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第1節 壊れやすく作る——ミニチュアという逆説的な職人技術

ミニチュア特撮の制作工程を一言で要約するなら、次のようになる。実物を縮小して再現する技術でありながら、その技術が目指す最終状態は、しばしば「壊れること」そのものだった。

この発想は、『ゴジラ』の特撮を率いた円谷英二自身の仕事にまで遡ることができる。円谷が手がけた東宝特撮のビル街のミニチュアでは、当初は軽く加工しやすい材木が使われていたが、爆破した際の破片の飛び散り方が不自然に見えるという理由から、試行錯誤の末、ウエハースを素材として使うようになった[i]。1961年の『世界大戦争』で、核ミサイルによって東京が破壊される場面のミニチュアにも、ウエハースが使われている——ただし可食性の素材であるため、ネズミにかじられたり、雨天時に湿気てしまったりと、保管には独自の苦労があったという[ii]。実物の建材とはかけ離れた、軽く脆い素材を選ぶことで、壊れる瞬間の見え方そのものを作り込むという発想は、紙やバルサ材を使う『タローマン』に直接連なる、半世紀以上前から続く設計の系譜である。

この「壊れやすく作る」という発想とは別に、もう一つの設計原則が、ミニチュア特撮には古くから存在する。実物に似せることよりも、カメラに映る部分だけを精巧に仕上げ、映らない部分には手間をかけないという経済性
である。福島県須賀川市の須賀川特撮アーカイブセンターには、特撮美術
監督・三池敏夫が中心となって組み上げたミニチュアセットが常設されて
いる。このセット自体は2020年の施設開館にあわせて新たに組まれたものだが、配置されている建物のミニチュアには、平成期の『ガメラ』シリーズや過去の『ウルトラマン』シリーズで実際の撮影に使用されたものが活用されている[iii]。そこでも、建物はカメラに映る面だけが作り込まれ、裏側は装飾のない簡素な作りになっている。同センターの解説によれば、これはカメラに映らない部分に手間をかけず、限られた制作期間の中で必要な分だけを
効率よく作るための工夫である[iv]。

ただし、この「カメラに映る範囲だけを作る」という経済性の原則を、円谷自身が一貫して徹底していたわけではない。1954年の『ゴジラ』の銀座ミニチュア撮影では、当初スタッフがカメラに映る範囲にのみ電線を張っていたところ、円谷はこれに激怒し、「俺が欲しいのは画面の外だ」と言って、
画面に映らない部分にまで糸ヒューズの電線を張り巡らせるよう求めたと
いう証言が残っている[v]。一方で、同じ作品の同じ撮影において、円谷は
ゴジラの足元——重さで道路が壊れていないと不自然に見えてしまう部分——にはほとんどカメラを向けず、画面に映らないようにすることでこの
矛盾を回避している[vi]。つまり円谷にとって、「カメラに映らない部分」は、手間を省く対象ではなく、その都度、何を見せ、何を見せないかを判断するための、もう一つの設計領域だった。須賀川のセットが体現する「映らない部分は作らない」という原則は、円谷の実践を一面化した、後年の合理化と見るべきかもしれない。

いずれにせよ、確認できる事実は次のことである。「壊れやすく作る」という発想は、1950年代の円谷の現場から2022年の『タローマン』まで、
半世紀以上にわたって受け継がれてきた、ミニチュア特撮の中核的な設計
原則だった。一方、「映らない部分には手間をかけない」という経済性の
原則は、円谷自身の現場ではより複雑な形——何を見せ、何を隠すかと
いう、撮影上の戦略そのもの——として存在しており、須賀川のセットに
見られる単純な効率化とは、必ずしも同じ強度の主張ではない。

この逆説は、製作の細部に具体的な形で現れている。
2022年にNHKで放送された特撮ドラマ『TARO MAN タローマン』の美術
メイキング記録は、この逆説がどのように実務化されているかを、比較的
新しい事例で詳細に示している。同作でタローマンに破壊される最初のミニチュアとなったミキサー車は、車体をケント紙、タンク部分を紙コップで
製作されている。窓ガラスには透明なセロハンが使われた[vii]。第1話でタローマンが引きむしる給水タンクは、タンク部分に空き缶を利用し、実際に水を入れられるように作られていたが、トラス部分は、わざと壊れやすくするために、バルサ材を細く切ったものを組み上げて構成されていた[viii]。第8話に登場するガソリンスタンドは、スチレンボードで作られ、本番前にあらかじめ薄い刃のノコギリで切れ込みが入れられている[ix]。

これらの素材選択——紙、紙コップ、バルサ材、スチレンボード——に共通するのは、いずれも実物の建材とは似ても似つかない、脆く軽い素材であるという点だ。本物のビルや給水塔を縮小して再現するなら、本来はそれに
近い質感と強度を持つ素材を選ぶはずである。しかしミニチュア特撮の現場が選ぶのは、その対極にある素材だった。理由は単純で、これらのミニチュアは、最終的に人の手で、あるいは演者の動きに合わせて、確実に壊されることを前提に作られているからだ。

