「日本一のギョーザのまち」って本当?「たった96世帯」の家計簿に秘められた不都合な真実とは
毎年2月になると、「日本一のギョーザのまちはどこか」が話題に上る。
2025年は浜松市が見事、栄えある日本一の座を勝ち取った。3連覇である。
近年は浜松市に加え、かつて「ギョーザのまち」の名をほしいままにした宇都宮市、さらに2020年代にトップ集団の一角に躍り出た宮崎市が、三つ巴の激しい戦いを繰り広げている。
あるとき、ぼくはふと、この「ギョーザ購入額日本一」なるものがいったいどのような仕組みで決まるかに興味を持った。
そのように思ったいちばんの理由は、宮崎市がこの分野で急速に力をつけてきたこと。
「あれ? 宮崎ってそんなにギョーザを食べる土地柄だったっけ?」
ぼくははるか昔、宮崎市に住んでいたことがある。あの街の人々がそれほどまでに熱烈な「ギョーザLOVE!」ピーポーだったかというと、そうした記憶はまったくない。
いや、本当にはるかはるか昔なので、その後、宮崎市民の味覚が総入れ替えされた可能性も皆無ではないのだが。
この「◯◯購入額」や「△△消費額」の順位付け。
都道府県庁所在地及び政令指定都市のみを対象としている事実は、それなりに知られていると思う。
たとえば、福島県喜多方市民の皆さんがラーメンをこよなく愛し、暑い日も雪の日も毎日欠かさず朝ラー昼ラーを続けようと、このランキングに登場するチャンスはない。絶対に巡ってこない。残念ながら。
ラーメン消費額日本一の座は、山形市が4年連続でキープしている。
そもそも、この「◯◯購入額日本一」「△△消費額日本一」が何に基づいて決まるかといえば、国の総務省統計局が毎年行っている家計調査が元ネタである。
2025年の詳細結果は、以下のWebページに掲載。
「<品目分類>1世帯当たり年間の支出金額,購入数量及び平均価格 4-1 都市階級・地方・都道府県庁所在市別 二人以上の世帯・勤労者世帯・無職世帯」のEXCELデータがそれだ。


ちなみに、ぼくの暮らす福島市は、納豆消費額において、直近10年間で7回日本一に輝いており、2024年と2025年は連続で日本一になった。
だものだから、「納豆のまち福島」としてただいま絶賛売り出し中です(知らないですよね、全国の皆さん...…この機会にぜひ知ってください)。
ただ、福島市は際立った大豆産地でもなく、名だたる納豆メーカーが市内に林立しているわけでもない。
何しろ公式ホームページにも堂々と、
大豆の生産や納豆の加工が盛んではない福島市なのに「日本一の納豆愛」を誇る理由は定かではありません
と明記されている。潔い。
しばらく前、NHKの福島支局がローカルニュースの中で、
「なぜ福島市の納豆消費額は日本一なのか?」
を探る企画を放送していたが、結論は「よくわからない」というものだった。
我が家でも毎日必ず一人1パック、納豆を食しているのは確かだが……身体によさそうだし、栄養価も高いし、何より安いしねッ♡
しかも、納豆のみならず、福島市は2025年、下記の12品目で購入額・消費額が日本一だったとのこと(市長がFacebookで紹介されていました)。
☆納豆
☆モモ(←9年連続!)
☆せんべい
☆冷凍調理食品
☆ティッシュペーパー
☆女性用靴下
☆マスク
☆レンタカー・カーシェアリング料金
☆通信
☆切り花
☆冠婚葬祭費
☆会費・つきあい費
いやいやいや、これなら納豆とは別立てで、Timesさんと組んで「日本一のレンタカー・カーシェアリングのまち」としてPRするのもアリなのでは?
それにしても、なぜ福島市がこれらの品目で日本一なのか、皆さん不思議に感じませんか?
「女性用靴下」とか「ティッシュペーパー」とか、謎すぎる。
「会費・つきあい費」が日本一って、どゆこと?
では、いよいよ謎解きに進もう。
家計調査は全国168市町村(東京都区部を含む)で実施されており、調査世帯数は二人以上の世帯が8,076世帯である。
先ほど「都道府県庁所在地及び政令指定都市のみを対象としている」と書いたが、家計調査自体はより広範囲に行われており、その中の「品目別支出金額」の項目が県庁所在地及び政令指定都市に絞られる形となる。
1年前のデータにはなるものの、2024年家計調査の内訳を確認してみよう。
「家計調査年報(家計収支編)2024年(令和6年)」のうち、「付録」の「1.調査市町村別調査世帯数、調整係数(二人以上の世帯)」を見る。

調査対象(母集団)となった各自治体の二人以上世帯について、ズバリ何世帯が実際に抽出調査されたかが掲載されている。
ギョーザ購入額日本一の浜松市96世帯。
宇都宮市96世帯。
宮崎市96世帯。
福島市も96世帯。
何だか判で押したように96世帯だな。
ほかにも、新潟県であれば、新潟市96世帯、長岡市36世帯、十日町市12世帯、計144世帯。
札幌市、福岡市、96世帯。
大阪市は132世帯、横浜市は144世帯とやや数字が増えて、最大が東京都区部の408世帯。
どうやら、人口規模別に階層を設けて、各市町村の調査世帯数を決めているみたいだ。
抽出の分母となる調査対象世帯は、同じく「付録」の「2.都道府県、都市階級別調査対象世帯数(二人以上の世帯)」でわかる。
新潟県なら、596,614世帯であり、抽出率は「144÷596,614×100」で約0.02%。
全体にだいぶ小さい数字な気がする……が、これらの数値は、日本全国の家計収支や消費の動向を把握し、政策立案の基礎資料にするという調査本来の目的に鑑みれば、精度的に十分足りる中身なのだろう。
さはさりながら。
浜松市にしても宇都宮市にしても宮崎市にしても福島市にしても、たった96世帯の抽出調査を唯一の根拠に、
我が市はギョーザ購入額日本一の「ギョーザのまち」であるぞ!
