第7節 Project R.E.D.という歴史の反復?
ゴジュウジャーの終了と入れ替わる形で、2026年2月15日、テレビ朝日系の日曜午前9時30分――まさにスーパー戦隊シリーズが占めてきたその放送枠で、新番組『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』が放送を開始した[1]。本作は、東映が新たに立ち上げた映像ブランド「PROJECT R.E.D.」の第1弾であり、「超次元英雄譚」の英訳(Records of Extraordinary Dimensions)の頭文字を取って名付けられている。1982年から1983年にかけて放送された、メタルヒーローシリーズの記念すべき第1作『宇宙刑事ギャバン』の精神を踏襲した作品と位置づけられており、多元宇宙(コスモレイヤー)を舞台に、さまざまなギャバンが存在するという設定が採用されている[2]。チーフプロデューサーを務める久慈麗人(東映)は、このプロジェクトについて、仮面ライダーとスーパー戦隊という「二大特撮に並ぶ『柱となる新シリーズ』」を作ることをミッションに掲げ、単発の一作にとどまらず、中・長期的に柱となりうる第3のIPを、次々と生み出していくことを目指していると説明している[3]。
第18章で見た通り、メタルヒーローシリーズという枠組み自体は、1988年から2000年までの仮面ライダーの空白期において、スーパー戦隊とともにテレビ朝日系の特撮放送を支え続けた実績を持つ。この史実を踏まえれば、戦隊が去った枠にメタルヒーローの系譜が入り込むという今回の展開は、一見、歴史の反復であるかのように見える。しかし、両者の対応関係を仔細に見ると、実際にはむしろ正反対の構造になっていることがわかる。1988年から2000年にかけては、仮面ライダーが完全に休止する一方で、メタルヒーローとスーパー戦隊がともに存続していた。これに対して今回は、仮面ライダー(ゼッツ)が放送を継続する一方で、スーパー戦隊が休止し、その空いた枠にメタルヒーローの系譜が新規参入するという構図になっている。「何が消え、何が残るか」という組み合わせそのものが、当時とは入れ替わっているのである。
さらに遡れば、メタルヒーローシリーズそのものの起点である『宇宙刑事ギャバン』(1982年)の成立事情も、今回とは異なる構図を持っていたことを思い出しておきたい。第18章で確認した通り、初代ギャバンは、仮面ライダーが不在だった時期に、当時放送中だった『太陽戦隊サンバルカン』(1981〜1982年)と並走する形で企画された作品であり、既存の戦隊シリーズの枠を奪って始まったものではなかった。つまり、メタルヒーローという系譜は、その誕生の瞬間から一貫して「戦隊の代替」として機能してきたわけではない。むしろ今回のギャバン インフィニティこそが、メタルヒーローの歴史の中で初めて、戦隊シリーズの放送枠そのものを直接引き継ぐという、新しい役回りを担っていることになる。
東映公式サイトによれば、本作の脚本は、『爆上戦隊ブンブンジャー』(2024年)のメインライターを務めた冨岡淳広が担当し、初回演出は、『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001年)でガオレッドのスーツアクターを務めて以降、スーパー戦隊シリーズで数々のレッドを歴任してきた福沢博文が、パイロット監督として初めて起用されている[4]。スタッフの人的な連続性という点では、ギャバン インフィニティは紛れもなくスーパー戦隊シリーズの延長線上にある。日経クロストレンドのインタビューで久慈は、「これまでスーパー戦隊シリーズを作ってきたなかで、歴代の作品を否定するような要素を入れないことを大切にしてきた」と述べており、スーパー戦隊という蓄積そのものを否定せず、そこに新しいブランドを接ぎ木するという姿勢を明確にしている[5]。
もっとも、PROJECT R.E.D.は単発の企画に終わらなかった。『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』の放送終了と入れ替わる形で、2026年7月26日、同じ日曜午前9時30分枠でシリーズ第2弾『角醒(かくせい)ハンター オメガホーン』が放送を開始した[6]。本作は、古代に地上を支配していたのち「エゴルギア」というアイテムに封じられた巨大生命体「角獣」と、「角醒器」と呼ばれる拡声器型のアイテムでその力を引き出す人間「ハンター」との、人間×巨大な獣という異色のバディが「ハンターバトル」を繰り広げるという世界観を採っている[7]。主人公・炎のシャウトが角獣王・炎角と出会い、揺るがず己の道を貫く心を意味する「エゴ」を軸に据えて戦っていくという構成が採られている[8]。脚本には、第1弾『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』と同じく冨岡淳広が起用され、プロデューサー陣にも久慈麗人が留任しており、スタッフ面での連続性が保たれている[9]。
