第6節 平成以降のリアルアクション化――継承と刷新の同時進行
大野剣友会に連なる殺陣師たちが築いた様式は、しかし固定的なものでは
なかった。平成以降、スタントマン出身の坂本浩一のように、ジャッキー・チェンに憧れて倉田アクションクラブに入門し、渡米後はハリウッドの特撮ドラマ「パワーレンジャー」シリーズのアクション監督として活躍した経歴を持つ演出家が、円谷特撮の現場に参入してくる[i]。坂本は2009年の劇場版『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』で日本での監督デビューを果たし[ii]、2014年の『ウルトラマンギンガS』では円谷特撮として初めて
テレビシリーズのメイン監督を務めた[iii]。
もっとも、坂本の演出を単純に「様式からの離脱」「よりリアルでスピー
ディーな方向への刷新」とだけ捉えるのは、当人の証言に照らすと一面的である。坂本自身が語るところによれば、『ウルトラマンジード』(2017年)で泥や水、雨の中で戦う演出を繰り返し取り入れたのは、彼が子どもの頃に熱狂した昭和期の『ウルトラマンレオ』(1974年)へのオマージュだった。「僕にとって、レオは泥臭いアクションで、常に水に濡れている印象があった」と坂本は振り返り、レオのスーツアクターだった二家本辰己との対話をきっかけに、あえて撮影用プールを設置して水中戦を再現したという[iv]。
さらに、ジードの基本形態「プリミティブ」を、姿勢を低くした獣のような、洗練されていない格闘スタイルとして設計し、上位形態「ソリッド
バーニング」(セブンとレオの力を受け継ぐ形態)になって初めてまっすぐ立った格闘技の構えを取らせるという段階的な演出も、坂本いわく「体育会系ウルトラマン」の系譜――レオの持つ、努力と特訓によって強くなるという身体性――を意識的に受け継いだものだった[v]。
つまり坂本は、ワイヤーアクションやスピード感といった新しい技術的語彙を持ち込みながらも、同時に昭和期の泥臭い身体性を自覚的に参照し、両者を同じ演出の中に共存させていたことになる。この意味で、平成以降の
「リアルアクション化」を、様式の一方向的な交代として描くことはできない。刷新と継承は、しばしば同じ演出家の中に同時に存在していた。
こうした身体表現の継承は、実写のスーツアクションを超えて、デジタル
技術の領域にも及んでいる。2022年の映画『シン・ウルトラマン』では、
初代ウルトラマンのスーツアクターだった古谷敏が、ウルトラマンのCG
原型モデル[vi]およびモーションキャプチャーのアクターとしてクレジット
された[vii]。古谷はCGで表現された戦闘シーンについて「僕よりもカッコ
いいですね。あの動き、しなやかさは僕には出せなかったなと感じます」と評しつつ、随所に自身のかつての動きが再現されていることに「庵野さんが僕のことをとても好きでいらっしゃったんだと思う」と述べている[viii]。
同時に古谷は「今度はCGだけでなく、特撮でも撮ってもらいたい」と、
実写の着ぐるみによる撮影への期待も語った[ix]。
スーツの中の身体という原型が、デジタル技術によって拡張されながらも
消え去らずに引き継がれ、しかも当の演者自身がその両立を望んでいると
いう事態は、次章で見る火薬・光学・造形といった技術史の展開と地続きの問題として理解すべきだろう。
見えない演技者たちは、着ぐるみの中で何を表現してきたのか。中島春雄が動物園で発明した歩行法、名もなき殺陣師たちが歌舞伎の立廻りから分岐
させた技法体系、そして飯島敏宏と古谷敏、それぞれの証言が異なる経緯を伝える「スペシウム光線」の型の起源――これらはいずれも、単一の物語には収まらない。次章では、この身体表現を支えてきた技術そのもの―火薬・光学・造形―に光を当てる。
[i] 「坂本浩一のプロフィール・作品情報」映画ナタリー。
[ii] 「映像ミュージアム50万人達成イベント『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』坂本浩一監督 最新ウルトラ映画の魅力を語る!」SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ・映像ミュージアム公式サイト。
[iii] 「新たなるウルトラヒーロー登場!その名は「ウルトラマンビクトリー」。新TVシリーズ『ウルトラマンギンガS』2014年7月15日(火)~ テレビ東京系『新ウルトラマン列伝』にてスタート!」円谷プロダクション公式サイト。
[iv] 「レオの姿はジードに大きく影響した!? 『ウルトラマンレオ』Blu-ray化を記念して坂本浩一監督に独占取材」電撃オンライン、2018年11月28日。
[v] 同上。
[vi] 「“ウルトラマン”古谷敏、『シン・ウルトラセブン』に期待 出演に意欲「ワンカットでもやりたい!」」オリコンニュース、2022年6月3日。
[vii] 「初代スーツアクター古谷敏が語る『シン・ウルトラマン』感想と『ウルトラマン』の思い出」映画.com、2022年6月4日。
[viii] 同上。
[ix] 同上。