我が市は納豆消費額日本一の「納豆のまち」だべ!
と豪語するのは、果たしてどうなのか?
いいですか。96世帯ですよ。たったの。
仮に、この記事を読んでいるあなたが浜松市民や福島市民だったとしても、この調査の回答をお願いされる機会は、ほぼほぼほぼほぼほーぼ、ない。
少し考えれば、というか、ほとんど考えずともわかるが、どういったモノやサービスをどれだけ購入するかは、世帯ごと年ごとにまちまちだし、どの世帯が調査されるかによって結果はガラリと変わるはずだ。
例を挙げよう。
2025年の山口市の世帯当たりペットフード購入額が17,975円なのに対し、名古屋市は4,963円。
これをもって、山口市民が名古屋市民の3倍以上、ペットに愛情を注いでいると推定できるだろうか?
あるいは、那覇市は、全般に低い支出額に留まっている品目が多く、最低賃金が全国でもっとも低い水準にあるなどの経済的背景を想起させる。
なのに、2025年だけなぜか「音楽・映像用未使用メディア」への支出額が突出して高い(2024年の約37倍の数値に跳ね上がっている。CD-Rを大量購入した世帯でもあったのか?)。
もちろん、ラーメンやギョーザにまつわる連続日本一が多発したり、特定の品目で特定の市が常に上位にランクインする事態は現実に起きているのだから、そこに何らかの傾向を読み取ることを、頭ごなしに否定はできない。
他方、「◯◯のまち」をスローガンに掲げ、市役所や観光団体が消費推進活動を継続して実施すれば、その宣伝効果によって、
「よし、じゃあ、我が家もひと肌脱ごう!」
「あそこの街まで出かけて△△を食べてみよう!」
といったフィードバックが、全国各地で発生しているとしてもおかしくない。
あらためてまとめよう。
「◯◯購入額」「△△消費額」ランキングは、調査結果を上から順に並べた一覧表としては正しい。
しかし、その実態を掘り下げて検討してみると、現実をどこまでナチュラルに反映しているか、疑問がないとはいい難い。
「◯◯購入額日本一」「△△消費額日本一」の裏面を調査世帯数という切り口から眺め直したとき、
理由や根拠がかなーり薄味な日本一
あるいは、
作られた日本一
ではないかとの疑念が沸々と湧いてくる。
そして、関係者は、
「そんなこと、最初からわかっとるわい!」
なのだ。きっと。
組織の幹部や現場の担当者は、以上のような舞台裏は重々承知のうえで、「踊らにゃソンソン」とばかりに、お祭り・イベント・まちおこしの日本一レースに興じているのだ。ベイベー。
元締めの総務省にしても、ランキング祭りに加勢こそしないにせよ、調査自体にこれといった実害が生じない以上、「あえて野暮なツッコミはしないぜ」というスタンスなのだろう。
嗚呼、もしかしたらぼくは、日本社会の開けてはならない蓋をこじ開け、見てはならない闇の奥にサーチライトを照射してしまったのか。
政府の要注意人物リストに登録され、ある日、新宿駅のホームで電車を待っていたら急に後ろから……おお、ブルブルブル。
視点。
あらゆるものは視点。
視点によって、世界の見え方はいかようにも変わる。
そんな声がニラとニンニクの鮮烈な香りとともに脳裏をよぎる。
ぼくは写真家だ。
シャッターボタンを押すとき、
広角レンズで全体をすくい上げるか、
望遠レンズで一部分のみを切り取るか、
はたまたマクロレンズで思いきり拡大するか、
それらのうちどれを選ぶかで、たとえ被写体は同じでも、見える景色はまったく異なったものになる。
だからといって、どれか一つが正解で、ほかはすべて誤りとはならない。
たった96世帯の調査で「ギョーザ日本一」。
よいではないか!
理由はよくわからないけど「納豆のまち福島」。
どんとこい!
そこには、かすかな蜘蛛の糸をわたってでも「おらがまち」を盛り上げたいという、住民や関係者のたゆまぬ情熱がある。
よくよく見れば足元は危なげかもしれないが、それで「日本一」になれるなら、全国のギョーザファン・納豆マニアから注目を浴びられるのなら、踊って踊って踊りまくろうという密かな決意が籠められている。
多少の「盛り」は許してケロ。
エンタメは虚実皮膜。芸の真髄は「事実」と「虚構」の境界線上にあり。
いや、これはけっして「虚構」ではない。統計調査に裏付けられた紛うかたなき「真実」なのだ。
毎年2月になると、「日本一のギョーザのまちはどこか」が話題に上る。
「不都合な真実」を頭の片隅に、来年のニュースを心待ちにしてみよう。
(ヘッダー画像はGeminiに作成してもらいました)
