第6節 令和ライダーの新しい問い――AIと資本主義を敵にする
平成ライダーが「力とは何か」「正義は一つか」といった、人間そのものをめぐる哲学的な問いを掲げてきたのに対し、令和ライダーは、より現代社会の構造そのものを主題化する傾向を強めていく。その最初の顕著な例が、2019年9月1日から2020年8月30日にかけて放送された『仮面ライダーゼロワン』(全45話、脚本高橋悠也ほか、プロデューサー井上千尋・水谷圭・大森敬仁)である[i]。AIの最先端企業「飛電インテリジェンス」の社長が、暴走するAIロボ「ヒューマギア」と対峙しながら仮面ライダーへと変身すると
いうこの設定は、令和という時代にふさわしく、AIそのものを主題に据えた作品として企画された。
しかし、この作品の制作は、当時誰も予期しなかった外的要因によって大きく揺さぶられることになる。最終回放送時に東映公式サイトに掲載された
制作陣自身の言葉によれば、新型コロナウイルスの感染拡大により、撮影は約1ヶ月半にわたって中断し、数々のイベントや劇場版の公開までもが延期を余儀なくされたという[ii]。放送そのものも一時的に特別編成へと切り替えられている[iii]。当初思い描いていた形で物語を完結させることができなかったゼロワンの世界観は、その後もスピンオフ作品として断続的に拡張され続け、2024年12月に配信された『仮面ライダーアウトサイダーズ』の最終エピソードをもって、ようやく一つの区切りを迎えることになった[iv]。2019年の放送開始から数えれば、実に5年がかりの完結だったことになる。
令和4作目にあたる『仮面ライダーギーツ』(2022年9月4日〜2023年8月27日、全49話、脚本高橋悠也)では、テーマはさらに剥き出しの形をとる。人々を脅かす敵「ジャマト」から平和を守るという名目のもと、水面下では「デザイアグランプリ」という生き残りゲームが行われている。参加者は
それぞれ「叶えたい願い」を抱えており、最後まで生き残った者だけが
「デザ神」となり、その願いを叶えることができる、という設定である[v]。キャスト発表にあたり、脚本の高橋悠也自身が「生き残りゲームをテーマにした仮面ライダー」であることを認めたうえで、「多人数ライダーが生き残りをかけて戦うということで当然、生き残らないライダーも出てきます」と語っていたことも記録されている[vi]。
参加者が自らの命を賭けて戦い、勝ち残った者だけがその対価として願いを叶えられるというこの構造は、剥き出しの競争原理のメタファーとして読むことができるだろう。ゼロワンのAI、ギーツの生き残りゲーム――令和ライダーが相次いで掲げてきたこれらのテーマは、目に見える悪の組織を倒す
ことではなく、現代社会そのものを構成している抽象的な構造――技術と
欲望、そして競争――を敵として描き出そうとする試みだったと言える。
もっとも、ゼロワンの場合、その野心的な設計は制作外部からの偶発的な力によって大きく揺さぶられ、当初思い描いていた物語を完結させるのに5年もの歳月を要することになった。テーマの壮大さと、それを完成させることの難しさとは、令和ライダーにおいて表裏一体の関係にあったと言えるかもしれない。
次節では、この令和ライダーの延長線上に位置づけられる最新作『仮面ライダーゼッツ』が、シリーズとして初めて本格的なグローバル展開に踏み出した経緯を見ていく。
[i] 「仮面ライダーゼロワン」仮面ライダーWEB【公式】、東映。放送期間2019年9月1日〜2020年8月30日(全45話)、脚本高橋悠也ほか、プロデューサー井上千尋(テレビ朝日)・水谷圭(テレビ朝日)・大森敬仁(東映)と表記。
[ii] 「ゼロワン46話:最終回を終えて」仮面ライダーWEB【公式】、東映、2020年8月。制作陣自身の言葉として、新型コロナウイルスの感染拡大により撮影が約1ヶ月半にわたり中断したこと、数々のイベントや劇場版の公開も延期となったことを確認。
[iii] 「『ゼロワン』&『キラメイジャー』が新型コロナ影響で新作の放送延期 17日から特別編成に」ORICON NEWS、2020年。新型コロナウイルス感染拡大の影響で撮影スケジュールに変更が生じ、新作の放送を延期し特別編成で放送されたことを確認。
[iv] 「『仮面ライダーアウトサイダーズep.7 アウトサイダーズと最期の戦い』」東映株式会社、2024年12月。同エピソードが2024年12月22日に配信され、シリーズが完結を迎えたことを確認。
[v] 「仮面ライダーギーツ」アニメイトタイムズ作品ページ。放送期間2022年9月4日〜2023年8月27日(全49話)、「デザイアグランプリ」という生き残りゲームの設定、参加者がそれぞれ「叶えたい願い」を持ち最後まで生き残った者だけが「デザ神」となり願いが叶うという筋書きを確認。
[vi] 「『仮面ライダーギーツ』キャスト発表 脚本・高橋悠也『生き残らないライダーも出てくる』」シネマトゥデイ。高橋悠也自身が本作を「生き残りゲームをテーマにした仮面ライダー」と説明し、「生き残らないライダーも出てきます」と語ったことを確認。
