見出し画像

超・K字型経済となる中国④:0.6元ネットカフェと現代版「三和ゴッド」

このシリーズでは極端なK字型経済へ移行している中国の姿を解説しています。

これまでに「救済されない不動産業」「一発逆転市場の拡大」「中間所得層の脱落」といった現象を「K字型経済」という糸で繋いできました。

今回は、これらに続く以下の根拠を提示します。

事例④:K字型経済はトリクルダウンが働かない

トリクルダウン理論とは「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる」とする経済理論である

トリクルダウン理論

Wikipedia にあるように、そもそもトリクルダウンは実証研究では支持が弱い理論ですが、K字型経済ではさらに起きにくいと筆者は考えます。

今回、紹介するのは 1時間 6毛(0.6元、約15円)のネットカフェで暮らす人々の姿ですが、安田峰俊氏による 2017年の記事と比較すると、その違いが鮮明に伝わると思います。

当時の深圳は「三和ゴッド」と呼ばれる日雇い労働者がネットカフェに溢れていました。

かつては企業が投資をすれば、末端の工場や建設現場に日雇い労働という形で富が落ちました。三和ゴッドたちは「1日働けば3日遊べる」という形でトリクルダウンの恩恵を享受できたのです。

それに対し現在の下層労働者の主要な受け皿は、フードデリバリーなどのギグワークに移行しました。ここではアルゴリズムによる管理と単価の切り下げが行われ、景気が良くても富が末端の労働者まで行き着きません。

今回は現代の「三和ゴッド」、K字型経済の底辺のリアルを紹介します。

6毛ネットカフェの「どん底人生」

“六毛网吧”里的“挂壁人生”

夜中の12時、私はタクシーで貴州省のある通りに降りた。辺りには人影がなく、霧が薄く立ち込めていた。ぼやけた街灯を頼りにしばらく目を凝らすと、ある建物にネットカフェを見つけた。

舞台とされる場所

エレベーターで3階へ上がると、廊下の突き当たりにネットカフェがあった。扉の向こうからは喧騒が聞こえ、タバコの煙が立ち込めた空気はどんより重かった。私は50元分のネット料金をチャージした。フロントの若い女性スタッフから、身分証明書と現住所を登録するよう求められた。

「ネットをするだけで、戸籍を確認するの?」
私が聞くと彼女は申し訳なさそうに苦笑いした。
「うちはちょっと特殊なんです」

この店には、もう一つのあだ名がある。
「六毛ネットカフェ」

超格安の料金を武器に、ここは多くの人々が長期に寝泊まりする拠点となっている。オーナーの老張(ラオ・ジャン)は、ここを「兄弟たちの臨時避難所」と呼ぶ。

店内には約200台のパソコンがあり、料金は4つのランクに分かれている。

1時間あたり0.6元の席が10台、0.9元の席が30台。残りは1.2元と1.8元の席。ここの住人たちは、4つのランクをそれぞれ

  • 難民区

  • 平民区

  • 成金区

  • 大富豪区

と呼んでいる。安さに加え、6毛ネットカフェのもう一つの特色が、オーナーによるライブ配信だ。視聴者は配信者チャンネルを通じて投げ銭を贈り、店内でネットをしている客に飲料や食べ物、タバコなどの物資を差し入れすることができる。

私は0.9元区の空席を見つけて腰を下ろした。30分後、老張が電動バランススクーターに乗って入り口から滑り込んできた。手にはスマホがセットされたスタンドを持っている。

「さあ兄弟たち、物乞いを始めるぞ」

投げ銭

配信者チャンネルにくる視聴者のことを、老張は太っ腹なリスナー(大兄貴)と呼ぶ。大兄貴たちによる投げ銭の対象は気まぐれだ。特定の座席を指定することもあれば、居眠りしている誰か、あるいは特定のゲームをプレイ中の客を指名することもある。