制作者側のねらいについては、本稿執筆時点(2026年8月)では、オメガホーン単体を主題とした詳細なプロデューサー・インタビューはまだ出そろっていない。ただし、映画ナタリーの紹介記事は、PROJECT R.E.D.が「"赤いヒーロー"が活躍するシリーズ」として、第1弾『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』を皮切りに「さまざまな作品のキャラクターがクロスオーバーする」ことで「それぞれの世界観に奥行きを持たせる」多面的な展開を予定していると明記しており[10]、オメガホーンの投入は、すでに見た「1作だけではなく、次々と新ブランドを生み出していく」という久慈の当初の宣言を、実際に体現する最初の事例だと位置づけることができる。もっとも、この二作がどのように交差していくのか、その具体的な設計と成否については、放送継続中の現時点ではなお検証を後の機会に譲らざるを得ない。
第5節で見た白倉伸一郎の言葉を思い出すなら、「戦隊も自立心を持たなきゃ」という自立化の方針と、「二次創作的な発想から抜け出せていない」という自己批判、そして「一度休んでみるのもありなんじゃないか」という決断は、いずれもスーパー戦隊シリーズという枠組み自体を相対化しようとする動きだった。PROJECT R.E.D.は、この相対化の帰結として理解することができる。スーパー戦隊という一つの看板を存続させることに固執するのではなく、東映が保有するヒーロー資産――この場合はメタルヒーローという、40年以上前から存在してきた別の系譜――を動員し、「赤いヒーロー」という、より緩やかで拡張性の高い新しいブランドへと組み替えていく。歴代戦隊というストックを呼び出し続けてきた第2節から第4節までの自己言及の運動が、最終的にたどり着いたのは、戦隊という枠組みそのものを一旦手放し、その経験を新しい看板の下で再利用するという、もう一段抽象化された自己言及だったと言えるだろう。
本章で見てきたスーパー戦隊の半世紀は、性質の異なる二つの水脈が並走する歴史だった。一つは、第1節で見た、井上敏樹という一人の書き手の作家性に始まり、小林靖子を経て、31年後のドンブラザーズで井上自身へと回帰していく、脚本家個人の作家性に根差した「人間ドラマ化」という水脈である。もう一つは、第2節から本節にかけて見てきた、東映という制作会社が周年や記念という節目ごとに主導し、歴代戦隊というストックを反復的に呼び出し、最終的にはブランドそのものの組み替えにまで至った、企業戦略としての「ポストモダン化」という水脈である。この二つは、同じ「スーパー戦隊」という看板の下で進行しながらも、それぞれ別の力学によって動いていた。そのどちらか一方だけでは、なぜこのシリーズが半世紀にわたって形を変え続け、そして2026年にその名を一旦手放すに至ったのかを、十分に説明することはできない。
[1] 「PROJECT R.E.D.」東映株式会社公式サイト。「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」2026年2月15日(日)スタート、毎週日曜午前9時30分〜10時、テレビ朝日系24局にて放送と記載。「PROJECT R.E.D.」目指すは東映"第3の柱" プロデューサーが挑む仮面ライダー&スーパー戦隊に続く新ブランド設立」シネマトゥデイ、2026年2月12日。「新番組『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』が、スーパー戦隊シリーズの放送枠(テレビ朝日系・毎週日曜午前9時30分〜)で間もなくスタートする」と記載。
[2] 「【PROJECT R.E.D.】第1弾『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』宇宙を舞台にしたメインビジュアル解禁!!」東映株式会社公式サイト。「宇宙は一つではない。いくつも重なる多元宇宙(『コスモレイヤー』)には、私達が住む地球とそっくりな別の地球が存在する――」という多元宇宙論の世界観で展開すると記載。「『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』キャスト&登場人物&ビジュアル【まとめ】」シネマトゥデイ。1982年放送の『宇宙刑事ギャバン』の精神を継承した作品であることを紹介。
