第5節 大人の視聴者は「発見」されたのか――牙狼〈GARO〉という別回路
「平成ライダーは大人の視聴者を発見した」という語りは、しばしば無批判に繰り返される。だが、実際のデータに照らすと、この物語はそれほど単純ではない。
法政大学のゼミ論文が示す定量データは、視聴率と玩具売上高がむしろ連動していないという、直感に反する事実を明らかにしている。玩具売上高が最も低かった『仮面ライダー響鬼』(2005年)の平均視聴率は8.2%と、シリーズの中でも比較的高い水準にあった。ところが、玩具売上高が最も高かった『仮面ライダーオーズ』(2010〜2011年)の平均視聴率は6.9%と、響鬼を下回っている。事実、視聴率が高い回ほど玩具がよく売れる、という素朴な予想を数字で確かめようとしても、そうした関係はほとんど見当たらない。むしろ、響鬼とオーズの数字が示す通り、視聴率と売上高はほぼ無関係と言ってよい状態にあった[i]。
では、何が玩具売上を支えていたのか。プロデューサーの白倉伸一郎は2006年の時点で、平成ライダーの作りについて次のように説明している。未就学児童が楽しめる「仮面ライダーと怪人が戦っている話」という基礎構造の上に、大人も楽しめる人間ドラマとしてのストーリーを重ねる、いわば二重
構造で番組を構築しているというのである[ii]。視聴率という単一の指標だけでは測れない層への訴求を、当初から意図的に組み込んでいたことがうかがえる発言である。
もっとも、この二重構造だけで玩具売上の推移をすべて説明できるわけではない。『仮面ライダーW(ダブル)』(2009年)以降の「平成2期」では、変身ベルトに加えて安価な「ベルト連動型アイテム」を主力商品化する戦略への転換が進み、2007年の電王から2010〜2011年のオーズにかけて、総売上高は128%という規模で伸びている[iii]。視聴率が伸び悩む中でこの水準の増収を実現した背景には、大人の新規獲得というより、既存の子供の購買層一人あたりの消費額を引き上げる、いわば玩具ビジネスとしての精緻化という側面が強く働いていたとも言える。平成ライダーの「大人向け化」は、
視聴率という目に見える形で証明された現象というよりも、白倉が語った
二重構造という設計思想と、商業的な必然としての玩具戦略の高度化とが、分かちがたく絡み合って生み出したものだったと見るべきだろう。
この平成ライダーのあり方と対照的な位置にあるのが、2005年10月7日から翌年3月31日までテレビ東京系列で放送された『牙狼〈GARO〉』(全25話)である[iv]。この作品は、特撮番組としては珍しく深夜枠での放送と
なり、仮面ライダーやスーパー戦隊のような玩具販促を前提とせず、はじめから大人をターゲットにした番組作りがなされていた[v]。すでに見た『真・仮面ライダー序章』(1992年)が、単発企画という形でしか「大人向け」を志向できなかったのに対し、牙狼はそれを深夜枠という定期放送の形で実現してみせた作品だったと言えるだろう。
平成ライダーが日曜朝という子供向けの放送枠の内部で二重構造を作り上げていったのに対し、牙狼は最初から大人向けとして、東映・円谷という大手2社の外側、深夜枠という別の回路に、ゼロから設計された特撮だった。「大人の視聴者」は、平成ライダーにおいては証明しがたい形で複雑に構成されていた一方、牙狼においては、その存在を前提として作品そのものが
組み立てられていたのである。
[i] 石川勝也「仮面ライダービジネス~玩具売上高急増の背景~」法政大学経営学部平田英之ゼミ論文集、2015年度。『仮面ライダー響鬼』(2005年)の平均視聴率8.2%・玩具売上高最低、『仮面ライダーオーズ』(2010〜2011年)の平均視聴率6.9%・玩具売上高最高であるという分析データを確認。
[ii] 石川勝也の前掲論文によれば、白倉伸一郎は『月刊放送ジャーナル』36号(2006年、58-61頁)掲載の「『リアル』から生まれる仮面ライダーカブト――正義を持たないヒーロー」において、平成ライダーが未就学児童向けの基礎構造と大人も楽しめる人間ドラマという二重構造で設計されていたと説明しているという。
[iii] 石川勝也、前掲論文。平成2期(『仮面ライダーダブル』以降)における「ベルト連動型アイテム」導入以降の売上急増、および2007年の電王から2010〜2011年のオーズにかけての総売上上昇率が128%であったというデータを確認。
[iv] 石井誠「作品レビュー『牙狼<GARO>』」別冊映画秘宝編集部編『別冊映画秘宝 平成大特撮1989-2019』洋泉社、2019年、239頁。
[v] 「牙狼」J:COMテレビ番組表。2005年に放送されたテレビ東京系列の特撮ドラマ(全25話)であり、原作・総監督を雨宮慶太が務めたことを確認。 また、のざわよしのり「『牙狼<GARO>TAIGA』は"初心者"も必見! 雨宮慶太監督の作家性が凝縮された"原点"作に」リアルサウンド映画部、2025年10月9日。同作が怪奇要素のある特撮番組として深夜帯に放送されたこと、仮面ライダーや戦隊シリーズが玩具販促のため子供をメインターゲットとするのとは対照的に、大人向けのダークな作風であったことを確認。
