第50話 宿題がない?-Assignment 条項
今回は「Assignment 条項」を検討しましょう。
この取引には宿題がない?
この条項は Non-Assignment 条項とよばれることもあります。辞書を見ると ’assignment’ は、「割り当て」「宿題」「任命」などと書いてあります。残念ながらここでの意味はそのどれでもありません。
英文契約書では「譲渡」という意味で使われます。例を見てみましょう。
Neither this Agreement nor any right, title, interest or obligation hereunder may be assigned or otherwise transferred by either party or their assignees, transferees or successors in interest without the prior written consent of the other party.
和訳:
いずれの当事者、又はその譲受人、移転を受けた者、若しくは権利の承継人も、本契約、又は本契約に基づく如何なる権利、権限、利益、若しくは義務を相手方の書面による事前の同意なく譲渡、又はその他の方法で移転してはならない。
どんな行為を制限しているのですか?
’assign’ と ’transfer’ (いずれも動詞)することです。取りあえず「譲渡」と「移転」と訳しておきました。法律では ’assign’ は「権利、債権」を譲渡するとき、’transfer’ は「資産、所有権、株式、動産」を譲渡するときに使われるということに、一応なっています。
しかし、実際にそう明確な境界線があるわけでもないし、契約書でも意識して使い分けられてはいません。’assign(名詞はassignment)’ 1語だけのことも多いです。
譲渡の対象は何ですか?
譲渡する対象(目的物)を見ましょう。ここでは「契約…権利…義務」などとなっています。つまり「権利」も「義務」も対象になるように書いてあります。これはごく一般的な書き方です。
そうすると、「権利も義務も相手の事前の同意なく譲渡してはいけない」という意味の規定だということになります。
もし禁止する規定がないとすれば、権利も義務も譲渡できるのですか?
「権利」について言えば、特殊なものを除いて「同意がなくても譲渡できる」と考えていいでしょう。日本法の債権譲渡を思い出して下さい。とりわけ金銭債権の譲渡は広く認められています。
しかし、「義務」はそうはいきません。義務を相手の同意なく誰かに譲り渡せるということは普通ありません。ですからこれは忘れてもいいぐらいです。
次に上例の最初にある「契約」ですが、契約は権利と義務のセットです。だから「契約を譲渡する」というと、「契約に含まれる権利と義務を譲渡する」という意味になります。でも義務は譲渡できないのですから、権利と義務のセットである「契約」を相手の同意なし譲渡することは出来ないということになります。
結論は?
そうするとこの規定は基本的には、無断で権利や債権の譲渡をしてはいけない、という規定だと言えます。
債権を譲渡されると困る場合
相手方が債権を譲渡したら何か困るのでしょうか。教科書を見ると、次のような場合には、譲渡によって債権者が変わってしまうことに問題がありうる、と書いてあります。
① 債権の内容が特殊なものであるとき。たとえば「ノウハウや、極秘情報の開示を要求する権利」。これは競争相手に譲渡されては困る。
② 金銭債権が、取り立ての厳しい者や、訴訟することを躊躇しない者に譲渡されるのは、好ましくない。
③ 原料を買って、同じ相手に製品を売り戻す取引のように、相殺の機会がありうる場合は、それが失われる。
では「そのいずれにも該当しなければ譲渡を許してもよい」ということになりそうですが、実務では何があるか分からないので、とにかく「事前の同意がなければ出来ない」ということにします。
契約書は万が一にそなえたものである
そこで、譲渡は事前同意を条件とするとして、規定を書くときには「事前の承諾なく譲渡などをしてはならない」と禁止する方法と、「事前の承諾があれば譲渡などをしてもよい」と前向きに書くという、2通りがあります。
契約書で「…をしてもよい、但し…を条件とする」と書けば、基本姿勢は許可と理解され、「…をしない限りは、…をしてはならない」と書けば原則は禁止と考えられます。
契約書は万が一にそなえて用心深く書くものですから、現実の契約書では99%以上が禁止型です。そのときの状況に応じて同意するかどうか決めればよいのだ、と考えれば当然ですね。
でも、その割に条項のタイトルはNon-Assignmentとするより、Assignmentとするのが多いのはどういうわけでしょうか?
