第1節 特撮の「見えない作者」は誰か――プロデューサーという職能への問い
「プロデューサーとは何をする仕事か」と問われて、正確に答えられる観客はそう多くない。監督や脚本家であれば、少なくとも「演出する人」「台本を書く人」という直感的なイメージが持てる。だがプロデューサーの仕事の中身は、それよりはるかに掴みにくい。東映の採用サイトは、原作の使用
許諾を取り付けるところから、監督や脚本家とともに作品の骨格を練り、
市場の動きを見極め、出資者を募り、社内の審査を通すところまでを、この職能が一貫して担うと説明している[i]。さらに一般的には、資金調達、キャスティング、予算管理、撮影・放送スケジュールの進行管理、そして番組や映画の続投/打ち切りの判断までが、この仕事に含まれる。
つまりプロデューサーとは、脚本家が一行も書かず、監督が一度もカメラを回さない段階から、作品の生死を握っている存在である。にもかかわらず、その仕事の法的な帰属先は、しばしば個人の名前ですらない。2023年の
『シン・仮面ライダー』の劇場公開時、あらゆるポスターや予告編に付されていた著作権表示は、庵野秀明個人の名でも、東映という一企業の名でもなく、「©石森プロ・東映/2023『シン・仮面ライダー』製作委員会」という表記だった[ii]。「製作委員会」とは、一本の作品の権利と資金を複数の企業が分担して持ち合う、日本の映像産業に特有の共同事業体である。観客が
スクリーンの前で経験するのは、庵野秀明という一人の作家が刻んだ一つの作品だが、その背後で「プロデュースする」という行為の法的な主体は、
単一の個人ではなく、この匿名の共同体そのものなのだ。
第12章と第15章で見てきた着ぐるみ役者や脚本家、監督たちは、少なくともクレジットに個人名として刻まれ、ファンダムの語りの中で固有名を与えられてきた。プロデューサーは、この「見えない作り手」たちの中でも、さらに一段見えにくい位置にいる。ファンが「あの回の演出が良かった」「あの脚本家らしい台詞回しだ」と語ることはあっても、「あのプロデューサーの仕事が良かった」という語り口は、一般的なファンダムの語彙の中には、
ほとんど存在しない。
だが、前章で確認した作家主義――一本の作品に一貫した思想の刻印を読み取ろうとする批評的態度――を、もしプロデューサーへ適用できるとすれば、事情は変わってくる。一人のプロデューサーが十年、二十年という単位で同じシリーズに関わり続けるとき、そこには個々の脚本家や監督の交代を超えて持続する何かが宿るのではないか。本章は、この仮説を軸に据える。
ただし、この仮説には、少なくとも二つの留保を付けておく必要がある。第一に、本稿で採用している作家主義という枠組みそのものが、もともと監督中心主義への異議として登場した批評的立場である。これをプロデューサーへ横滑りさせることは、「見えない作者」をもう一人増やすだけで、脚本家や現場スタッフの作家性をかえって覆い隠しかねない。
第二に、日本のメディアミックス研究を牽引してきたマーク・スタインバーグの議論に従うなら、事情はさらに複雑になる。スタインバーグは、日本のメディアミックスが、アメリカにおける『スター・ウォーズ』的な「トランスメディア・ストーリーテリング」とは異なり、1963年の『鉄腕アトム』のテレビアニメ化とそのライセンスビジネスを起点とする「キャラクター中心」の展開として発展してきたと論じている[iii]。この見立てに従うなら、真の「作者」は個々のプロデューサーではなく、キャラクターとその使用権を媒介するシステムそのもの――スポンサーである玩具会社を含めた総体――だということになる。
本章は、これらの留保を退けるのではなく、むしろ抱えたまま進む。円谷一から市川南まで、プロデューサーたちの具体的な決断を追うことを通じて、「見えない作者」という仮説がどこまで持ちこたえ、どこで崩れるのかを、読者自身に判断してもらいたい。まずは、ウルトラシリーズの土台を築いた円谷一から見ていこう。
[i] 「仕事を知る」東映株式会社リクルートサイト。プロデューサーの業務として、原作権交渉、監督・脚本家とのプロット作成、マーケティング調査、出資の打診、東映内の企画審議等を挙げている。
[ii] 「シン・仮面ライダー」日本映画製作者連盟 映画情報システム。著作権表示として「©石森プロ・東映/2023『シン・仮面ライダー』製作委員会」を記載。
[iii] 野口光一「メディア変革期における「メディアミックス」の新展開――『妖怪ウォッチ』を事例に――」『アニメーション研究』19巻1号、日本アニメーション学会、2017年、31-44頁。同論文は、マーク・スタインバーグの議論を引きつつ、1963年の『鉄腕アトム』のテレビアニメ化を起点とする日本の「キャラクター中心」のメディアミックスが、アメリカにおけるトランスメディア・ストーリーテリングとは異なる展開を遂げてきたことを紹介している(スタインバーグ、2015年:228頁)。J-STAGEにて無料公開。
