第43話 General Terms and Conditions-交渉の技法(1)
今回から具体的な交渉技法を紹介します。
一方的な条項を相互的なものに
作成者に有利に書いてある一般条項の例のひとつとして「補償条項(Indemnity clause)」を見てみましょう。
代理店契約です。任命する会社が作成した書式にこうありました。
Distributor hereby agrees to defend, indemnify and hold harmless Supplier, and Supplier’s affiliates, employees, officers, directors from and against any and all losses, demands and expenses whatsoever arising out of or in connection with any breach by Distributor of its obligations or any negligent or wrongful act of Distributor in the performance of its duties under this Agreement.
和訳:
代理店は、代理店による本契約上の義務の違反、又は本契約上の義務の履行に当たっての代理店の何らかの過失、若しくは不法な行為に起因し、又はこれに関連して生じることのあるあらゆる損害、請求、及び費用についてサプライヤー、及びサプライヤーの関連会社、従業員、役員、取締役を防御し、補償し、及び迷惑をかけないことに茲許合意する。
代理店としては、「損害、請求、費用」など、及び補償を受ける対象の範囲の制限や、補償義務発生の事由の限定などを求めて交渉するのが、基本的な対応策です。
しかしもう1つの交渉の糸口として、この条項の適用を「相互的」にしてほしい、と要求する方法があります。具体的には次のような条項にしてくれるよう要求するのです。
Each Party (the “Indemnifying Party “) hereby agrees to defend, indemnify and hold harmless the other Party, and the other Party’s affiliates, employees, officers, directors from and against any and all losses, demands and expenses whatsoever arising out of or in connection with any breach by the Indemnifying Party of its obligations or any negligent or wrongful act of the Indemnifying Party in the performance of its duties under this Agreement.
和訳:
当事者(「補償当事者」)は、補償当事者による本契約上の義務の違反、又は本契約上の義務の履行に当たっての補償当事者の何らかの過失、若しくは不法な行為に起因し、又はこれに関連して生じることのあるあらゆる損害、請求、及び費用について相手方当事者、及びその関連会社、従業員、役員、取締役を防御し、補償し、及び迷惑をかけないことに茲許合意する。
契約書を書く人はしばしば「自分側は絶対に契約不履行はしない」と思い込んで書いていますから、相手に厳しいように規定するのです。そのため、その条項がフイに自分の方に向けられると、切れの良さに改めて驚いてひるみます。(☚これがポイント)
その取引で、当事者の立場に特有な義務(例えば売主なら商品の引渡義務、買主なら代金支払義務)を除けば、補償義務はいずれの当事者についても考えられます。それを一般条項では作成者「専用」の如く書いてあるだけなのです。ですから相互的にしてくれという要求は少しも理不尽ではありません。
もちろん作成者側は受けられないと言って、もっともな反論をしてはくるでしょう。そこを「何があるか分かりませんから…」とか、「可能性がないなら書いておいても害はないでしょう…」と食い下がるのです。相手は自分に適用されることも想定しつつ、修正に応じてくれる可能性があります。
本体との矛盾を指摘する
一般条項というのはあらかじめ作ってあるものですから、ときには個別の取引のための条件とのあいだに齟齬が生じることがあります。
相手の作った契約書の矛盾を指摘することは、精神的に「一コマ」進めることになります。相手は「よく読んでいる。手ごわい相手だ」と感じます。そこを上手に利用するのです。
大手買主 B と売買基本契約を交渉しているとします。本体契約交渉時には「商品に欠陥があったときは、売主 S は修理、又は交換する義務を負う」と合意しました。ところが B の一般条項には「商品の欠陥の場合は、買主の選択に従って、売主は修理、交換、又は商品代金の返還に応じ、いずれの場合も買主の被った損害すべての賠償義務を負う」とあります。
売主 S としては一般条項の変更を要求します。買主 B は「個別に合意した事項と、一般条項の記載に食い違いがある場合は、個別条項が優先するという法原則がありますから、ご安心ください」と言ってくるでしょう。
安易に「ではそういうことで」と言ってはいけません。ここが交渉のしどころです。「ちゃんと白黒をつけて、一般条項の該当部分を修正して下さい。そうでなければ全部を削除して下さい」と言い張るのです。(☚これがポイント)
正しいことを主張しているのだから相手の担当者は困ります。特に買主 B が大組織だと、一般条項を書き換えるのには、大変な手間がかかるからです。最終的には「個別の合意は一般条項に優先する」という条項を挿入することで落着するかもしれませんが、とにかくどんどん指摘して相手を困らせることが必要です。