多くの場合は出身地ごとに投げ銭が行われる。大兄貴が配信画面で「〇〇省はどれくらいいる?」と尋ねると、老張は集計した数字を読み上げる。

「広西が2人、広東が2人、湖南が4人、湖北が6人、河南が3人、山東が2人…」

老張は地域対抗の心理を煽って大兄貴を刺激する技に長けている。
「湖北の兄弟たちは腹いっぱいになった、江西の兄弟たちは飢え死にしそうだ!」

同じ省の人間が一斉に奢らされる様子は、いかにも羽振りがよく聞こえる。老張が大声で叫ぶ。

「〇〇の兄貴から、湖南の兄弟全員にソーセージの差し入れだ!」

投げ銭で得る物資を配る際、老張は「これは〇〇兄貴からの心のこもったギフトだ」と言って手渡す。受け取る側は立ち上がって物資を受け取り、カメラに向かい大兄貴へお祝いの言葉を述べなければならない。よく使われるのは不老長寿を祈る「永遠に死にませんように」といった言葉だ。

時折、大物の大兄貴が現れ、老張に指示を出すことがある。

「腹が減っている奴らをカウンターに集めろ」

これは炊き出しの合図だ。大兄貴を祝福した者全員に、一杯のビーフンかチャーハンが振る舞われる。

このネットカフェに女性客が来ることは滅多にない。私が店に行った初日、老張は配信者チャンネルで「今夜はネットカフェに可愛いお姉さんがいるぞ」と客寄せのネタにした。

大兄貴たちが詳しく問い詰めると、老張はこう返した。

「手ぶらで彼女の席へは行きませんよ」

大兄貴が女性に好奇心を抱くたびに、老張の元にはギフトが届いた。その結果、一晩で私は7〜8本の飲料、5〜6袋のスナック菓子、宿泊セット1つを受け取ることになった。

ある夜、老張が私のところにレッドブルを1本持ってきた。

「お姉さん、うちの企業文化を知ってるかい?」
「永遠に死にませんように、でしょ」
「じゃあ『足が痛い』ってのがどういう意味か分かるか?」

私がぽかんとしているのを見て、老張は言った。

「立ち上がれってことさ」

その時初めて、大兄貴に感謝を伝える時は起立しなければならないと気づいた。それからはギフトを受け取るたび、ただ決まりきったテンプレ文章を言うのをやめ、誠心誠意のお礼を伝えるようにした。

その夜、私が受け取った投げ銭は以前の2倍に跳ね上がった。

大兄貴たちは態度を重視する。私が耳にした中で最も長い祝言は1分近く続いた。「一」から始まって「万」に至るまでの祝賀の早口言葉を披露し、周囲の人間もみな手を止めて彼を見つめていた。

中には、投げ銭を拒否する者もいる。そんな時、老張はスマホの画面に向かい視聴者をなだめる。

「大兄貴、気にしないでくれ。この兄弟は差し入れはいらないそうだ」

老張は早足でカウンターへと戻りながら、こう呟いた。

「まだ社会の洗礼を浴びたことがないんだな」

退路

ネットカフェには窓がなく、中にいると昼夜が分からなくなる。店内が騒がしくなり、席が人で埋め尽くされると夜が近づいている証拠だ。

フロアにいる者たちは皆、配信者チャンネルからの差し入れを待っている。ネットカフェの食べ物といえば、焼きソーセージ、カップ麺、チャーハン、ビーフンくらいしかないのに。

ある時、私が夜の8時にご飯を食べに行こうとすると、隣の男が驚いた顔で言った。

「もうすぐ配信が始まるのに、外食するのか?」

深夜になってようやく、デリバリーの配達員が店内に現れるようになる。差し入れをもらえなかった者たちが、次々と食事を注文し始めるのだ。

ネットカフェが最も静まり返るのは午後だ。人が少なく席にいる者の半数は眠っているため、誰かの鼻歌が聞こえるほど静かだ。歌っているのは、あのめでたい長台詞を披露した男だった。2日後、彼の席には別の人間が座っていた。金が尽きて仕事を探しに行ったらしい。

6毛ネットカフェの住人は、そう簡単にログアウトしない。たとえ本人が席を離れていても、パソコンは点けっぱなしにされている。エリアに空きPCが出ることは滅多にない。私の席は、偶然が重なって手に入ったものだった。

店に来たばかりのとき、適当な空席に座ると、フロントの若い女性スタッフがやってきて、そこは他の人の席だと言った。すると左隣に座っていた江皓(ジャン・ハオ)が助け舟を出してくれた。

