ドイツ語文学の100年間のベスト100作品その②
ドイツの週刊誌デア・シュピーゲル Der Spiegel が1924年から2024年までの「100年間のベスト100文学作品」を選出
5月にこのアカウントのnoteにあげた「その①」の続きです。ご勘弁願いたいことがあります。前回と記載内容(記載項目など)が多少違っています。また、内容も薄くなっています。すみません。また、100作品をすべてチェックしてみたのですが、前回に2作品選ばれている作家がいる旨記載しているのですが、間違いでした。隠さず言うと、ヘルタ・ミュラー Herta Müller とハイナー・ミュラーを Heiner Müller を見間違えていました。
加えて、100作品には例えば、ヘルマン・ヘッセやブレヒトのような大物作家がいません。ツェランのような、詩をメインに活動している作家たちもいません(100作品の詩がありません)。そうすると、きちんと選考基準を確認しなければならないのですが、そこは有料サイトであることと、面倒なので。どこかで必ず。
もうひとつあります。いまのところ「その③」はnoteにあげないつもりです。その代わりに、100作品を網羅した、16ページの小冊子を作成しました。かなりやっつけ感はあるのですが、これはイベントなどに出店した際に、数百円で、販売をしようと思っています。イベントにこられない方向けには次のサイトで販売しますので、そちらを覗いてみてください。
それでは本題に。今回は1995年からはじまります。
1995年~1970年
◆フェリドゥン・ザイモグル Feridun Zaimoghlu,1964-
◇『カナーケの言葉』Kanak Sprak, 1995(未訳)
トルコ生まれですが幼少期に旧西ドイツへ移住したトルコ系の作家で、ドイツ語で創作活動をしています。この作品もドイツで暮らすトルコ系2世、3世の若者たちを描いた小説です。反人種差別運動や反同化主義活動を積極的に行っています。
〇作者の邦訳:ありません
◆マルセル・バイアー Marcel Beyer 1965-
◇『夜に甦る声』Flughunde, 1995(三修社1997)
ドイツの作家・詩人です。エッセイストや編集者、またウィリアム・S・バロウズなどの翻訳家としても活動しています。この作品は第二次世界大戦からドイツ第三帝国の崩壊に至る時代に生きた音響技師と少女の二人を主人公とした小説です。
〇作者の他の邦訳:ありません
◆クリスティアン・クラハト Christian Kracht 1966-
◇『ファーザーラント』Faserland, 1995(三修社1996)
スイス出身で、現代ドイツ語文学を代表する作家の一人です。本作品はドイツ再統一後のドイツを旅する主人公から見た若者たちを描いた小説になっています。
〇他の邦訳に1930 年代初頭のハリウッドに勝利すべく始まった日独合作のホラー映画撮影現場を舞台にした長編小説『死者たち』(河出書房新社2025)があります
◆ハイナー・ミュラー Heiner Müller 1929-1995
◇『闘いなき戦い』Krieg ohne Schlacht, 1992(未来社1993)
第二次世界大戦後のドイツ語文学を代表する劇作家で、旧東ドイツで活動していました。この作品はナチと社会主義の二つの独裁下に生きた劇作家としての自らを描いた自伝です。
〇邦訳も多数あります。代表作に戯曲『ハムレット・マシーン』(未来社1992)、『ゲルマーニア ベルリンの死』(早稲田大学出版部1991)などがあります
◆ルート・クリューガー Ruth Klüger 1931-2020
◇『生きつづける』weiter leben, 1992(みすず書房2024)
オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系作家です。第二次世界大戦後はアメリカに移住しました。強制収容所に収容されていたことがあり、本作品は自らの体験を基に、収容所での経験や脱走、戦後のドイツ、アメリカでの日々を描いた自伝文学作品になっています
◆ベーツァ・カネッティ Veza Canetti 1897-1963
◇『黄色い街』Die gelbe Straße,1990(法政大学出版局1999)
オーストリア・ウィーン出身の劇作家・小説家です。ノーベル文学賞受賞のエリアス・カネッティの妻で、夫ともにロンドンで暮らし、亡くなっています。この作品はウィーンのユダヤ人街を舞台に、虐げられ、孤立し、不器用に生きる奇人・変人などの人間模様を描く短編集です
◆クリストフ・ランスマイヤー Christoph Ransmayr 1954-
