山口はなぜ首相が多いのかを考察する3選
山口は最も首相が多い県とされる。実際には出身地で言えば東京が一番多いのだが、何人かが選挙区を別の都道府県に移した結果、山口が最も多いことになっている。
それは山口県が最多って言えるのかと疑問に思うのだが、では何をもって首相の数をカウントすればいいのだろうか。例えば42代目の首相である鈴木寛太郎は出生地が大阪の堺市であるが、3歳頃に千葉の野田市に移住している。
もし、首相の条件となる何かしらの規則性が分かれば、それを元に再集計する材料にはなるのではないかと考えた。先にいつものごとく観光地の3選を紹介し、後半部分で仮説を展開してみた。
①伊藤公記念公園(光市)

写真の建物は初代総理大臣の伊藤博文が自らの邸宅として設計したが、完成する前に生涯を終えた。旧伊藤博文邸として公開されている。

こちらは伊藤博文の生家。伊藤博文は周防国、現在の光市に生まれたが、8歳の時に萩へ移住する。15歳の時に藩命で浦賀の警備につくが、翌年には萩に戻り、17歳のときから松下村塾へ通った。27歳に兵庫県知事となり、萩から神戸へと移住する。
②田布施町郷土館(田布施町)


岸信介、佐藤栄作の遺品が展示されている。
岸信介・佐藤栄作は兄弟であり、岸信介は安倍晋三の祖父である。岸信介は1896年に山口市に生まれるが、本籍地は田布施町だった。父親の佐藤秀助は1898年に山口県庁の官吏を辞め、岸信介が2歳の時に田布施町の実家の傍で酒造業を始める。1901年、弟の佐藤栄作が生まれる。
岸信介は小学4年生の時に岡山の内山下小学校に転校する。岡山中学校に進学するも、彼の面倒を見ていた叔父が急逝した為、山口中学校に転校する。中学3年生の時に父親の実家の岸家の養子となり、岸信介となる。東京の高校に入学し、東大へ進学する。弟の佐藤栄作は高校から熊本の五高へ通い、東大へ進む。
③吉田松陰歴史館


吉田松陰の生涯を人形を使って展示している。
また、山口出身の歴代首相8人の人形が展示されている。この中で安倍晋三は東京で生まれ、本籍地だけ山口の長門市となっている。安倍晋三は大学時代まで東京で過ごし、その後アメリカに留学し、帰国後、神戸製鋼所へ入社した。
薩摩藩(鹿児島)と長州藩(山口)が薩長同盟を組んだのは1866年。土佐藩(高知)と肥前藩(熊本)が加わり、薩長土肥として明治維新に影響を与えた。明治政府や陸海軍の要職はこの4藩によって形成される。
伊藤博文が初代総理大臣に就いてから、薩摩藩と長州藩によって首相の席は占められた。そのことを藩閥政治という。
伊藤博文(長州)・・・・・・初代、5代目、7代目、10代目
黒田清隆(薩摩)・・・・・・2代目、
山県有朋(長州)・・・・・・3代目、9代目
松方正義(薩摩)・・・・・・4代目、6代目
桂太郎(長州)・・・・・・11代目、15代目
山本権兵衛(薩摩)・・・・・・16代目、22代目
寺内正毅(長州)・・・・・・18代目
この通り、山口の総理が多いのは初期の藩閥政治によるものが大きい。しかし、その後、東京が11人と山口を追い抜いている。
これは歴代総理の出身地の地図である。疑問に思ったのは関西が思いのほか少ないということである。これは何を意味しているのか? ここから私なりの視点に進む。
江戸時代に300年続いた幕藩体制は、藩ごとで異なる方言を形成した。例えば、青森県の方言は津軽藩、南部藩、下北藩で分かれている。
現在の標準語は山の手言葉が母体であると言われている。山の手言葉とは東京の山の手(山手線の内側)で武士階級が使っていたとされる言葉で、明治以後、国定教科書に採用されて全国に広まった。ちなみに有名な山の手言葉として「ざます」がある(トニー谷さんが使ってましたね)。

この地図は全国のアクセントを分類したものである。御覧の通り、東京式アクセントが最も多い。京阪式アクセントは近畿地方や四国に広がるアクセントで、東京式アクセントとは違う規則性を持つ。白い場所は無アクセントで、そもそも規則性を持たないため、単語が平坦な発音になる。
先ほどの首相の出身地の地図と見くべて欲しいのだが、京阪式アクセントと無アクセントの地域は首相が少ない。京阪式アクセントの地域は特に人口比率的に少なさが目立つ。青い地域は首相の出身地が被っているように見える。
そもそもアクセントとは何か? 日本はピッチアクセントといい、音の高低で単語を認識する。英語は強勢アクセントといい、音の高低ではなく、強さで判断する。
例えば、雨と飴は東京式アクセントでは
雨・・・・・・あ(高)・め(低)
飴・・・・・・あ(低)・め(高)
である。
しかし京阪式アクセント
雨・・・・・・あ(低)・め(高)
飴・・・・・・あ(高)・め(低)
となる。
無アクセントでは
雨・・・・・・あ(平坦)・め(平坦)
飴・・・・・・あ(平坦)・め(平坦)
となる。
アクセントを文章単位で見ると、意味が限定されるとアクセントを弱める規則がある(『日本語のイントネーション──しくみと音読・朗読への応用』郡史郎 著)。

要するに後の文章の意味が予測できれば、予測できる文章のアクセントは弱められるのである。つまり、アクセントは情報量に関わっているのである。
ここから自説を展開する。
結論を言うと、日本語のピッチアクセントは会話の速度調整に関わっているのではないか、という話である。単語に音の高低を作ることで、脳内で情報を処理しやすい速度・情報密度に合わせているのではないだろうか。また、高いアクセントは聞く側の脳にストレスを与え、相手側の脳のテンションを上げる役割を担っているのではないか。ちなみに英語のピッチにスピードという概念は含まれておらず、和製英語特有の意味である。
京阪式アクセントの特徴として文末のイントネーションが上がる。これは相手に疑問を投げる時に末尾を上げるように、相手の脳にストレスをかけて会話を促すことに繋がっているのではないか? 関西人といえばボケとツッコミである。また、京阪式アクセントは抑揚(イントネーション)が標準語よりも多い。その為、とても感情的に聞こえるのである。
また、方言は脳の使い方に影響する。例えば、無アクセントである東北地方の南部方言話者はアクセントが分からないので抑揚として処理しているという研究がある。
おそらくはそれぞれのアクセントに適した語彙の体系があり、それは思想・世界観として反映されるのではないか。生まれ育った語彙体系が異なると、例えば東京人や大阪人のようにテンションが合わなかったりする。その辺でコミュニケーションの難しさを感じたりするのは想像しやすいのではないだろうか
結局何が言いたいかと言うと、人生を決めるのは遺伝子だけでなく、自分を育む文化的環境としての方言も自らの選択に影響しているのではないか、ということである。そして、首相も例外ではないのではないか?
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