第6節 カラータイマーという神話——3分間はいかに作られたか
ウルトラマンの身体の中で、もっとも広く知られたディテールは、この巨大なヒーローが、実は最初のデザインには存在しなかった要素だという事実である。
成田亨によるウルトラマンのデザインには、当初、胸のカラータイマーは
存在しなかった。番組製作上、後付けで加えられた要素だった[i]。「天才的な発明」として語られがちなこの意匠は、実際には、デザイナー本人の意向を超えたところで、現場の必要性から追加された妥協の産物だった。
もう一つ、広く信じられている「事実」に、慎重な検証が必要である。
「ウルトラマンは3分間しか戦えない」と幅広い視聴者に認知されているが、本作品の作中およびシナリオにおいて3分間と言及されているわけではない[ii]。企画段階の「レッドマン最終申し合わせ事項」やTBS側の宣伝資料には、青色で3分間、黄色に変わると注意信号、赤色になるとあと30秒という、より具体的な設定が記されていたが[iii]、放映が近づくにつれてこれらの記述は徐々に簡略化され、完成した本編のナレーションでは、太陽エネルギーが地球上で急激に消耗するという説明にとどまり、具体的な時間には言及していない[iv]。作中で唯一、時間に触れているのは第7話のイデ隊員の「あと30秒だ」という台詞だけである[v]。
企画書や宣伝資料にあった「3分間」という数字を、明確な形で世に広めたのは、番組本編ではなく、円谷特技プロに関わっていた大伴昌司だった。
大伴は、怪獣や宇宙人のプロフィールを詳細に設定する役割を担っていた[vi]。大伴はこの「3分間」という数字を、『少年マガジン』などの児童雑誌で簡略化して紹介している[vii]。つまり「3分間」は、制作陣の誰かが独断で決めた秘密の設定が後年発掘されたのではなく、番組制作に関わっていた
人物自身の手によって、雑誌というメディアを通じて視聴者の共通認識へと定着していった数字だったのである。作中で「ウルトラマンのエネルギーは3分間しか続かない」と初めて明言されたのは、それから5年後の『帰って
きたウルトラマン』第1話まで待たなければならない[viii]。
では、なぜ「3分」という長さそのものが選ばれたのか。この点については、複数の説明が並び立ったまま、決定的な一次資料が見つかっていない。制作費・撮影日数の観点からの説明は根強い。特撮シーンには通常のドラマシーンよりはるかに多くの予算と手間がかかるため、30分番組の中で怪獣とヒーローの対決シーンに割ける時間を試算した結果、3分が現実的な限界だったとする見方がある[ix]。
一方、『ウルトラマン トレジャーズ』を監修した娯楽映画研究家・佐藤利明は、コストのかかる特撮シーンを抑えつつ、視聴者が対決のダイナミズムを味わえる時間として、ボクシングの1ラウンドと同じ3分間が選ばれたのではないかと分析しており、この枷があることでファイトシーンの緊張感が生まれたとも指摘している[x]。
この二つの説明は、必ずしも排他的ではない。コストの制約が「3分程度」という大枠を決め、その枠の中で最も収まりのよい、観客にとって馴染みのある長さとして「ボクシングの1ラウンド」という基準が採用された、
という理解も可能である。
いずれにせよ、この問いに決定的な答えを出せる者は、当の円谷プロダクション自身にもいない。同社は取材に対し、「ウルトラマンの活動時間の理由につきましては、諸説ございますので、弊社としての公式見解という形での明言はしていない状況です」と回答している[xi]。
半世紀以上にわたって語り継がれてきた「3分間」という神話は、その起源においてさえ、一つの確定した物語を持たない。カラータイマーも、3分間という設定も、当初から統一された設計思想のもとに生み出されたものではなく、現場の必要、他部署の裁量、雑誌メディアの解説、そして視聴者自身の記憶が幾重にも折り重なって形成された、事後的な神話だったのである。
[i] 幕田けいた・工藤健志「カラータイマーのない、成田亨が描いたウルトラマンの原点。子息が明かす、マスク創作秘話と父親としての顔」Pen Online、2022年6月16日。https://www.pen-online.jp/article/010622.html
[ii] 北村泰介「ウルトラマンの活動時間が「3分間」の理由…特撮コスト説が有力、ボクシングとも関係!?」まいどなニュース、2020年2月12日。
[iii] 同上。
[iv] 『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」本編21分目ナレーション。
[v] 『ウルトラマン』第7話「バラージの青い石」本編21分目。
[vi] 「「奇っ怪紳士!怪獣博士! 大伴昌司の大図解展」弥生美術館(東京都文京区)にて本日7/6(金)より開催!」円谷プロダクション公式サイトニュース2012年7月6日。
[vii] ウィキペディア「ウルトラマン」。
[viii] 北村、前掲。『帰ってきたウルトラマン』第1話「怪獣総進撃」本編21分目ナレーション。
[ix] 奥田修二「ウルトラマンが3分しか戦えない理由とは!?」『ガクテンソク奥田のGossip Times』vol.21、FANY Magazine。特撮シーンにかかる時間とお金がかかる中、子供たちが楽しみにしている戦闘シーンを削ることはしたくないという事情から、予算と時間のギリギリの範囲で3分間の戦闘シーンとなったとされる。
[x] 北村、前掲。コストのかかる特撮シーンを抑えつつ、視聴者が対決のダイナミズムを味わえる時間が「ボクシングの1ラウンド」と同じ長さの3分間となったとし、その制限時間をカラーテレビで効果的に見せるためにカラータイマーが設定されたと指摘している。
[xi] 同上。