◇『ラスト・ワールド(最後の世界)』Die letzte Welt, 1988(中央公論社1996)
オーストリアの作家です。1988 年に刊行したこの小説で世界的に成功を収めました。この小説は古代ローマの詩人オウィディウスの作品『変身物語』をモチーフに、神話と現実、現在と過去が交錯する物語になっています
◆ヴェルナー・シュタインベルク Werner Steinberg 1913-1992
◇『殺人者の穴』 Die Mördergrube, 1986(未訳)
旧東ドイツで活動した作家です。推理小説やユートピア小説をたくさん執筆しています。この作品は、1920 年から1969 年までのドイツの歴史を背景にした、悲観的かつ風刺的な自伝的長編小説です。社会批判的な内容のため東ドイツでは一部しか出版できず、完全版はのちに西ドイツで刊行されました
◆フォルカー・ブラウン Volker Braun 1939-
◇『ヒンツェ・クンツェ・ローマン』Hinze-Kunze-Roman, 1985(未訳)
旧東ドイツの詩人・作家・劇作家です。社会主義体制を批判する立場で、本作品も社会主義体制下での東ドイツの日常を描いた長編小説です。
〇邦訳に短編集『午睡』(鳥影社2017)、作品集『本当の望み』(三修社2002)、戯曲『自由の国のイフィゲーニエ』(論創社2006)があります
◆イェルク・ファウザー Jörg Fauser 1944-1987
◇『素材』Rohstoff, 1984(未訳)
ドイツの小説家・エッセイスト・ジャーナリストです。アメリカのウィリアム・S・バロウズやアレン・ギンズバーグ、チャールズ・ブコウスキーの影響を受けています。また推理作家として著名です。この作品は1960~70年代のカンターカルチャーを描いた自伝的な小説になっています
◆トーマス・ベルンハルト Thomas Bernhard 1931-1989
◇『樵る 激情』Holzfällen, 1984(河出書房新社2022)
オーストリアの作家・劇作家。第二次世界大戦後のオーストリア文学を代表する一人と言われています。本作品は芸術家晩餐会に招かれた主人公の小説家のモノローグで、著者晩年の小説です。
〇邦訳もたくさんあります。『凍』(2019)、『アムラス』(2016)、『石灰工場』(2024 いずれも河出書房新社)、『息』(松籟社2023)など
◆エルフリーデ・イェリネク Elfriede Jelinek 1946-
◇『ピアニスト』Die Klavierspielerin,1983(鳥影社2021)
第二次世界大戦後のオーストリアを代表する作家・劇作家です。音楽院で学んでおり、その経験は女性ピアニストを主人公とする上記の小説にいかされています。この作品は映画化もされカンヌ国際映画祭グランプリを獲得しました。2004 年ノーベル文学賞受賞
〇他の邦訳に東日本大震災と原発事故をモチーフとした『光のない。(三
部作)』(白水社2021)、『したい気分』(鳥影社2004)などがあります
◆ライナルト・ゲッツ Rainald Goetz 1954-
◇『狂人たち』Irre, 1983(未訳)
第二次世界大戦後の生まれの作家、戯曲家、エッセイストです。ウェブサイトで作品の制作過程や日々の記録を発表した、ドイツでの文学ブロガーの先駆けになっています。本作品は精神医療をテーマにした小説です。
〇邦訳に戯曲『ジェフ・クーンズ』(論創社2006)があります
◆フランツ・フューマン Franz Fühmann 1922-1984
◇『炎の深淵を前にして』Vor Feuerschlünden, 1982(未訳)
旧チェコスロヴァキア生まれ、旧東ドイツで活動した作家です。この作品はオーストリアの詩人トラークルについて書いたエッセイです。
〇邦訳に『ぼくの最終飛行』(『現代ドイツ短編集 ドイツ民主共和国の作家たち』三修社所収1980)などがあります
◆ボート・シュトラウス Botho Strauß 1944-
◇『カップル、通行人』Paare, Passanten, 1981(未訳)
現代ドイツを代表する劇作家・演劇批評家で、作家・詩人としても活動しています。本作品は現代社会の人間関係をテーマに、6つの話からなる短編集です。
〇邦訳に小説『マルレーネの姉』(同学社2004)、戯曲『公園』『終合唱』(ともに論創社2006・2007)、エッセイ『住む まどろむ 嘘をつく』(法政大学出版局1998)があります
◆ヴォルフガング・ヒルデスハイマー Wolfgang Hildesheimer 1916-1991
◇『マルボー ある伝記』Marbot, 1981(松籟社2014)
