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第2節 クウガの革命――リアリティと「戦うことへの苦悩」

2000年1月30日、テレビ朝日系列で放送を開始した『仮面ライダークウガ』(全49話)は、「平成仮面ライダーシリーズ」第1作として位置づけられている。原作は石ノ森章太郎、脚本は荒川稔久ほか、監督は石田秀範ほか、
プロデューサーは清水祐美(テレビ朝日)、髙寺成紀(東映)、鈴木武幸が務めた[i]。10年に及ぶ試行錯誤とは異なり、東映は今度こそ週刊放送という定期的な枠に本格的に賭けた。

クウガが打ち出した最大の転換は、シリーズの根幹をなしてきた「改造人間」や「世界征服を目論む秘密結社」といった、非現実的な設定そのものを排除したことだった。もし実社会に得体の知れない怪人が現れたら――という前提のもとに、事件はまず警察による捜査として扱われ、恐怖はドキュメンタリーに近い質感で描かれる[ii]。メインライターの荒川稔久は、当時のインタビューでこの作品についてネットなどで実際の警察の動きを調べながら台本を書いていたと語っており、絵空事ではないリアリティへのこだわりが、脚本の書き方そのものに表れていたことがうかがえる[iii]

もっとも、この転換には代償が伴った。チーフプロデューサーの髙寺成紀は当時のインタビューで、戦隊シリーズが巨大ロボットの変形・合体という
視覚効果に予算をかけるのに対し、等身大のヒーローであるクウガでは
「セットにお金をかけよう」と考えたと明かしており、「みごとに大赤字でした」と振り返っている。第1話・第2話は尺を大幅に超過し、編集段階で
大量にカットされたという[iv]。予算とスケジュールへのこだわりは、単なる逸話にとどまらなかった。2025年の25周年イベントで、髙寺自身は「EPISODE11『約束』とEPISODE12『恩師』」の制作中に撮影が実際に
停止し、東映が「アップアップ」になった結果、新しいエピソードが作れず、総集編(第17話)を制作せざるを得なかったことを証言している[v]

荒川もまた、最終回の結末をめぐって髙寺との間で葛藤を抱えていたことを、25年後のインタビューで明かしている。主人公・五代雄介を「殉職」
させる案さえ検討されたというが、最終的には彼が「みんなの笑顔を守るため」に戦い続けた末、しばらく仲間のもとを離れ、冒険者として世界を巡るという結末に落ち着いた。荒川は当時、この結末に納得しきれないまま脚本を書いていたと振り返っており、監督の石田秀範も「天国にも見えるように撮った」と語っていたという[vi]。戦い続けることの意味そのものを問う――クウガが平成ライダーの起点として刻んだのは、単なる映像技法の革新ではなく、ヒーローが「戦うことへの苦悩」を抱える存在として描かれる、というテーマの水準そのものだったと言える。

髙寺が守り抜いたこの作風は、しかし彼自身のキャリアに長い影を落とすことになる。次に髙寺が現場に復帰するのは、2005年の『仮面ライダー響鬼』だった。東映公式サイトのスタッフ表記によれば、髙寺は第1話から第29話までプロデューサーを務め、第30話以降は白倉伸一郎に交代している[vii]。髙寺の降板理由は公式には公表されておらず、本人も謝意を示すコメントを残す一方で真相は語らないままであり、玩具の売れ行き不振や予算超過といった説はあくまでファンの間の憶測にとどまる。ただし、劇場版のみの参加を予定していた白倉伸一郎が第30話以降のプロデューサーとなり、脚本の中心も大石真司から井上敏樹へと交代したこと、前半と後半とで作品の雰囲気が大きく変わったことは、複数の記録が一致して伝えている[viii]

クウガの革命がもたらしたリアリティへのこだわりと、それを支えた髙寺という個人の作家性、そしてその代償――この構図は、次節で見るアギト・
龍騎・ファイズという、平成ライダーがそれぞれ異なる哲学的問いを掲げていく過程の、いわば出発点をなしている。



[i]仮面ライダークウガ」仮面ライダーWEB【公式】、東映。放送期間・話数・スタッフ情報を確認。
[ii]  原直輝「『仮面ライダークウガ』警察との連携で怪人を追い詰める」アニメイトタイムズ、2018年12月29日。「改造人間」や「世界征服を目論む秘密結社」などの非現実的な設定を排除し、実社会に怪人が現れた場合の恐怖を伝える、ドキュメンタリーに近い作品と評されている。
[iii] 市川知郷「荒川稔久 インタビュー“癒し系なヒーローを”(2000)・『仮面ライダークウガ』(2)」私の中の見えない炎、2020年9月13日。2000年当時、荒川稔久がクウガ執筆にあたりネット等で調べながら書いていたと語ったインタビューを採録(“SFオンライン41号”からの引用)。
[iv] 市川知郷「髙寺成紀 インタビュー“2000年のヒーローに”・『仮面ライダークウガ』(3)」私の中の見えない炎、2020年9月2日。“SFオンライン41号”からの引用として、髙寺成紀が戦隊シリーズとの予算配分の違いやクウガでの大幅な赤字、第1話・第2話の尺超過とカットについて語った発言を採録。
[v]『仮面ライダークウガ』25周年 髙寺成紀&荒川稔久&鈴村展弘が魅力を“再検証”」シネマトゥデイ、2025年5月25日。髙寺成紀がEPISODE11・12の制作中に撮影が停止し総集編(第17話)が生まれた経緯を証言。
[vi]『仮面ライダークウガ』25周年、脚本・荒川稔久が振り返る五代雄介の旅路」シネマトゥデイ、2025年6月15日。荒川稔久が最終回の結末をめぐる葛藤、雄介の殉職案の検討、石田秀範監督の発言について証言。
[vii]仮面ライダー響鬼」仮面ライダーWEB【公式】、東映。プロデューサーを髙寺成紀(第1-29話)、白倉伸一郎(第30-48話)、土田真通と表記。
[viii] 加々美利治「あまりに異色すぎる『仮面ライダー響鬼』知って納得なその誕生経緯…そらそうなるよ!」マグミクス、2025年1月30日。髙寺成紀の降板理由は公式に公表されておらず、玩具の売れ行き不振等はファンの憶測にとどまる一方、劇場版のみ参加予定だった白倉伸一郎が第30話以降のプロデューサーとなり、脚本の中心も井上敏樹へ交代したことを伝えている。https://magmix.jp/post/279900/2
また、この路線変更については次の文献でもふれられている。石井誠「作品レビュー『仮面ライダー響鬼』」別冊映画秘宝編集部編『別冊映画秘宝 平成大特撮1989-2019』洋泉社、2019年、176頁。東雅夫「響鬼と響き交わした日々に」ユリイカ9月臨時増刊号第44巻第10号(通算615号)『総特集◎平成仮面ライダー――『仮面ライダークウガ』から『仮面ライダーフォーゼ』、そして『仮面ライダーウィザード』へ…ヒーローの超克という挑戦』青土社、2012年、189-194頁。

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