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第4節 組織なき共食いという発明――龍騎のライダーバトルが本当に新しかったもの

前節の最後で触れた通り、龍騎のライダーバトルという設定が仮面ライダー史においてどこまで本当に新しかったのかを、ここで改めて検証しておきたい。「複数の仮面ライダーが互いに戦う」という状況設定そのものは、実は龍騎が最初の例ではないからである。

石ノ森章太郎による原作漫画『仮面ライダー』は、週刊少年マガジンでの
連載中、「13人の仮面ライダー」という一篇を描いている。ショッカーは
本郷猛を倒すため、量産型の「ショッカーライダー」を12体投入する。この12体のうちの1体こそが、のちに仮面ライダー2号となる一文字隼人であった。一文字は当初、洗脳されたショッカーライダーの一員として本郷を
襲い、本郷は一文字を含む12体のショッカーライダーの襲撃を受けて落命
する。しかし味方の誤射によって一文字自身の洗脳が解け、一文字は本郷の遺志を継いで戦うことを誓う。本郷はこれによって完全に失われるわけではなく、脳のみが保存されて一文字と意志を通わせながら生き続けることに
なり、こうして一文字は仮面ライダー2号を名乗ることになる[i]。「12体のショッカーライダー+本郷=13人」という数字が、31年後の龍騎における「13人のライダー」という設定と偶然にも重なっているのは興味深い符合だが、これが制作陣による意図的なオマージュだったのかどうかを裏づける
資料は見当たらない。あくまで指摘にとどめておきたい。

もっとも、この原作漫画の筋書きと龍騎とでは、構造そのものが本質的に
異なっている。ショッカーライダーは、あくまで「敵組織が本物のライダーを狩るために量産した偽者」であり、一文字がそれと戦うことになった理由も、洗脳という外部からの操作が解けた結果にすぎない。そこにあるのは、対等な意志を持つ複数のヒーローが、共通の敵を持たないまま、それぞれの自由意志で殺し合うという構図ではなく、あくまで「敵組織」対「本物の
ライダー」という、シリーズにとって使い慣れた対立軸の変奏だった。

これに対して龍騎が持ち込んだのは、「悪の組織」そのものの不在である。13人全員が、誰かに操られているのでも、誤解によって戦わされているのでもなく、それぞれ独立した個人として鏡の世界との契約を結び、各自の欲望や事情のために、最後の一人になるまで戦い続ける。前節で見た通り、東映自身がこの作品を「これまでの勧善懲悪的な仮面ライダーシリーズに対する先入観を大きく揺さぶり大反響を呼び起こしたシリーズのエポックメイキングともいえる本作」と位置づけているのは[ii]、まさにこの「組織なき共食い」という構造上の断絶を踏まえてのことだろう。

「複数のライダーが戦う」という表面的な設定だけを見れば、その前例は
原作漫画の時点まで遡ることができる。しかし「なぜ戦うのか」を支えていた構造――外部の敵組織という装置――を取り払い、ヒーローたちの戦いをむき出しの個人的欲望だけで成立させてしまったこと、それこそが、龍騎が仮面ライダー史に刻んだ本当の意味での新しさだったと言える。この「組織なき共食い」という構造は、後の複数ライダー作品にも形を変えながら
受け継がれていくことになるが、その詳細は後の章で改めて扱うことにしたい。



[i] 石ノ森章太郎『仮面ライダー』「13人の仮面ライダー」(『週刊少年マガジン』1971年29号-34号)。一文字隼人が新聞記者を装ってショッカーライダーの一員として本郷抹殺を命じられていたこと、本郷が一文字を含む12体のショッカーライダーの襲撃を受けて落命したこと、および味方の誤射による一文字の洗脳解除の経緯については、『仮面ライダー(石ノ森章太郎デジタル大全)』(講談社、電子書籍版)第2巻・第3巻あらすじ、および石ノ森章太郎『仮面ライダー 下巻〈一文字隼人編〉』(KADOKAWA、2005年11月10日)の紹介文でも確認できる。
[ii] 「『仮面ライダー龍騎』全50話が無料配信決定!」電撃オンライン、2022年8月19日。東映公式の紹介文として、龍騎を「エポックメイキング」と位置づける記述を確認。

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