この「確実に壊す」という要求は、製作工程にもう一つの特徴をもたらす。失敗の許されない一回性である。『タローマン』の制作記録は、この点を
明確に述べている——壊し用のミニチュアは、失敗するとやり直しがきか
ないため、本番前に必ずリハーサルを行い、演者に「壊しのイメージ」を
掴んでもらった上で本番に臨んだという[x]。最終話で、タローマンの必殺技を受けて崩壊する塔の破片がビルに突き刺さる場面では、石膏やバルサ材では「刺さる」というより「割れた」印象になってしまうという試行錯誤の末、最終的に切り花用の給水スポンジ(オアシス)を使うという解決策に至っている。本番では、棒の先に取り付けた破片を、人の手で実際に突き刺す動作が行われた[xi]。

ここまでの事例が示すのは、ミニチュア特撮における「精巧さ」が、単に
実物を縮小して忠実に再現する精巧さとは、性質の異なるものだということである。素材は実物に似ていなくてもよい。むしろ、壊れるという一回の
出来事を、カメラの前で確実に、しかも意図した形で成立させるための精巧さが要求される。縮尺の計算、素材の選択、そして「壊れやすく作る」という手順は、互いに矛盾するものではなく、同じ一つの目的——壊れる瞬間を、噓だと分からせずに成立させること——に向けて連動していた。

もう一つ、この事例群から見えてくる事実がある。製作されたミニチュアの多くは、特定の場面、特定の演技、特定の小道具に合わせて、その都度個別に設計されている。給水タンクの空き缶は実際に水を入れるために選ばれ、ガソリンスタンドの切れ込みは本番の壊し方を見越して事前に入れられ、
ビルに突き刺さる破片は、タローマンが摘む演技に対応できるよう、
イーゼルからキャンバスが外れる仕掛けまで組み込まれている[xii]。これは、量産される工業製品の縮小コピーではない。一回の撮影、一つのカットのためだけに存在する、使い捨ての精密機械に近い。

しかし、ここで一つの疑問が生じる。
もしミニチュア特撮の本質が、実物に似せることではなく、壊れる瞬間を
確実に成立させるための精巧さにあるのだとすれば、その精巧さは何のために存在するのか。観客を欺くためのリアリズムだとするなら、その理屈は
理解しやすい——本物らしく見えるほど、噓は成立しやすくなる。

ところが、『タローマン』の制作陣自身は、この理屈をそのままでは認めていない。同作の特撮美術を担当した石井那王貴は、前述のメイキング記録の中で、次のように述べている——タローマンでは、リアリティに徹したミニチュアより、むしろミニチュア特撮本来がもつ「勢い」と「映像にしたときの面白さ」を重視して製作した、と[xiii]。

これは、看過できない発言である。もしミニチュアの目的がリアリズムの
追求であるなら、製作の現場にいる人間ほど、その追求に自覚的であるはずだ。しかし実際の制作者は、リアリズムを目的としてではなく、むしろ
リアリズムから距離を取る選択として、自分たちの仕事を語っている。

精巧に作られた街を壊すという行為の背後にあるものが、単純な「本物らしさの追求」では説明がつかないとすれば、その正体は何なのか。次節では、この疑問を手がかりに、ミニチュアという技術が実際に何を目指しているのかを、もう一段掘り下げて検討する。



[i] 栗下直也「『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗』栄光と迷走の50年」『現代ビジネス』(講談社、2013年8月14日)が円谷英明『ウルトラマンが泣いている』(講談社現代新書、2013年)からこのエピソードを引用紹介している。 
[ii] ウィキペディア「世界大戦争」製作。 https://ja.wikipedia.org/wiki/世界大戦争
[iii] 「【収蔵資料紹介 番外編】ミニチュアセット」須賀川特撮アーカイブセンター、2026年3月31日。 https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/tokusatsu/archive/column/1/3589.html
セットの建物に平成『ガメラ』シリーズ・『ウルトラマン』シリーズの実使用ミニチュアが活用されている点については、坂口将史「『須賀川特撮アーカイブセンター』レポート
メディア芸術カレントコンテンツ、文化庁、2021年2月16日。
[iv] 「【収蔵資料紹介 番外編】ミニチュアセット」須賀川特撮アーカイブセンター、2026年3月31日。
[v] ウィキペディア「ゴジラ(1954年の映画)」 
[vi] 同上。
[vii] 石井那王貴「タローマン特撮美術メイキング 破壊ミニチュア編」note、2022年8月9日。 
[viii] 同上。
[ix] 同上。
[x] 同上。
[xi] 同上。
[xii] 同上。第5話「疾走する眼」で使用されたイーゼルとキャンバスの仕掛けについて。
[xiii] 同上。

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