第4節 平成ウルトラ三部作の哲学的転回
1996年9月に放送を開始した[i]『ウルトラマンティガ』は、実写ウルトラシリーズとして、『ウルトラマン80』の放送終了以来15年ぶりの新作であるというだけでなく、シリーズの根本的な自己定義を書き換える作品でもあった。本作は、M78星雲・光の国からやってきた宇宙人という、シリーズを
長く支えてきた設定を離れた、最初の「地球のウルトラマン」だった[ii]。
主人公・マドカ・ダイゴは、古代文明が遺した巨人の像に導かれ、自らが光になることでウルトラマンティガとなる。神話的な故郷からの使者ではなく、地球の中に眠っていた力が、一人の人間を媒介として目覚めるという
構造への転換である。
この転換を主導した作家として、しばしば脚本家・小中千昭の名が挙げられる。だが、この点については慎重な補足が必要である。物語の根幹となる
第1話「光を継ぐもの」および第2話を執筆したのは、実は小中ではなく右田昌万であり、小中が参加するのは第3話からだった。小中はそこから最終回まで、シリーズを牽引する立場で関わり続けたが[iii]、全52話の脚本には、
右田昌万、宮沢秀則、川上英幸、長谷川圭一ら18名もの脚本家が名を連ねている[iv]。小中自身も後年、『光を継ぐために ウルトラマンティガ』刊行を機に行われた切通理作とのトークショーで、「『ティガ』ではM78星雲から来たという設定だと思い込んで行ったら、いろいろと新しいスキームになっていて、前の設定は使えない。M78じゃないって言われて、じゃどこなのよって」と述べている。この発言からもわかるように、「ウルトラマンティガ」の哲学的転回を小中個人の作家性だけに還元することは、この作品自体の成立過程とも整合しない[v]。
この「地球のウルトラマン」への転換を、同時期の東映特撮における「仮面ライダークウガ」(2000年)による仮面ライダーシリーズの再定義と並べて語りたくなる誘惑がある。両者はともに、長く途絶えていたテレビシリーズの再起であり、シリーズの土台となる設定そのものを大きく書き換えた点でも共通している。クウガは『仮面ライダーBLACK RX』以来10年ぶりとなる仮面ライダーであり、その後現在まで続く「平成仮面ライダーシリーズ」の第1作という位置づけを担っている[vi]。
もっとも、この並行関係づけには注意も必要である。クウガが警察組織との連携や複雑な人間ドラマといった新機軸を、更地の上に一から築き上げた
作品だったのに対し、ティガが直面していたのはやや異なる課題だった。「ウルトラマン」という看板そのものは引き継ぎながら、その設定の根幹――光の国という出自――だけを差し替えるという、より込み入った作業である。両者を安易に「同じ再定義」の物語として一括りにすることは、この成立条件の違いを見えなくしてしまう。
平成三部作の第2作『ウルトラマンダイナ』(1997年)は、この「地球の
ウルトラマン」という設定を継承しつつ、物語の舞台をより宇宙的な規模へと広げていった。だが、シリーズの評価に大きな影を落としたのが、その
最終回である。主人公・アスカ・シンは、グランスフィア撃破後にワーム
ホールに飲み込まれ、そのまま光の中に消えて生死不明となった[vii]。
もっとも、この生死不明という結末は後年になって解消されている。最終回から11年後に公開された映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』にアスカ=ダイナが再登場し、さらに2012年公開の『ウルトラ
マンサーガ』で最終回以降アスカ=ダイナは様々な宇宙を旅していたことが明かされた[viii]。
そして平成三部作を締めくくる『ウルトラマンガイア』(1998年)は、この宇宙的スケールから一転、舞台を再び地球に戻すと同時に、シリーズにもう一つの根本的な転回をもたらした。異星人でも、地球の古代文明の遺産でもなく、地球という惑星そのものの意志が、二人の異なる人間を媒介として
