第57話 見出し-Headings 条項
契約書は1つの文章として書かれました!
上の写真は1857年(安政4年)のイギリスの契約書(単語数1,780余り)を、できるだけ実物に似せてタイプしてみたものです(原本は手書き1枚で60㌢×73㌢)。
この契約書は1文として書かれています。1文ですから句点< 。>は、最後尾に1つしかありません。また文中に読点< 、>やコロンなども全くありません。「句読点などに頼らなくても、疑義なく読み下せる」文章を書くことになっていたのです。
それでは読みにくいでしょう!
その通りです。「見出しがなければ!」と言わないまでも、せめて内容ごとに区切ってくれないものでしょうか。
手許に1890年頃のイギリスの契約書があって、これには1、2 …と段落番号がふられています。しかし「見出し」はついていません。実は、1990年代に私が住んでいたロンドン郊外の貸家の契約書ですら、番号だけで見出しはありませんでした。
見出しを付けますが、これは「契約事項」ではありません
詳しい歴史は横に置いておいて、そうこうする内に内容ごとに条項に書き分けた上で、各条項に見出し(’heading’ とか ’caption’ とか呼ばれます)をつけるようになってきました。
しかし法律家は「見出しは合意内容そのものではない」ということにこだわりました。確かにたった1語ないしは数語で、条項の内容を正しく反映させることはできません。親切のつもりで付けた見出しが、かえって契約書の誤った解釈を導かないとも限りません。そこで、わざわざ注記することにしたのです。それが「見出し条項」です。
では順に見ていきましょう
見出しは契約の一部ではありません。
The headings are not intended to be part hereof.
そして:
The headings of this Agreement are inserted only for convenience.
本契約書の見出しは、便宜のためだけです。
さらに:
The captions … are merely for convenience to assist in locating and reading the several Articles and Sections of this Agreement.
見出しは条項を探し当てやすくするためにあるといいます。
いよいよ核心に入りますが、見出しはこの契約書の解釈に影響を及ぼすものではありません。(☚これがポイント)
The headings … shall not affect the construction hereof.
The headings in this Agreement do not affect its interpretation.
ここで ’construction’、’interpretation’ はどちらも「解釈」を意味します。
権利や義務を創造するものではない!
契約書の一部ではなく、解釈に影響を及ぼすものでもない、ということを他の角度から明記した例がありました。ちょっと珍しいものです。
The section headings and captions used herein are inserted for convenience of reference only and will not be construed to create obligations, benefits, or limitations.
和訳:
本契約の条項の見出しは参照の便宜のためだけに挿入されており、義務、権益、又は制限などを規定するものと解釈されてはならない。
というわけで、当たり前のことのようですが、それなりの歴史的背景と理由があって、「見出し条項」があるのです。
