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第3節 怪人の身体――寓意と制約のあいだ、そして踏み越えてはならない一線

第1節で見た通り、石ノ森章太郎は仮面ライダーとショッカーの対立を、「自然からの使者」対「歪んだ科学文明」という構図に位置づけていた。
この構図は、怪人たちの身体そのものにも刻み込まれている。動物・昆虫・植物の力を外科手術によって移植された怪人の姿は、自然を歪め、道具化
する文明への批判を、視覚的な水準で体現していると読むことができる。

しかし、この寓意的な読みだけでは説明のつかない事情も残る。ショッカー怪人「さそり男」[i]は、石ノ森自身による検討用デザインの段階では、
サソリの大きな尾を人体に組み合わせた造形であったが、最終的には造形の都合により変更されている[ii]。怪人の身体は、まず何よりも、着ぐるみと
して実際に俳優が着用し、動き、壊れずに撮影に耐えうる立体物として成立しなければならない。文明批判という主題は、この物理的な制約の枠内で
しか表現され得なかった。

同時代のピー・プロダクション『スペクトルマン』は、この「怪人の身体=文明批判」という構図を、より明確な意図のもとで先鋭化させた例である。毎回登場する怪獣の多くは、ヘドロから生まれ人間を骨にする猛毒を撒く
ヘドロンなど[iii]、当時社会問題化していた公害そのものを主題とする「公害怪獣」として造形された[iv]。もっとも、この明確な社会的メッセージは、
スポンサーの反感を買い、番組名(『宇宙猿人ゴリ』から『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』への変更)を余儀なくされる一因ともなっている[v]。怪人の身体を通じた文明批判は、その意図が明確であればあるほど、商業的な
軋轢を招くという緊張関係を、この事例は示している。

したがって、怪人の身体は、(a)文明批判の寓意としての側面と、
(b)着ぐるみという物理的制約、(c)スポンサーとの商業的緊張関係、という三つの力学が同時に働く場所として理解すべきである。この構図は、
第1節で示した「思想・時代・制作事情」という三層構造と、正確に対応
している。

もっとも、怪人の身体が担いうる意味は、常に制作者の意図の範囲内に
収まるとは限らない。時に、それは制作者の予期しない形で、社会が抱える集合的な傷に触れてしまうことがある。

『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」(1967年12月17日放送)に登場したスペル星人は、母星における核実験で血液を侵され、地球人の血液を求めて襲来する「吸血宇宙人」として設定されていた[vi]。放送当時から3年間、この回が問題視されることはなかった。ところが1970年10月、小学館の学年誌の付録にスペル星人の異名として「ひばく星人」という表記が掲載されたことをきっかけに、被爆者団体からの抗議活動が起こる。出版社と制作会社は謝罪会見を行い、再放送中だった第12話は放送休止となり、資料集の表記も改められた。一時は沈静化したものの、翌1971年に『ウルトラファイト』へスペル星人が再登場したことで再び抗議を招き、以降、この回は封印されている[vii]

この経緯は、怪人・宇宙人の身体が「歪んだ文明」の寓意として機能する
装置であることの、いわば裏面を示している。核実験の被害者という設定
そのものは、文明批判というジャンルの主題と地続きのものであったはずだが、その身体表現が、現実に存在する被爆者という集団の記憶と不用意に
重なってしまったとき、寓意は寓意であることをやめ、当事者を傷つける
表象へと転化してしまう。怪人の身体は社会を映す鏡であると同時に、その鏡が、触れてはならないものに触れてしまうこともある――これは、単なる制作上のミスというより、怪人の身体という装置そのものに内在する危険性として捉えるべきだろう。

次節では、この「怪人の身体」という匿名的な装置から一転して、悪役自身に固有の感情や動機が与えられていく過程――共感できる悪役の登場――を見ていく。



[i]さそり男」仮面ライダー図鑑。
[ii] 幕田けいた「理解者だった姉の死、時代を先取りした設定で打ち切り… 早熟の天才・石ノ森章太郎がヒットを生み出すまで」Pen Online、2023年3月18日。この記事には石ノ森のデザイン画が載っている。
[iii] フランシス硝子「公害怪獣はこんなにいた!ゴミや環境問題の怪獣・怪人」ecotopia、2021年9月8日。
[iv] 石原久稔「半世紀前の奇妙な特撮。『ゴリ』から『スペクトルマン』へ、放送中にタイトルが変更…?」マグミクス、2021年4月5日。
[v] 同上。
[vi] 牧史郎「遊星より愛をこめて~幻の「第12話」をもとめて」『どよう便り』第35号(特別号)、科学と社会を考える土曜講座、2000年7月。
[vii] 福町知弘「ウルトラファイト放送順の考察:本放送/再放送と福島県1971年放送」ブログ「ふくらみ」、2022年3月31日。

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