顕現するという構造である。大地の意志を代弁するウルトラマンガイアと、海洋の意志を代弁するウルトラマンアグルは、当初、根源的破滅招来体という共通の敵を前にしながらも、互いに敵対する関係として描かれた。ガイアが地球と人類の両方を守ろうとするのに対し、アグルは人類こそが地球を
害する存在だと考え、地球だけを守ろうとする――この理念の対立は、後に二人が協力関係へと至るまでの過程を通じて、単なる怪獣バトルを超えた
環境思想的な問いを作品全体に持ち込むことになった[ix]。特撮・アニメ評論家の氷川竜介は、複数の専門家集団の連携によるSF設定のリアルさと、積み重ねの末に対立を乗り越える大河ドラマ的な構成を、本作の魅力だと評している[x]。
こうして、平成ウルトラ三部作は、レオ・ザ☆ウルトラマン・80という三度の試行錯誤の果てに、ようやくシリーズの根本的な自己定義そのものを問い直すことに成功した。
次節では、この同時代性そのもの――ゴジラの迷走、ガメラの逆襲、ウルトラマンの再生という三つの軌跡が、実は一つの時代精神の異なる現れだったという見立て――を検討する。
[i] 1996年9月7日から1997年8月30日まで毎日放送・TBS系列で全52話が放送された。講談社編『キャラクター大全 特撮全史1980~90年代ヒーロー大全』講談社、2020年、145頁。
[ii] トヨタトモヒサ「「ウルトラマンティガ」25周年、無限の可能性を提示した“光の巨人”の魅力」シネマトゥデイ、2021年11月20日。https://www.cinematoday.jp/page/A0008093
[iii] 「『ウルトラマンティガ』メインライター・小中千昭氏による書き下ろし小説『ウルトラマンティガ 輝けるものたちへ』が6/20(木)発売!同日開催イベントの限定グッズも発表!」円谷プロダクション公式サイト、2019年。小中千昭が『ウルトラマンティガ』のメインライターであったことが記されている。
[iv] 講談社編、前掲。脚本担当として右田昌万、小中千昭、宮沢秀則、川上英幸、武上純希、長谷川圭一ら18名が記載されている。各話の脚本担当については、『サンエイムック完全保存版ウルトラマンシリーズ大解剖ウルトラマンティガ ウルトラマンダイナ ウルトラマンガイア編』株式会社三栄、2026年、32頁と、TSUBURAYA IMAGINATIONウェブサイトを参照。第1話「光を継ぐもの」・第2話「石の神話」の脚本がいずれも右田昌万、第3話「悪魔の預言」の脚本が小中千昭であることが記されている。
[v] 市川知郷「小中千昭×切通理作トークショー"もっと高く!"レポート・『光を継ぐために ウルトラマンティガ』(1)」と「同(2)」、「私の中の見えない炎」ブログ、2015年5月24日。
[vi] 二重作昌満「【なぜ平成ライダーは世界で戦い続けるのか?】仮面ライダークウガからはじまった新時代の幕開けとは?」Yahoo!ニュース エキスパート、2024年12月4日。
[vii] 『サンエイムック完全保存版ウルトラマンシリーズ大解剖ウルトラマンティガ ウルトラマンダイナ ウルトラマンガイア編』、前掲、61頁。
[viii] 同上。
[ix] 「ウルトラマンガイア」円谷プロ公式サイトの作品紹介。大地の意志を代弁するウルトラマンガイアと、海洋の意志を代弁するウルトラマンアグルが、当初敵対しながらも後に協力関係へと至る構造が記されている。
[x] 「ウルトラマンガイア」バンダイチャンネル作品紹介「見どころ」。アニメ評論家・氷川竜介による、複数の専門家集団の連携によるリアルなSF設定と、積み重ねの末に対立を乗り越える大河ドラマ的な物語構成を評した寄稿が掲載されている。