「こいつ、2日も来てないぜ。ログアウトさせてやりなよ」

江皓は私が店を訪れた時点で、すでに37日間連続でネットをしていた。今年34歳、重慶出身で、少し小太りの体型。口数は少ないが、このネットカフェにおける生き字引だった。

105日連続の例

江皓の前にあるディスプレイには、5つのゲームが並んでいる。すべて中国の定番MMORPGだ。彼はこのゲームで生計を立てており、1日に15〜16時間プレイしてゲーム内通貨や素材を売ることで収入を得ている。通常は1日に100元、少ない時は数十元、多い時なら300〜500元稼ぐこともある。

「収入は工場と大差ないよ。工場で働いても月給はせいぜい3,000元ちょっとだからな」

20代の頃、江皓は広州で期間工として働いた。数ヶ月働いて少し金が貯まると、ネットカフェにこもってゲームをし、金がなくなると工場へ戻る。30歳を過ぎてからは重慶でフードデリバリーの配達員をした。始めた当初は1件あたりの配達料が5〜10元だったが、その後は一律4元にまで値下がりし、1日働いても100元ちょっとしか稼げなくなった。

「キツすぎるよ」

四川出身の鉄窓(ティエチュアン)がプレイしているゲームは装備をドロップして稼ぐ仕組みだ。モンスターを倒して装備を手に入れ、それを売ってゲーム通貨に変え、それを人民元に換金する。鉄窓は1日に数十元を稼いでいる。さらにモンスターを倒すと限定装備が落ちることがあり、最も高価な武器の買い取り価格は8,400元になるが、ドロップ率は極めて稀だという。

シノギを始めて1週間、鉄窓が手に入れた限定装備は1つだけで、その価値は144元だった。ある日の夜、鉄窓はゲームのレベリング代行の注文を受け130元を稼いだ。

彼は顔をほころばせて言った。
「毎日これくらいの稼ぎがあれば、ずっと続けていけるんだがな」

以前、彼は仕事を求めて全国を渡り歩き、新疆でトンネルを掘ったり、北方の建設現場で鉄筋工をしていた。年越し前、彼はわずか1000元を握りしめ、このネットカフェへやってきた。それまでの稼ぎはすべて実家の借金返済に充てていたのだ。

私が鉄窓になぜまともな職に戻らないのかと尋ねると、彼はきっぱりとこう答えた。

「キツいからだよ」

ネットカフェに生きる

6毛ネットカフェの女将は、ここに住み着いている連中へ部屋を借りるよう勧めることがある。

「月100元か200元も出せば部屋が借りられるんだから、そっちの方がずっといいじゃない。四六時中ネットカフェにいたら体がもたないわよ」

しかし、勧められた側はたいてい適当に生返事をするか、煩わしそうに言い逃れをするため、彼女はすっかりお手上げ状態だ。

私の右隣に座る杜家德(ドゥ・ジャダー)は部屋を借りない派だ。湖北省の出身で、今年37歳。4人兄弟の次男だ。小学5年生を修了する前に出稼ぎに出て20年以上も社会の底辺を渡り歩いてきた。最初は屋台の手伝いから始まり、10代の頃はネットカフェの店員をやった。その後はいくつものゲームでレベリング代行をこなした。

昼間はレベリング代行で稼ぐ

彼の友人たちは、地元で商売をしているか会社員をしており、養うべき妻や子がいる。杜家德にもかつては結婚のチャンスがあった。30歳の時、近くの村の女性と見合いが成立し、結納金として8万8000元を支払い、10万元をかけて披露宴をした。

しかし彼の母親が、新居の購入費用の半分を新婦側に負担するよう要求したことで、破談になってしまった。彼は両親とは絶縁した。そして、もう二度と結婚するつもりもない。

「若い娘を探すのは金がかかりすぎるし、バツイチを捕まえたら他人の子供を育てる羽目になる。もう21世紀、結婚しない奴なんてごまんといる」

程文(チェン・ウェン)は、ここに集まる人間の酸っぱい生ゴミのような臭いを嫌悪している。彼の席はカウンターに近いため、大兄貴へ感謝するため皆が集まるたび、その悪臭で息ができなくなるという。

彼はネットカフェの環境にすっかり失望していた。

「ここはロクでもない奴が多い。ペテンや泥棒ばかりだ」

彼はこのネットカフェでスーツケース、靴、ズボンを盗まれ、さらに誰かが勝手に自分のカミソリを使っているのを見つけた。そのため、彼は月150元でネットカフェの近くに部屋を借りた。

