お題「焚き火」ショートショート:#虹色創作部
船の難破で浜辺に打ち上げられた男は、途方に暮れた。
ここは周囲4キロ四方の無人島。
彼はアウトドアが好きだった。だが、それは食料があり、車があり、ライターがある。緊急時には助けを呼べる状況。安全が保証された世界での遊びに過ぎない。
この無人島を探索すると、オアシスのような小さい森があり、奇妙な鳥が住んでいた。水はあるが食べれるような果実は無い。
「俺は真面目に生きてきた。なんで、こんな目に合うんだ」
今まで心地よく聞こえてきた波の音も、満点の星空も、無秩序に生えている森の緑も不安を増幅させる装置となる。夜の寒さには命を奪われる気がした。
見よう見まねで木を擦りあわせて、火を起こそうとしたが何時間やってもできなかった。男はあきらめて、浜辺で横たわり数日を耐え救助を待つことにした。
ー救助は来ない。意識が薄らいでゆく。
ある日、雷で奇跡的に火を得た。男は焚き火を燃やして、貝や小魚をむさぼるように食べた。男は震えながらその火を守り抜くことを決意した。
炎が木を燃やし、黒い灰に変えていくのを見るたび、男はそれが、孤独に朽ちていく自分自身の姿のように感じた。「この火が灰になる時、俺も灰になる」
男は火を絶やさぬよう、毎日森へ入り木材を拾った。しかし、夜はいつも不安で眠れない。少し目を閉じると、火が消えた真っ暗闇と、文明から完全に切り離された孤独が彼を襲う。
薪をくべ、その炎の明かりと音を頼りに、うつらうつらと夜を過ごした。
ある日、男は焚き火のそばで、ふと横に生えている小さな葉に目をやった。それは何の栄養もない岩場から、青々と茎を伸ばし、太陽に向かって堂々と葉を広げている。
特別な道具も、文明の知識もなく、ただその場にある水と光だけで自立して生きている、純粋な生命の力。
「俺は文明を持っているのに、あいつより弱いのか」
文明の利器を失った途端、火に頼りきりになっている自分の姿と対比し、言いようのない焦りと敗北感を覚えた。
「俺は真面目に生きてきた、社会に貢献して報酬をもらって、文明の恩恵を授かって来た。何が悪い、みんなそうだ、何で俺だけがこんな目に合う!」
資源の枯渇に気づくと、男の精神はついに狂乱した。「俺はもう自力で生きられない。それなら、最後にこの森ごと焼いてしまえ。俺とこの島は同じ運命を辿るのだ」
男は火を森の奥に放った。奇妙な鳥たちは一斉に逃げ出だした。男は逃げ遅れ丸焼けになった鳥を食べる。それはサバイバル生活の終焉であり、文明から追放された、最後の破壊だった。
数日後、島から上がる異常な煙を政府が発見し、ヘリが飛来した。この島は絶滅危惧種の鳥を保護している島だった。男は鳥を絶滅に追いやった罪で逮捕され、文明社会へと連れ戻された。
そして今、男は故郷の刑務所の独房にいる。壁と鉄格子に囲まれた、たった一畳のコンクリートの「箱」だ。すべては規則正しく、無駄がない。男は、その狭い空間を見渡し、恍惚とした笑みを浮かべた。
「この壁、この檻、全て人のぬくもりを感じる。温かい…」
男は、人間の手で作られたコンクリートの床の冷たさに、体温の安心を感じながら、久方ぶりに深い眠りに落ちた。
ー文明という名の管理された箱が、永遠に俺を守ってくれるのだから。
虹くりっぷ@文フリ41さん 虹色創作部のお題にチャレンジしました。
よろしくお願いします。