ドイツの作家・劇作家です。パレスチナやロンドンで暮らしていましたが、第二次世界大戦後にドイツで創作活動をしています。47年グループに参加していました。本作は19世紀のイングランドの貴族を主人公にした長編小
説です。
〇邦訳に『詐欺師の楽園』(白水社2021)、『眠られぬ夜の旅 テュンセット』(筑摩書房1969)があります
◆アルフレート・アンデルシュ Alfred Andersch 1914-1980
◇『殺人者の父親』Der Vater eines Mörders, 1980(未訳)
ドイツの作家です。第二次世界大戦後のドイツ語文学の中心的だった47年グループの創設者の一人として知られています。本作品は遺作で、ホロコーストを立案したヒムラーの父親をモデルにしています。
〇邦訳に『ザンジバル』(『世界文学全集』集英社所収)、『赤毛の女』(白水社1964)などがあります
◆ロナルド・M・シェルニカウ Ronald M. Schernikau 1960-1991
◇『小さな都市の小説』Kleinstadtnovelle, 1980(未訳)
ドイツの作家・ジャーナリストで、テレビやラジオ関係で活動をしました。旧西ドイツから旧東ドイツへ移り住んでいます。同性愛者で、LGBTQ に焦点を当てた作品で有名です。本作品は著者が19歳の時に執筆、学校制度、偽
善的な道徳観、労働倫理、同性愛者への憎悪と自由への傾倒が描かれています
◆マックス・フリッシュ Max Frisch 1911-1991
◇『人間は完新世に現れる』Der Mensch erscheint im Holozän, 1979(未訳)
第二次世界大戦後のスイスを代表する作家・劇作家で、建築家でもあります。本作品は、嵐によって外界から孤立してしまった主人公が。いつの日か永遠に土砂に埋もれてしまうことを覚悟して、事典や聖書、歴史書を読み、忘れてはならないことを書き留めていきます。
〇邦訳に『アテネに死す』(白水社2025)などがあります
◆ギュンター・グラス Günter Grass 1927-2015
◇『テルクテの出会い』Das Treffen in Telgte, 1979(集英社1983)
現在のポーランド領生まれ、ドイツの作家・詩人・画家です。第二次世界大戦後のドイツ語文学を代表する作家の一人と言われています。本作は30年戦争で荒廃した祖国に集う詩人たちを描く小説です。1999 年ノーベル文学賞受賞
〇邦訳に、映画化もされカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した『ブリキの太鼓』(集英社文庫1978)、『犬の年』『猫と鼠』(ともに、あいんしゅりっと2025)など多数あります
◆クリスタ・ヴォルフ Christa Wolf 1929-2011
◇『どこにも居場所はない』 Kein Ort. Nirgends, 1979(『クリスタ・ヴォルフ選集』恒文社所収1997)
旧東ドイツを代表する作家です。ベルリンの壁建設で離ればなれになった恋人たちを描いた『引き裂かれた空』(集英社文庫1977)で作家としての成功を収めました。この作品の登場人物は19 世紀の詩人クライストです。
〇他の邦訳に『カッサンドラ』(池澤夏樹個人編集世界文学全集所収、河出書房新社2008)、クリスタ・ヴォルフ選集( 恒文社 1998)などがあります
◆ジャン・アメリー Jean Améry 1912-1978
◇『シャルル・ボヴァリー、田舎医師』Charles Bovary, Landarzt, 1978(未訳)
オーストリア・ウイーン生まれ、ベルギーに亡命し活動した作家・エッセイストです。強制収容所での体験をもとに執筆しました。本作品はフロベールの名作『ボヴァリー夫人』 に登場する凡庸な夫、田舎医師シャルルを描いています。
〇邦訳に『罪と罰の彼岸』(みすず書房2016)があります
◆ヘルマン・レンツ Hermann Lenz 1913-1998
◇『生きのびることと生きることの日記』 Tagebuch vom Überleben und Leben, 1978(未訳)
ドイツの作家・詩人です。第二次世界大戦に従軍し、捕虜になった経験もあります。パウル・ツェランやペーター・ハントケなどとの交流でも知られています。作品の多くは半自伝的な小説で、本作品もその連作の一つです。
〇残念ながらこの著者の邦訳された作品はありません
◆マクシー・ヴァンダー Maxie Wander 1933-1977
◇『おはよう、美しいあなた』Guten Morgen, du Schöne, 1977(未訳)
