第3節 モチーフの変遷
自己言及性という縦糸とは別に、スーパー戦隊には、もう一つの変化の軸があった。ヒーローたちが何をモチーフとして造形されるかという、横糸にあたる変化である。1975年のゴレンジャー以来、初期の戦隊は科学や軍事組織といった、当時のリアリズムに沿ったモチーフを中心に据えていたが、1990年代以降、この選択の幅は急速に多様化していく。
ここで確認しておきたいのは、モチーフや造形の多様化それ自体は、シリーズが過去の自作を素材として召喚するという狭義の自己引用とは、性質を異にするという点である。しかし、この時期に蓄積された多様なモチーフと、パーツ組み替えによる合体システムという設計上の型は、後の節で見る周年記念企画やレジェンド回が参照する「過去のストック」そのものを形成していく。本節が扱うのは、自己引用が本格化するための前提条件——シリーズが自らの過去を「引用可能な素材」として蓄積していくプロセス——である。
その最初の大きな転換点が、1992年2月に放送を開始した第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー』である。5人の戦士が恐竜をかたどった守護獣とともに戦うというこの作品は、東映公式サイトでも「恐竜の守護獣と共に戦う伝説の戦士」と紹介されている[i]。恐竜というモチーフの選択について、マグミクスの記事は、恐竜が当時「悪役」のイメージから敬遠されがちだった事情を踏まえつつ、映画『ジュラシック・パーク』(日本公開は1993年)に先立つ形で恐竜ブームの到来を見込んでいたという関係者の発言があったことを紹介している[ii]。発言者個人の氏名までは明らかにされていないものの、少なくとも結果として、ジュウレンジャーの恐竜モチーフが、映画とほぼ同時期の恐竜ブームと共鳴する形になったことは事実である。
忍者と侍という、日本の伝統文化に根ざしたモチーフの導入も、この時期以降に本格化する。1994年放送の第18作『忍者戦隊カクレンジャー』は忍者をモチーフとし[iii]、2009年放送の第33作『侍戦隊シンケンジャー』は[iv]、スーパー戦隊シリーズとしては初となる侍をモチーフに据えた作品だった[v]。シンケンジャーではレッドが「殿」、他のメンバーがそれに仕える「家臣」という上下関係が設定の基本軸に組み込まれており、この上下関係が物語と人間関係の骨格を成していた[vi]。ゴレンジャー以来蓄積されてきた「集団の論理」というフォーマットに対し、あえて主従という不均衡な人間関係を持ち込むという点で、シンケンジャーは、第10章で見た平等な戦隊像からの、一つの意識的な逸脱でもあった。
動物モチーフも、単発の試みにとどまらない太い水脈を形成していく。2001年の第25作『百獣戦隊ガオレンジャー』は、前節で見た通り25作記念という節目を背負いつつ、同時に動物モチーフを前面に押し出した作品でもあった[vii]。2016年の第40作『動物戦隊ジュウオウジャー』も、動物をモチーフとした人型生命体たちが力を合わせて戦うという作品だった[viii]。この系譜が受け継がれていると言えるだろう。
こうしたモチーフの多様化と並行して進んだのが、巨大ロボの合体方式そのものの変化である。1996年放送の『激走戦隊カーレンジャー』第40話では、1号ロボ「RVロボ」と2号ロボ「VRVロボ」が、それぞれの手足を入れ替えて合体するという「天下の浪速ロボスペシャル」という形態が登場した[ix]。ガオレンジャー以降のスーパー戦隊ロボは、この「パーツを入れ替えることで多様な形態を作り出す」という発想を、単発の一エピソードの趣向としてではなく、シリーズを通じた体系的な設計原理へと発展させていくことになる。ガオレンジャーの巨大戦力は、複数の「パワーアニマル」を組み替えることで、幾通りもの形態を作り出すシステムを採用した。
この設計思想の転換は、単なる演出上の工夫にとどまらない、商業上の合理性を伴っていた。ベースとなるロボットに対し、腕や頭部として合体する
サポートメカを次々に追加していけば、理論上は際限なく新しい玩具の組み合わせを商品化できる。この方式は、ガオレンジャー以降、後の章で改めて扱う「トッキュウジャー」前後の時期に至るまで、繰り返し採用されていくことになるが、その先で何が起きたのかについては、後の節で改めて論じたい。
次節では、こうしてモチーフを多様化させながら蓄積されてきたシリーズの過去そのものが、まさにジェイムソン的な意味での自己引用の対象として、「懐かしさ」という形でどのように商品化されていったのかを見ていく。
[i] 「恐竜戦隊ジュウレンジャー!ヒストリー1992」せんたいヒストリー、とうえいヒーローフレンズ、東映公式サイト。「恐竜の守護獣と共に戦う伝説の戦士のスーパー戦隊だ!」と紹介。放送期間1992年2月21日~1993年2月12日、スーパー戦隊シリーズ第16作目。
[ii] 加々美利治「『ジュウレンジャー』放送30周年 海外進出も実現、ヒーロー番組の歴史を変えた作品」マグミクス、2022年2月21日。恐竜モチーフは当時「悪役」のイメージから敬遠されがちだったが、翌年公開の『ジュラシック・パーク』が恐竜モチーフ選定の一因になったという発言もあったことを紹介している。発言者の氏名は記事中で明かされていない。
[iii] 「忍者戦隊カクレンジャー」特集、東映ビデオオフィシャルサイト。「シリーズ第18作にして、初の"忍者"スーパー戦隊が誕生」と紹介。放送期間1994年2月~1995年2月。
[iv] 「侍戦隊シンケンジャー特集」東映ビデオオフィシャルサイト。脚本:小林靖子。放送期間2009年2月~2010年2月。
[v] 「『侍戦隊シンケンジャー』は戦隊ヒーローの歴史を変えた名作!」ciatr、2018年3月16日更新。志葉丈瑠が「殿」、他のメンバーが「家臣」という上下関係がはっきりしており、最初は厳格だった関係性が徐々に肩書きにとらわれない仲間関係へと変化していく過程が描かれていたと紹介。
[vi] 同上。
[vii] 「百獣戦隊ガオレンジャー!ヒストリー2001」せんたいヒストリー、とうえいヒーローフレンズ、東映公式サイト。「地球の守護神・パワーアニマルによって選ばれたガオの戦士たちは、野性味あふれるダイナミックな戦法で戦うぞ!」と紹介。放送期間2001年2月18日〜2002年2月10日、スーパー戦隊シリーズ第25作目。
[viii] 「動物戦隊ジュウオウジャー!ヒストリー2016」せんたいヒストリー、とうえいヒーローフレンズ、東映公式サイト。「人間と動物の姿をしたジューマンたちがであい、力をあわせてたたかうよ!」と紹介。放送期間2016年2月14日〜2017年2月5日、スーパー戦隊シリーズ第40作目。
[ix] 『激走戦隊カーレンジャー』第40話「浪速ともあれスクランブル交差ロボ!?」本編後半アイキャッチ後6分目から登場している。
