第6節 経済成長期の組織倫理という補助線
ここまで見てきたゴレンジャーからバトルフィーバーJに至る道のりを
振り返ると、一つの誘惑的な問いが浮かび上がってくる。5人がそれぞれ
異なる役割を担い、力を合わせて一つの敵に立ち向かうという戦隊フォー
マットは、単なる娯楽上の工夫だったのだろうか。それとも、経済成長期の
日本社会が理想としていた組織像---個性を殺してでも集団に献身する「企業戦士」---を、無意識のうちに反映したものだったのだろうか。
この誘惑には、確かに一定の説得力がある。『ゴレンジャー』が放送された1970年代は、日本において「企業戦士」や「モーレツ社員」という言葉が
広く流通していた時代であるとされる[i]。1979年には、欧州共同体(EC)
委員会対外関係総局長ロイ・デンマン(Roy Denman)が記した内部メモが流出し、日本を「ウサギ小屋に住む仕事中毒者の国」と評していたことが
明るみに出ており(この逸話はしばしば『対日経済戦略報告書』という公式報告書の一節として紹介されるが、実際には報告書ではなく個人による内部文書の漏洩に由来する)[ii]、1980年代末には栄養ドリンクのCMで「24時間戦えますか」というコピーが流行語となった[iii]。個人が私生活を犠牲にしてでも組織に尽くすことが、美徳として---少なくとも一種の社会現象として---広く共有されていた時代に、5人の若者が私生活を投げ打って悪の組織と
戦う集団ヒーローが人気を博したという符合は、確かに目を引く。
しかし、この「戦隊フォーマット=集団主義の反映」という読み方を採用
する前に、慎重な検討が必要である。心理学者の高野陽太郎(東京大学名誉教授)は、「日本人は集団主義的で、アメリカ人は個人主義的である」という、日本人論において広く流通してきた通説そのものを、実証的な国際比較研究によって検証している。その結論は、この通説が事実によって支持されないというものだった[iv]。高野によれば、「日本人=集団主義」論が広く
流通した背景には、太平洋戦争と、1970年代から80年代にかけての日米貿易摩擦という、二つの歴史的文脈がある。とりわけ貿易摩擦のさなかには、
日本政府の指導のもとで日本全体が一つの企業のように輸出攻勢をかけて
いるとする「日本株式会社」論が唱えられ、「日本人=集団主義」論は、
いわば「日本叩き」の基本理論として機能した[v]。つまり、「集団主義的な日本人」というイメージそのものが、実証に基づく文化的本質ではなく、
対外的な政治的緊張のなかで構築され、強化されてきた言説だった可能性が高いのである[vi]。
この点を踏まえると、戦隊フォーマットを無批判に「経済成長期の集団主義の反映」と結論づけることには、二重の危うさがある。一つは、「企業
戦士」「モーレツ社員」という呼称自体が、経済成長期全体を通底する不変の精神性というより、1969年の丸善石油「モーレツ」CMや、1988~89年のリゲイン「24時間戦えますか」CMなど、この種のキャッチコピーが
社会的に流行した時期と軌を一にして広まった、時代限定的なレッテルに
すぎないという点である。もう一つは、その背後にある「日本人は集団主義的である」という前提そのものが、日本社会の内側から自己認識として
育まれたものというより、対外的な摩擦のなかで構築された、いわば輸入
されたステレオタイプだった可能性があるという点である。
したがって、ここで言えることは、次のような、より慎重な形にとどまる。5人の若者が役割を分担しながら悪と戦うという物語が、私生活を犠牲に
して組織に尽くすことが肯定的に語られた時代の空気と、まったく無縁に
生まれたとは考えにくい。しかし、その符合を「戦隊フォーマットは日本人の集団主義的な国民性を映し出した」という因果関係にまで一足飛びに結びつけることは、実証的な裏付けを欠いた飛躍であり、むしろ「集団主義的
日本人」という、それ自体が政治的に構築された言説を、無批判になぞる
ことになりかねない。戦隊フォーマットと同時代の組織倫理との関係は、
確かな史料的因果関係としてではなく、あくまで両者が同じ時代の空気を
共有していた可能性がある、という留保つきの補助線として位置づけておくのが妥当だろう。
[i] 電通総研「若者×働く」調査、2015年8月13日発表。「企業戦士」「モーレツ社員」という言葉について、電通総研は「高度成長期に仕事に熱中する、企業のために粉骨砕身で働くサラリーマンの像を表した言葉」と説明している。ただ、この2つの言葉は高度成長期(1954~73年)の後まで使われているので、本文では「1970年代」とした。
[ii] 渡邊啓貴「多国間枠組みの中の日欧関係」国分良成編『日本の外交 第4巻 対外政策 地域編』岩波書店、2013年、201-218頁。同論文の英訳版が日本国際問題研究所(JIIA)Japan Digital Libraryで公開されており、原文には「The year 1979 was highlighted by the leak of an internal EC document referring to Japan as a nation of ‘workaholics’ living in ‘rabbit hutches.’」とある。
[iii] 「第6回(1989年)授賞語 流行語部門・銅賞」「現代用語の基礎知識」選 新語・流行語大賞 公式サイト。
[iv] 高野陽太郎「「日本人は集団主義」という幻想 じつは根拠なんてなかった…?」現代ビジネス、2017年8月8日。
[v] 高野陽太郎「『日本人=集団主義』論という危険思想 こんなに大きかったビジネスへの衝撃」現代ビジネス、2017年9月19日。
[vi] 同上。
