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第1章「怪物の発明——神話から特撮へ」導入

 怪物は、いつから存在するのか。
 考古学者たちが発掘した最古の文字記録を辿っていくと、怪物はすでにそこにいる。『ギルガメシュ叙事詩』の原型となったシュメール語詩のひとつで、第三ウル王朝期(紀元前21世紀頃)の宮廷で歌われた『ギルガメシュとフワワ』には、森を守る巨人の怪物フンババが登場する[i]。紀元前8世紀後期から7世紀前期のあいだにギリシャのヘシオドスが口承から作詩した『神統記』には、百の頭を持つテュポーンが現れる[ii]。日本最古の歴史書『古事記』(712年)には、八つの頭と八つの尾を持つヤマタノオロチが出雲の山野に棲んでいる[iii]。
 しかしこれらより古い時代にも、怪物はいた。
 文字を持たない社会でも、人間は怪物を語り続けた。口承で伝えられた神話・呪術・儀礼の中に、人間ではない存在——巨大で、異形で、普通でない力を持つ何か——が繰り返し現れる。記録に残る最古の人類の物語から、怪物は一度も欠けたことがない。
 これは偶然ではないはずだ。
 では、なぜか。
 最も単純な答えは「人間が怪物を怖れたから」というものだ。暗闇に潜む捕食者、制御できない自然災害、原因不明の疫病——これらへの恐怖が怪物という「形」を取った、という説明は直感的に説得力がある。しかし、この説明だけでは足りない。もし怪物が「恐怖の容器」にすぎないなら、なぜ文化によって怪物の姿はこれほど違うのか。なぜある文化の怪物は退治され、別の文化の怪物は神として祀られるのか。なぜ同じ「鬼」が、時代によって恐怖の対象になったり、笑いの対象になったりするのか。
 怪物は、恐怖だけからは生まれない。
 本章はその問いから始まる。人類がなぜ怪物を発明し続けてきたのか——そして怪物の「形」と「機能」は、何によって決まるのか。答えに辿り着く前に、まず怪物たちの顔を一つひとつ見ていくことにしよう。


[i] Spar, Ira. "Gilgamesh." In Heilbrunn Timeline of Art History. New York: The Metropolitan Museum of Art, 2000–. (April 2009)
[ii] HESIOD, THEOGONY, Theoi Project
[iii] 青空文庫「古事記」(武田祐吉訳、現代語訳)

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