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第4節 共感できる悪役の登場――善悪二元論はいつ、なぜ壊れたか

「共感できる悪役」の系譜は、円谷プロ側の作品にすでに早い先駆例を残している。

『ウルトラマン』第23話「故郷は地球」(1966年、脚本:佐々木守)に登場した怪獣ジャミラ[i]は、有人衛星の事故で宇宙に取り残され、失敗を隠蔽した母国から見捨てられた末に怪獣と化した、かつての宇宙飛行士である[ii]。ウルトラマンに水を浴びせられて絶命した後、隊員イデが漏らす「犠牲者はいつもこうだ、文句だけは美しいけれど」という一言が、この回を単純な
怪獣退治の物語から切り離している。

翌1967年の『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」(脚本:金城哲夫)に登場したメトロン星人[iii]もまた、単純な侵略者とは一線を画す。モロボシ・ダンとメトロン星人がちゃぶ台を挟んで対峙し、人間同士の信頼関係を壊すことこそが最も効率的な侵略手段だと語り合う場面は、シリーズ屈指の
名場面として知られている[iv]

さらに1968年の『ウルトラセブン』第42話「ノンマルトの使者」(脚本:
金城哲夫)は、この系譜をもう一段先鋭化させる。海底開発に反対する少年の訴えの末に明かされるのは、地球の先住者は人類ではなく、海底に追い
やられたノンマルト[v]こそが真の地球人であり、人類の側こそが「侵略者」だったのではないかという疑いである。真相は最後まで明かされないまま、ノンマルトの海底都市を殲滅したキリヤマ隊長の「海底も我々人間のものだ」という勝利宣言だけが、後味の悪い空虚さとともに残される[vi]。ここでは、悪役と英雄の対立そのものが反転し、視聴者は「誰が悪だったのか」という問いを、答えのないまま持ち帰ることになる。

1971年の『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」(脚本:
上原正三)は、この系譜をさらに、宇宙人ではなく人間社会そのものへと
向け直した回である。地球の環境調査に訪れた友好的な宇宙人メイツ星人は、人間に姿を変えて身寄りのない少年と親子同然に暮らすが、「宇宙人ではないか」という噂から迫害を受け、最終的には警官を含む暴徒によって
射殺されてしまう。沖縄出身の上原正三は、この物語に、自身が本土で経験した差別への思いを重ねていたことを後年明かしており、脚本には関東大震災における朝鮮人虐殺の記憶も踏まえられていたという[vii]。第3節で見た『ウルトラセブン』第12話問題が、制作者の意図しない形で現実の差別と
衝突した事例だったのに対し、この回は、差別という主題を意図的かつ正面から作品の中心に据えた事例であり、対をなす形で本章に位置づけられる。

これらの先駆例が示しているのは、「共感できる悪役」あるいは「悪役ならざる悪役」という主題が、昭和特撮においてすでに繰り返し模索されていたということである。もっとも、この主題が最も体系的かつ持続的な形で追求されるのは、平成仮面ライダー、『仮面ライダークウガ』(2000年)以降であり、そこでは敵と味方そのものの境界が作品構造のレベルで流動化して
いく。この本格的な展開、および特撮的な悪役造形とアニメ的な悪役造形(『機動戦士ガンダム』のザビ家)との比較については、第18章で詳しく
論じる。

もっとも、「共感できる悪役」の増加を、単純に思想的な成熟の物語として語ることにも留保が必要である。悪役に固有の背景と感情を与えることは、その悪役を客演やスピンオフ、玩具展開の主役に育てうるという、きわめて実利的な効果も持っている。第2節で見た「幹部」という発明が、思想的な深みとは独立に商業的装置として機能していたのと同じように、「共感できる悪役」もまた、思想の深化であると同時に、悪役自身を一つの商品として展開するための物語的技術だったという側面を、排除すべきではないだろう。

次節では、こうした「悪役の相対化」の系譜の先に、特撮における悪役造形の、より根源的な論理――「正義の味方」という自己規定そのものに潜む
危うさ――を見ていく。



[i]棲星怪獣 ジャミラ」円谷プロダクション公式サイト。
[ii] 片野「とっくに答え出てた? 『ウルトラマン』ジャミラへのイデ隊員の言葉は「為政者か犠牲者か」」マグミクス、2025年3月22日。同記事は、脚本を担当した佐々木守の著書『戦後ヒーローの肖像――「鐘の鳴る丘」から「ウルトラマン」へ』(岩波書店、2003年)における同話引用部分の表記、実相寺昭雄監督所蔵の直筆台本、およびHDリマスター版字幕を根拠に、当該台詞が「犠牲者」表記であることを確認している。
[iii]幻覚宇宙人 メトロン星人」円谷プロダクション公式サイト。
[iv] 長野辰次「『ウルトラセブン』ちゃぶ台宇宙人が登場する「狙われた街」の、現代に通じるテーマとは?」マグミクス、2021年5月22日を参照。
[v]地球原人 ノンマルト」円谷プロダクション公式サイト。
[vi] 長野辰次「『ウルトラセブン』42話「ノンマルトの使者」BSで放映 歴史観を揺るがす衝撃エピソード」マグミクス、2022年10月5日を参照。
[vii]対照的な2人のウルトラマン 沖縄出身の脚本家・上原正三さんが挑んだタブー」沖縄タイムス+プラス、2016年3月27日。上原正三本人が、関東大震災における朝鮮人虐殺の記憶を脚本に反映させたこと、「金山」の姓を在日コリアンに多い姓から採ったことなどを証言している。あわせて、上原正三「わたしは琉球人である――戦争と想像力」イミダス、2017年10月31日も同旨の証言を伝えている。


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