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第48話 使わない権利は錆びる-Waiver 条項

今回は「Waiver 条項」を取り上げます。上はその一例ですが、分かりにくいですね。

Waiver って waive する人のことですか?

動詞に ’or’ や ’er’ をつけると能動的に「~する人」になり、それに対して ’ee’ がつく人は受動的に「~される人」、又は「その人のために何かが与えられる人」を指します。

技術情報の使用許諾をする人を ’licensor’、許諾される人は ’licensee’ と呼びますね。

Waiever は行為です

ところが ’waiver’ は「権利を放棄する」を意味する ’waive’ という動詞からきてはいますが、ここでは ’waiveすること’ をいいます。
 
er’ という語尾がついていますが、「行為者」を指すのではなく、抽象名詞として「行為」を意味するのです。法律の世界でもしばしば見かける用法です。契約書に「義務を否認する、責任をもたない」という意味の ’disclaimer’ といった例があります。

何だかよく分からない obligee、mortgagee、retiree、attendee etc.

or/ee に戻りましょう。この用法を知っている人でも、きっと ’obligee’ や ’mortgagee’ といった言葉に、感覚的につまずいたことがあるのではありませんか。それぞれ「債者」「担保者」を意味します。相手が義務を負う人で「自分は負われる人」、相手が担保を差し入れる人で「自分は担保の利益を与えられる人」と考えれば分かります。

でも債権者や担保権者の立場は「義務を負わせる人」「担保を要求する人」なので、’or’ が付きそうなのに、’ee’ がつくということについて読み慣れるのに時間がかかります。
 
'retiree' はどうでしょう。「退職者」です。'retire' (退職する)に 'ee' が付いて出来たというのですが、どういう説明なのでしょうね?

議事録に出てくる ’attendee’ にもひっかかります。これは「会議の出席者」という意味です。よく分かりませんね。出席させてもらう人じゃないし? もっともオクスフォード辞書(オンライン)によると、これは北米英語で、英国では ’attender’ というのだそうです。これなら許せますが…。

権利放棄条項があるわけ

本題に戻りましょう。例を2つ見て下さい。

例1. 売買契約で引き渡された商品が仕様を満たさなかったら、英国法上は契約を解除できます。しかし何となくグズグズして、不問に付していたとします。そのようなときには買主が「解除権の放棄(’waiver’)」という選択をした、と見なされることがあるのです。
 
例2. 賃貸借契約で「毎月月末までに翌月の家賃を払うべし」となっているのに、店子はいつも数日遅れて支払っていたとします。ところが家主の方もどういうわけか、うるさいことは言わずに遅れた家賃を受け取っていました。しかし1年ぐらいして、いつもの遅延があったときに突然「期日通りの支払がなかったから契約解除だ、出ていけ!」と宣言したとします。店子は当然「今まで何も言わなかったのに、何を今回に限って。要するに数日ぐらい構わないってことでしょう!」と抗議するでしょう。

いずれも困りますね。例1では、買主としては解除権を放棄したと扱われないように、また例2では、家主は「今までと今回は別だ。お前にそんなことを言う権利はない!」と言えるような契約文言にしておく必要があります。
 
そこで「権利の不行使や行使遅延があっても、その権利の放棄にはならない。またその条項の後日の違反に対する権利の放棄にもならない」というようなことを、持って回ったむずかしい文言で書いたのがこの条項なのです(具体例は画像を参照して下さい)。

Waiver ですか No Waiver ですか?

こういうわけで、この条項は「権利放棄」に関する規定という意味では ’Waiver’ と題されることもありますが、「権利の放棄はしない!」という意味で ’No Waiver’ と題されるのもむべなるかなですね。
 
念のために付け加えておくと、文言通りの効力が認められるかどうかは、やってみなければ分からないというのが正直なところです。でも入れなければきっかけがないのですから、やはり書いておく意味は大いにあります。

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