彼にとって、自室は心身を落ち着けられる唯一のとりでだ。

「自炊用の鍋が届いたら、もうネットカフェには来ないよ。家で小説を書くのに専念するんだ」

善と悪

程文が書いている小説は、ウェブ小説でシステム小説(系統文)と呼ばれるジャンルだ。世界にはシステムが存在し、主人公は任務をクリアすることでシステムから報酬を得て、レベル上げやモンスター討伐をするストーリーである。

程文の小説に登場するシステムは「宇宙善悪システム」という名で、彼は自身に表現欲求があり、社会を風刺したいのだと語る。

「底辺の悪意をあまりに多く見てきたし、善意もいくつか目にした」

程文が考える最大の悪は、生みながら育てない(生而不养)ことだ。彼は幼い頃から祖母と暮らし、両親は他省へ出稼ぎに出て、彼にほとんど関心を持たなかった。両親に関する僅かな記憶は、例えば何か過ちを犯すと激しく殴打されるといった具合で、どれも暗く、悪夢のようだった。

程文が15歳の時に祖母が亡くなった。彼が両親に生活費を求めると、母親は出し渋った。

「母は私に出稼ぎさせることを望んだのです」

両親の無関心は、彼に強い劣等感を植え付けた。恋愛をする勇気がなく、自分なんか相手に釣り合わないと思い込み、結婚など到底考えられなかった。これまでに工場作業員、配達員、用心棒など様々な職業を転々としたが、お金はまったく貯まらなかった。

労働は彼にストレス発散の爆買いを促した。彼はいつも他人が決めたルールで生きており、お金を使っている時だけが自由だと感じていた。2025年の年末、工場で1日12時間以上働いていた彼は、そんな繰り返しに突如として耐えられなくなり、頭を打ち付けて死んでしまいたいと思った。

そして彼は過去を断ち切る決意を固め、このネットカフェへとやってきた。

程文にとって、小説を書くことはゲーム以外のもう一つの自由だった。彼が構築した世界で彼は自由でいられる。彼の小説の主人公はギターを弾き、技術を学ぼうとする。私は彼の小説の5章目まで読んでから、彼に言った。

「あなたの小説の主人公は、他のウェブ小説と違って、文芸青年っぽいね」
程文はきっぱりと否定した。
「ただの負け組ですよ」

程文は生活費を抑えるため、部屋で自炊をすることを決めた。ネットカフェから出た翌日、程文は何人かの友人を呼んで飯を食わせた。程文は友達が少ないと言うが、自ら進んで人と話す性質だった。

動画配信者の拾酒(シュージュウ)がドキュメンタリー撮影のためにネットカフェを訪れた際、自分の部屋を最初に案内したのも彼だった。

拾酒が撮影したドキュメンタリーはネットで1000万回以上再生され、ネットカフェには大量の注目が集まった。これ以上トラブルが起きるのを嫌った女将は、店の入り口に「取材・撮影禁止」の紙を貼り出した。

女将はため息をつきながら言った。

「こんな場所になるとは思いもしませんでした。本当に多くの人が遠方からやってきます。仕事を紹介してほしいと頼む人や、帰りの切符代が欲しいと求めてくる人もたくさんいて、私たちはその都度お金を渡してきました。私はいつも彼らに『お金を使い果たす前に仕事を探しなさい』と声をかけています」

オーナーの老張もかつて、ライブ配信中にこう語っていた。

「たった数毛(十数円)のネット代を、お前たちが人生を腐らせる免罪符にするんじゃないぞ」

老張がネット料金を値下げしたのは、コロナ後の冷え込んだ経営環境に対抗するためだった。経営圧迫に苦しむなかライブ配信を始め、現在の形式へと行き着いた。これは一見、誰もが損をしない構図に見える。

ネットカフェは値上げをせず持ちこたえる
利用客は低コストで生活できる避難所になる
視聴者は「どん底人生」の生きた標本が見られる

ネットスラングにおけるどん底(掛壁)とは、定職がなく、人生が限界状態で停滞している様子を指す。かつて深センの三和ゴッド(三和大神)が社会的な議論を巻き起こして以来、どん底人生を撮影・記録する個人メディアは、驚異的なアクセス数を稼ぎ出してきた。

