第2節 「幹部」という発明――物語的豊かさか、時代劇の借用か
戦死したゾル大佐に代わり、スイス支部から日本に着任した第二の大幹部・死神博士は、単なる怪人量産の指揮官という役割を超えて、シリーズ全体の悪役表現を決定づける存在となった[i]。演じた天本英世は、東京帝国大学
法学部を中退して劇団俳優座に入り、以後、時代劇やアクション映画で個性的な脇役として実績を積んできた舞台出身の俳優であり[ii]、白いスーツに黒マントという吸血鬼めいた衣装と、下から光を当てる怪奇趣味の演出とが
相まって、死神博士に単なる「悪の記号」を超えた存在感を与えた。
この「幹部」という発明は、その後のシリーズを通じて、「首領・幹部・
怪人・戦闘員」という四層構造として定着していった。同様の階層構造は、スーパー戦隊など他系統の特撮作品でも広く見られる。一つの作品が生み
出した組織モデルが、ジャンル全体の文法にまで昇格した例として、これは特撮史上でも稀有な事例である。
もっとも、「幹部」という発明を、仮面ライダーに固有の独創と見なすことには留保が必要である。悪の勢力に階層を与え、その頂点に「最後にヒーローと対決する、貫禄ある悪の顔役」を置くという構造そのものは、時代劇における悪代官・家老のような、勧善懲悪物語に古くから存在する「ストックキャラクター」の系譜に連なるものとも見える[iii]。当時の子ども向け番組の脚本家・演出家の多くが、時代劇畑での仕事を経験していたことを踏まえれば、悪の組織に階層と貫禄ある「顔」を与えるという発想そのものは、特撮というジャンルが一から発明したというより、日本のテレビドラマがすでに持っていた勧善懲悪の語彙を、秘密結社という新しい容れ物に移し替えた
ものだった可能性がある。ただし、この接続を直接裏づける証言や資料は
今回確認できておらず、本書ではこれを、両者の構造的な類似性からの
「仮説」として提示するに留める。
いずれにせよ、死神博士の人気が示しているのは、「幹部」という発明が、思想的な深みを持つかどうかとは独立に、まず何よりも「一体のキャラクターに強い個性と貫禄を与えることで、番組を牽引する存在に育てる」と
いう、商業的にきわめて有効な装置として機能したという事実である。この装置は、次節で見る「怪人の身体」という、より匿名的で使い捨てられる
存在との対比によって、いっそう際立つことになる。
[i] 東映公式サイト「仮面ライダー図鑑」の「死神博士」項目に整理されている。
[ii] コトバンク「天本英世」(日外アソシエーツ『新撰 芸能人物事典 明治~平成』2010年刊、および『20世紀日本人名事典』2004年刊を出典として収録)。
[iii] 悪の組織の階層構造と、時代劇における悪代官・家老という「ストックキャラクター」の系譜との類似性は、本書独自の比較にもとづく仮説であり、外部資料がこの接続を直接論じているわけではない。悪代官が勧善懲悪型時代劇における定型的な悪役類型(ステレオタイプ)であったことについては、山本博文『武士はなぜ腹を切るのか』幻冬舎、2015年を参照。
