第1節 メタルヒーロー誕生の背景
1981年という年、特撮の世界には二つの大きな空白が同時に生まれた。春には円谷プロダクションの『ウルトラマン80』が、秋には東映の『仮面ライダースーパー1』が、同じ年のうちに相次いで幕を下ろしたのである。その結果、毎週放送されるヒーロー番組として残ったのは、『太陽戦隊サンバルカン』を放送していたスーパー戦隊シリーズのみとなった[i]。二枚看板が同時に消えるという、特撮の歴史でも珍しい巡り合わせのなかで、翌1982年に
登場したのが『宇宙刑事ギャバン』だった。
もっとも、この番組の出発点にあったのは、空いた枠を埋めるための受動的な企画立案ではない。きっかけは、バンダイのデザイナー・村上克司が私的に描き溜めていた一枚のイラストだった。剣を手に、宇宙のどこかに佇む
金属質の戦士――そのイメージを目にした東映プロデューサーの吉川進は、看板デザイナーの石ノ森章太郎を欠いた陣容で『仮面ライダー』を超える
単独ヒーローを生み出すという課題に対し、これが大きな切り札になり得ると判断したのだという[ii]。空白が先にあり、それを埋めるために企画が求められたのではなく、一枚の絵がすでに持っていた説得力を、プロデューサーが能動的に見出し、掬い上げたのである。
この企画がどれほど大きな賭けだったかは、当事者たちの証言からもうかがえる。主演を務めた大葉健二は、本作を「スポンサーが年月をかけ温めに
温めた念願の作品」であり、「テレビ局、東映のプロデューサーの方たちが自分の首を賭けている作品」だったと振り返っている[iii]。プロデューサーの鈴木武幸もまた、本作に「過去最高の制作費」が投じられたことに触れ、「凶と出たら、二度と特撮の新ヒーローは生み出せないほど」の予算規模だったと述懐した[iv]。玩具会社が温め続けてきた構想に、破格の予算とプロデューサーの覚悟が重なり合うことで、ようやく一つの番組として着地したのが『宇宙刑事ギャバン』だったのである。
ただし、この賭けが着地できた場所そのものは、東映が何もないところから切り拓いたわけではない。1975年に始まった『秘密戦隊ゴレンジャー』
以来、スーパー戦隊シリーズは、正義の組織に属して任務を遂行するというヒーロー像を、すでに7年にわたって子供たちに馴染ませていた[v]。単身、改造人間としての孤独な戦いを描いた『仮面ライダー』に対し、スーパー戦隊は「組織」というかたちを特撮ヒーローに与えていたのである。銀河連邦警察のコム長官の指導のもとで訓練を受け、地球地区担当として派遣される捜査官――一条寺烈というキャラクター設定は、スーパー戦隊がすでに耕していた「組織に属するヒーロー」という土壌の上に、宇宙という新しい舞台を接木したものだったと見ることができる。村上克司の一枚のイラストが
企画の発端だったとすれば、その企画が着地するための地ならしは、東映が7年かけてすでに済ませていたのだった。
もっとも、この賭けの立役者だった吉川進自身が、のちにもう一つの空白の当事者となる。1987年、東映は『仮面ライダーBLACK』で仮面ライダーの復活を試みた。プロデューサーには平山亨に代わって吉川進が就任し[vi]、
世界観と設定を一新した[vii]。しかし翌年の続編『仮面ライダーBLACK RX』(1988〜89年)を経ても、シリーズは軌道に乗らないまま、1989年9月に放送を終える。仮面ライダーの定期シリーズはここで一旦途切れることになった[viii]。ギャバンを世に送り出したのと同じ吉川進が、その7年後には仮面ライダーの終焉にも立ち会うことになった――この巡り合わせは、1981年の空白と1989年の空白が、決して無縁の二つの出来事ではなかったことを物語っている。仮面ライダーはこの後、テレビシリーズとしては2000年の『仮面ライダークウガ』まで、10年余りの空白期に入ることになる。その
意味の重さについては、第19章であらためて論じたい。
[i] 『メタルヒーロー最強戦士列伝』[監修]東映、双葉社、2014年11月9日、24-25頁、「総論『ギャバン』とは何だったのか? SFブームが生んだニューヒーロー」。
[ii] 『宇宙刑事年代記 メタルヒーローシリーズの系譜』徳間書店〈HYPER MOOK〉、2004年、90-91頁、吉川進インタビュー。
[iii] 安藤幹夫&スタジオハード編『宇宙刑事大全 ギャバン・シャリバン・シャイダーの世界』双葉社、2000年、69頁、大葉健二スペシャルインタビュー。
[iv] 安藤幹夫&スタジオハード編『宇宙刑事大全 ギャバン・シャリバン・シャイダーの世界』、前掲、71頁、鈴木武幸スペシャルインタビュー。小野塚謙太「12 メタルヒーローの誕生「俺が“ギャバン”だ!」」『カラー版 超合金の男-村上克司伝-』アスキー・メディアワークス〈アスキー新書105〉、2009年4月10日、169頁。
[v] 平侑子「スーパー戦隊シリーズにおける『正義』と『悪』の変遷」『Sauvage:北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院院生論集』第8号、2012年、71-81頁。同論文は、1975年開始の「秘密戦隊ゴレンジャー」以降の初期スーパー戦隊シリーズについて、戦士たちが国連や国防省などの正規の防衛組織に所属し、「地球を守るため」に戦うことを職業とするヒーロー像であったことを、仮面ライダーの単身・内部生成型のヒーロー像と対比しつつ論じている。北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP)にて全文公開。
[vi] 講談社編『証言!仮面ライダー昭和』講談社、2017年、200-203頁。
[vii] 「仮面ライダーBLACK【公式】作品ガイド|昭和第9作(1987年)」東映仮面ライダーWEB【公式】、2021年5月14日。前作『仮面ライダースーパー1』より6年ぶりのテレビシリーズにあたり、世界観や設定が一新されたことが東映公式サイトに明記されている。
[viii] 「仮面ライダークウガ作品ガイド」東映仮面ライダーWEB。『仮面ライダークウガ』について、前作『仮面ライダーBLACK RX』の最終回から約10年4ヶ月ぶりのテレビシリーズであると明記している。
