第7節 仮面ライダーゼッツとグローバル展開
令和ライダー第7作『仮面ライダーゼッツ』(Kamen Rider Zeztz)は、2025年9月7日、日曜日の放送開始とともに、シリーズにとって新しい段階に足を踏み入れた[i]。デザインの方向性を決定づけたのは、世界展開を視野に
入れた判断だったという。プロデューサーの谷中寿成は、テレビシリーズのゼッツについて「世界の方々に顔を覚えてもらうために、フォームチェンジであまり顔のデザインを変えなかった」と証言しており、装飾を「足す」のではなく「引き算」することでシルエットを研ぎ澄ませるという、シリーズとしては異色の造形方針も、同じ狙いによるものだった。デザインを手がけた山本輝は、この引き算のアプローチについて「これまでは情報を足していく方向性のデザインが多かったのですが、引き算のデザインは非常に難しくもあり、だからこそ、世界中の人々に受け入れられる強力な効果があるんだという収穫にもなりました」と振り返っている[ii]。
この判断の背景にある逆説は興味深い。海外市場を意識するのであれば、
より情報量の多い、目を引くデザインを打ち出す方が有利にも思えるが、
ゼッツの制作陣が選んだのは、むしろ装飾を削ぎ落とすという逆の道だった。シンプルであることの強度こそが、初めての本格的なグローバル展開を支える土台になり得る、という読みがそこにはあったのだろう。
この作品は、仮面ライダーシリーズの放送開始から55年目にして初めて、YouTubeなどを通じた世界同時配信という体制のもとに置かれた。配信対象は北米、北欧、中南米、アジア各国、中東、北アフリカなど広範囲に及び、これらの国や地域では、日本での配信開始とほぼ同じタイミングで番組を
視聴できる[iii]。奇しくも同じ時期、50年続いたスーパー戦隊シリーズがテレビシリーズとしての放送を休止しており、同じ東映・テレビ朝日の制作でありながら、ゼッツにはこれほど対照的な扱いがなされたことになる。
もっとも、この野心的な展開に対して、懐疑的な声がなかったわけではない。放送開始に先立って公開されたティーザー映像をめぐっては、その映像表現に生成AIが使われているのではないかという臆測がSNS上で広がった。東映自身は生成AI活用の有無を明らかにしていないため、これらの議論は
あくまで臆測の域を出ないものだったが、英語音声の使用やゼッツの「アメコミヒーロー」的な外見と結びつけて、「海外展開を意識しているのだろうが、海外で生成AIの利用が受け入れられるのか」と不安視する声も見られたという[iv]。
現時点では、この賭けが実際にどれだけの成果を上げているのかを評価するのは時期尚早だろう。装飾を削ぎ落としたシンプルなデザインで世界に踏み出すという方向性そのものの当否、そして生成AIをめぐる摩擦のような
新しい種類の懐疑をどう乗り越えていくのかについては、より詳細な検証を後の章に譲りたい。
これで、1989年からの10年余りの空白から始まった本章の旅は、一つの区切りを迎える。単発の映像作品による散発的な試み、クウガが切り開いた
リアリティという革命、アギト・龍騎・ファイズがそれぞれ掲げた哲学的な問い、龍騎が持ち込んだ「組織なき共食い」という構造、証明しがたい形で複雑化していった大人の視聴者という主題、そしてAIや資本主義といった
抽象的な構造そのものを敵に見立てる令和ライダーの新しい問い――これらすべての先に、ゼッツは仮面ライダーというフォーマットそのものを携えて、初めて世界という舞台に本格的に踏み出そうとしている。
[i] 「仮面ライダーゼッツ」仮面ライダーWEB【公式】、東映。令和ライダー第7作として2025年9月7日(日)より放送開始したことを確認。
[ii] 倉本拓弥「仮面ライダーゼッツエージェンドリーム誕生秘話 東映・谷中寿成P&PLEX山本輝デザイナー、映画限定フォームで初の試み」シネマトゥデイ、2026年7月23日。プロデューサー谷中寿成へのインタビューとして、テレビシリーズのゼッツについて「世界の方々に顔を覚えてもらうために、フォームチェンジであまり顔のデザインを変えなかった」との証言、および「全世界に向けて放つ新たな仮面ライダー1号というコンセプトで誕生した『仮面ライダーゼッツ』」という記述、デザイナー山本輝の「引き算のデザインは非常に難しくもあり、だからこそ、世界中の人々に受け入れられる強力な効果があるんだという収穫にもなりました」との証言を確認。
[iii] 「番組配信で変身!仮面ライダーの海外人気」Hobby Journal、2026年1月20日。仮面ライダーゼッツがテレビシリーズ放送開始から55年目にして初めてYouTubeなどを通じた世界同時配信(対象国:北米、北欧、中南米、アジア圏、中東、北アフリカなど)を行い、これらの地域で日本での配信とほぼ同じタイミングで視聴可能であること、同時期にスーパー戦隊シリーズが50年目にして放送休止となったことを確認。
[iv] 「仮面ライダー新作『ゼッツ』発表、『生成AIか否か』に注目集まる デザインやティーザー映像の背景が話題」ITmedia、2025年7月7日。ティーザー映像における生成AI使用をめぐる臆測、および英語音声・アメコミヒーロー的な外見から「海外展開を意識しているのだろうが、海外で生成AIの利用が受け入れられるのか」と不安視する声があったことを確認。
