国際契約英文法ー文章の主語は1つに(1)
読みやすい文章にするために―主語の視点から
契約書の文章はいろいろな理由で長くて(基礎からわかる英文契約書 第1話 参照)読みにくいものになりがちです。読みやすいものにするためには、語彙に検討を加える(同 第6話 参照)、簡単な構文にする、箇条書きや数式を導入するなどが考えられますが、そのひとつに文章の主語を1つにしぼるという方法があります。
主語の数で文章が分かりにくくなるのでしょうか?
ではまず主語が4つある例を見てみましょう。
Each Party shall retain the rights … granted to it under this Agreement and no such rights … shall be delegated … in the JSC … unless such delegation … of rights is expressly provided for in this Agreement or the Parties expressly so agree in writing.
和訳:
各当事者は本契約の下で付与された権利を保持しなければならず、またそのような如何なる権利も、移転が本契約中で明文で規定されているか、当事者が明文で書面によって合意するのでない限り、JSCに移転されてはならない。
この文章を読む人は ’ Each Party’ を主語だと認識して、「各当事者にどんな義務が生じるのだろうか?」と読みはじめます。しばらくすると ’and no such rights …’ が出てきます。
’and’ は、語でも、句でも、節でも対等の性質を持つものを「A and B」というようにつなげる語です。そこで読者は「A に当たるものは何だろう?」と考えます。
候補の第一である直前の語群は ’this Agreement’ ですが、ここでは ’and’ のすぐ後に ’such rights’ があるので違うようです。そこで頭はもう少し前に戻って
「the rights … granted to it under this Agreement かな?」
と手探りしてみますがこれも違います。このことは ’ no such rights …’ の後に ’shall’ が出てきたときに分かります。
「あぁ、and の前後で等しいのは ’shall …’ というわけか! ということはこの ’and’ は前半の 'Each Party shall retain the rights … granted to it under this Agreement' 全部と、その後の文章全部をつないでいるんだ!」
とやっと分かります。
このぐらいの長さなら何とか記憶力は持続するでしょうが、もしもっと長い文章だったり、内容が込み入っていたら、’and’ の前後を考えている間に迷子になりそうです。
文法的には間違いはありませんが、読みにくい文章なのです。そのわけは、もうお分かりのように、'and' の前後に主語が2つあるからです。
どうすれば分かりやすくなるのでしょうか
「主語を1つ」にすればよいのです。どのようにして? 2つの文章に分けてしまえばよいのです。(☚これがポイント)
Each Party shall retain the rights … granted to it under this Agreement.
No such rights … shall be delegated … in the JSC … unless …
たったこれだけの工夫で、読みやすくなりました。
なお、後半の文章の一部である ’unless’ 以下についても、実は内部に同じような問題があります。’such … delegation of rights’ という主語に続く部分と、主語の ’the Parties’ にひきいられた部分が、’or’ という接続詞で、並列につながっているからです。
‘and’ や’or’ で安易に文章を長くすることはよくありません
契約書を書くときに、つい「あんまり細切れの文章は法律文らしくないのではないか?」といったことを考えて長くしてしまうことがあります。そんなことはありません。
むしろ一般論として、安易に ’and’ や ’or’ で文書を長くしていくのは、読みやすさを妨げると言えましょう。特に文章と文章をつなぐのは(「重文」と呼ばれる構文です)よくありません。(☚これがポイント)
でも1つの文章でも同じ主語が繰り返し出てくる場合もあるではないか、と思われた方もあるでしょう。次回ではそのことを取り上げます。