[3] 「『PROJECT R.E.D.』目指すは東映“第3の柱” プロデューサーが挑む仮面ライダー&スーパー戦隊に続く新ブランド設立」シネマトゥデイ、前掲。チーフプロデューサーを務める久慈麗人(東映)の発言として、「『PROJECT R.E.D.』では、中・長期的に見ても柱となりうる第3のIP(知的財産)、仮面ライダーやスーパー戦隊と並び立つぐらいのブランドを作っていきたいと思っています。1作だけではなく、次々と新ブランドを生み出していくことを目指しています」と記載。
[4] 「【PROJECT R.E.D.】第1弾『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』宇宙を舞台にしたメインビジュアル解禁!!」東映株式会社公式サイト、前掲。「本作の脚本を担当するのは…『爆上戦隊ブンブンジャー』(2024年)では、メインライターとして魅力的なキャラクターと印象的なエピソードを手掛けた冨岡淳広。また、初回の演出を担当するのは福沢博文。『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001年)でガオレッドのスーツアクターを務めて以降、『スーパー戦隊シリーズ』で数々のレッドを歴任し…福沢が、初めてパイロット監督として作品に参加する」と記載。
[5] 「『超宇宙刑事ギャバン インフィニティ』特撮ヒーロー"第3の柱"へ」日経クロストレンド、2026年2月12日。久慈麗人氏の発言として、「これまでスーパー戦隊シリーズを作ってきたなかで、歴代の作品を否定するような要素を入れないことを大切にしてきた」と記載。
[6] 「PROJECT R.E.D.第2弾「角醒ハンター オメガホーン」7月開始、主演は楢原聖」映画ナタリー、2026年6月21日。「東映による特撮ドラマシリーズ・PROJECT R.E.D.の第2弾として「角醒(かくせい)ハンター オメガホーン」が7月26日9時30分よりテレビ朝日系でスタートする」と記載。「角醒ハンター オメガホーン:「PROJECT R.E.D.」第2弾スタート」MANTANWEB、2026年7月24日。「東映の新たな特撮シリーズ「PROJECT R.E.D.」の第2弾「角醒ハンター オメガホーン」(テレビ朝日系、日曜午前9時半)が、7月26日にスタートする」と記載。
[7] 「「角醒ハンター オメガホーン」に三浦舞華、加藤憲史郎、光宗薫、桜庭大翔が出演」映画ナタリー、2026年7月19日。「「角醒ハンター オメガホーン」の世界では、"角獣"という巨大な生命体が古代に地上を支配していたが、あるときを境に「エゴルギア」というアイテムに封じられ地上から姿を消した。そして現代、"角醒器"と呼ばれる拡声器型のアイテムを使ってエゴルギアに封印された角獣の力を引き出す人間たちが現れ、"ハンター"と呼ばれるようになった」と記載。「【PROJECT R.E.D.】第2弾『角醒(かくせい)ハンター オメガホーン』キャスト&メインビジュアル超最速で一挙解禁!」東映株式会社公式サイト。「《人間✕巨大な獣》の異色バディーが《ハンターバトル》に挑む最新作!」と記載。
[8] 「「角醒ハンター オメガホーン」キャスト&登場人物&ビジュアル【まとめ】」シネマトゥデイ。「シャウトは現代のハンターたちが使う角醒器とは異なる「角醒器 オメガホーン」に戸惑いながらもエゴルギアをセットしてみることに。すると角をもった巨大な獣・炎角(えんかく)が現れ、シャウトのエゴ(=揺るがず己の道を貫く心)に"王"の資質を見出す、という趣旨の記載。
[9] 「「角醒ハンター オメガホーン」に三浦舞華、加藤憲史郎、光宗薫、桜庭大翔が出演」映画ナタリー、前掲。スタッフとして「脚本:冨岡淳広 監督:加藤弘之」、プロデューサーとして「芝高啓介(テレビ朝日)/久慈麗人/髙橋諒平(東映)/長橋丈二/小笠原栞菜(東映エージエンシー)」と記載。
[10] 同上。「PROJECT R.E.D.は"赤いヒーロー"が活躍するシリーズで、第1弾の「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」を皮切りに、さまざまな作品のキャラクターがクロスオーバーする。それぞれの世界観に奥行きを持たせる多面的な展開が予定されている」と記載。