人々は、こうした転落や停滞を巡る物語から、何かを探し出そうとしているかのようである。

命の恩人

「大兄貴に感謝する時、それって本心なの?」
 
私は多くの人にこの質問を投げかけてみたが、返ってきた答えは三者三様だった。「当然そうだ」と返す者もいれば「くれるって言うならもらうだけ」という者もいた。

投げ銭をする人間が心の中で何を考えているのか、それを知る術はほとんどない。

ある大兄貴は、男たちに腕立て伏せをさせるのを好む。また、特定の人物に執着する大兄貴もいる。K兄貴は配信者チャンネルにくるたび、いつも決まって25歳の若者を気にかけていた。彼がかつて感謝の言葉を述べる際、目の前に垂れ下がった髪をフッと振り払った。その仕草が、なぜかK兄貴の琴線に触れたのだという。

大兄貴たちが気にかける別の有名人が、小胡子(小髭の男)だ。ヤギ髭を生やしていることからそう呼ばれている。夜の配信では、いつも真っ先に小胡子に飯の差し入れが入る。オーナーも彼を客寄せのネタにするのがお気に入りだ。

「小胡子のコーラがまた空っぽになっちまったぞ。誰か継ぎ足してくれる大兄貴はいないかい?」

実際のところ、小胡子はコーラを飲まず、すべて仲間に分けていた。それでも彼の感謝の言葉は実によく馴染む。

「ありがとな、大兄貴。あんたは命の恩人だ」

私は小胡子に尋ねた。
「どうしてそんなにたくさんの大兄貴があなたを気にかけるの?」
彼は笑ってこう言った。
「俺の顔がめでたく見えるんじゃないか」

小胡子が小学生の頃、父親が重病で他界し、母親は再婚した。中学生になると、教師を殴り、頑なに謝罪を拒否したことで退学処分になった。28歳で見合い結婚をしたが、半年後、妻はオンラインカジノで20万元を溶かし、実家に逃げ帰ったまま戻らなくなった。

彼は結婚詐欺として裁判を起こし、結納金の一部を取り戻した。離婚後、母親から甲斐性なしと責められた彼は、家を出ていくよう告げられた。そして何も持たずに家を飛び出し、二度と戻らなかった。

小胡子は自嘲気味にこう語る。
「俺は大兄貴にとっての電子ペットだ」

大兄貴が仕事を紹介しようかと持ちかけると、小胡子はこう返した。

「働かなくたって貧乏なだけだけど、働いてもキツくて結局は貧乏だよ」

大兄貴が紹介してくれる仕事が、必ずしも自分に合うとは限らないことを彼は分かっているのだ。彼が一番好きなのは警備員の仕事だ。

「座ってゲームができるからね」

私は小胡子を通じてこの大兄貴と連絡を取り、なぜ投げ銭をするのかと尋ねてみた。すると大兄貴はこう答えた。

「金が余って使い道がないだけだよ」

今年の 3月下旬、その大兄貴が小胡子に「数日間ネットカフェへ遊びに行く」と伝えてきた。この店には、時おり大兄貴たちが人生経験のためにやってくることがある。彼らは来ると老張が経営しているホテルに泊まり、顔馴染みの兄弟たちに飯を奢るのだ。

その日の夜、小胡子はゲームに夢中になるあまり、大兄貴からの焼きソーセージの差し入れを断ってしまった。大兄貴は罰として彼を一晩中飢えさせることにし、彼の両隣に座っている者たちに差し入れた。

翌朝早く、小胡子はネットカフェを去った。
店の誰にも、どこへ行くのか告げず出て行った。
そして彼の座席は、すぐまた新しい顔ぶれによって埋められた。


現在、こういった「六毛ネットカフェ」は全国のあちこちにでき、困窮した人々の仮の住処となっているようです。

冒頭に紹介した「三和ゴッド」と同じネットカフェという空間でありながら、その環境を取り巻く社会は激変しています。

次回は最終回、K字型経済の上方はどうなっているのか、その様相を紹介します。

いいなと思ったら応援しよう!

上海在住のえいちゃん チップのご検討をいただき、ありがとうございます。 いただいたチップは全て記事を書くための費用として使わせていただきます。