信をします。
→スマホのBluetoothをONにしましょう。
→でないと、タグの「叫び」を受けとれません。
・電池が切れる前に電池交換をしましょう。
(本稿は 2026年7月に作成しました)
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