オーストリア・ウイーン出身、旧東ドイツで活動した作家です。東ドイツ各地に暮らす一般女性19人(10代から90代まで、秘書、講師、イラストレーター、学生、主婦、年金生活者など多種多様な人たち)にインタビューを行い、その内容をモノローグ形式でまとめたこの作品で有名になりました
◆ベルンヴァルド・ヴェスパー Bernward Vesper 1938-1971
◇『旅』 Die Reise, 1977(未訳)
ドイツの作家・出版人です。国家社会主義者(ナチ信奉者)の作家である父のもとに生まれ、ドイツ赤軍派との関係もありました。この作品は、自伝的要素が大きく、第二次世界大戦後、国家主義の父との確執、左翼学生運動や赤軍派の内部の様子を描いた長編小説で、著者の死後に発表されています
◆エリアス・カネッティ Elias Canetti 1905-1944
◇『救われた舌—ある青春の物語』Die gerettete Zunge. Geschichte einer Jugend, 1977(法政大学出版局1981)
ブルガリア生まれ、ユダヤ系の作家・思想家です。少年期にオーストリア・ウィーンに移住し、その後イギリスに亡命しています。創作は母語ではないドイツ語でしました。代表作は長編小説『眩暈』(法政大学出版局2014)です。この作品は自伝的三部作(他に『耳の中の炬火』(1985)、『眼の戯れ』(1999ともに法政大学出版局))の一つです。1981 年ノーベル文学賞受賞
◆ペーター・ヴァイス Peter Weiss 1916-1982
◇『抵抗の美学』Die Ästhetik des Widerstands, 1975-1981(未訳)
第二次世界大戦中にスウェーデンに亡命・国籍を取得し、以後ストックホルムで活動したユダヤ系の作家・戯曲家です。この作品はナチス政権下の反体制側を描いた1000頁を越える3部作の大作です。
〇邦訳に『御者の体の影』『消点』(ともに三修社1966)などがあります
◆ブリギッテ・ライマン Brigitte Reimann 1933-1973
◇『フランツィスカ・リンカーハンド』Franziska Linkerhand, 1974(未訳)
旧東ドイツの作家で、東ドイツでのフェミニズム文学を代表する一人です。この作品も自伝的な長編小説で、若い女性建築家の主人公が、社会主義体制の国家の理想と個人の尊厳のギャップに悩む姿を描いています。のちに映画化もされています
◆ウルリヒ・プレンツドルフ Ulrich Plenzdorf 1934-2007
◇『若きWのあらたな悩み』Die neuen Leiden des jungen W., 1973(白水社1984)
旧東ドイツ出身の作家・脚本家です。左記の作品はゲーテの『若きウェルテルの悩み』を東ドイツを舞台に翻案、社会主義体制下の若者たちの成長を描いた小説で、世界的に話題になりました。映画の脚本家としても著名で、東ドイツの若い男女の恋愛を描いた1973年のカルト映画『パウルとパウラの伝説』などを手がけています
◆ペーター・ハントケ Peter Handke 1942-
◇『幸せではないが、もういい』Wunschloses Unglück, 1972(『ハントケ・コレクション1』法政大学出版会2023 所収)
オーストリアの作家・戯曲家です。現代ドイツ語文学の最も重要な作家の一人と言われ、24歳で小説『雀蜂』で作家デビュー後、小説・詩・戯曲・映画脚本など積極的に創作活動を続けています。ヴィム・ヴェンダース『ベルリン・天使の詩』の脚本家としても有名です。2019年ノーベル文学賞受賞
〇邦訳に『不安 ペナルティキックを受けるゴールキーパーの……』(三修社2020)、『ハントケ・コレクション1 ~ 3』(法政大学出版局2025)などがあります
◆ヴァルター・ケンポフスキー Walter Kempowski 1927-2007
◇『タデレーザー&ヴォルフ』Tadellöser & Wolff, 1971(未訳)
ドイツの作家です。第二次世界大戦に従軍、戦後スパイ容疑で逮捕されるなどのみずからの体験をもとにした小説など作品で知られています。この作品はナチス・ドイツ時代の一家を描いた小説です。
〇残念ながらこれまで邦訳は刊行されていません
◆ウーヴェ・ヨーンゾン Uwe Johnson 1934-1984
◇『記念の日々』 Jahrestage, 1970-1983(未訳)
ドイツの作家です。第二次世界大戦後は旧東ドイツで執筆活動をしていましたが、やがて自著が発刊禁止となり、旧西ドイツへ移り住みました。この作品は、日記形式で書き続けられた長編小説で、第1~4巻まであります。
〇これまで『ヤーコプについての推測』(白水社1959)など数作品のみ邦訳されています
