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ヘルメットの中の静寂と、四時起きの挑戦

会社を辞めてから、あっという間に一年が過ぎようとしていた。
相変わらず体調には波があり、かつての引きこもりのように塞ぎ込んでしまう日も多かった。けれど、一年前と決定的に違っていたのは、私の足元に「散歩が大好き」な相棒がいたことだ。
自分のためなら一歩も出ない日でも、この子のために帽子を被り、リードを握って外に出る。毎日のその時間だけが、私と社会をかろうじて繋ぎ止める細い糸だった。

しかし、失業手当の給付も終わり、現実的な問題が私の前に立ちはだかった。
通帳の残高が、いよいよ底を突きかけていたのだ。

「このままではいけない」

以前の会社で働いていた時に利用していた就労移行支援は、もう使えない。ここから先は、誰かに頼るのではなく、自分で見つけて、自分の力でやっていくしかないのだ。
恐怖で足がすくむ中、私は「年末の短期バイト」の求人に、すがるように手を伸ばした。選んだのは、運送会社での荷物の仕分けバイトだった。
時給の高さと筋力に対しての不安が少なかったからだ。

久しぶりの「働く現場」への復帰。大企業の時のトラウマや、周囲と上手くやれるかという不安がなかったわけではない。けれど、その現場には思いがけない救いがあった。
作業中、全員がヘルメットを被るルールになっていたのだ。

安全のために全員が同じヘルメットを深く被る空間。それは、外見への自意識を抱える私にとって、この上なく落ち着いて作業に取り組める「静かな盾」になってくれた。周りの目を気にすることなく、ただ目の前の荷物と実直に向き合うことができる。その環境のおかげで、私は初日の緊張を乗り越え、仕事を続けることができた。

現場は、想像以上にタフだった。
通常の大きなダンボールの荷物を、何個もトラックへと運び込んでいく。さらにお歳暮の時期ということもあり、冷凍品や冷蔵品の荷物がものすごく多かった。冬の早朝の張り詰めた空気の中、冷たい荷物を手際よく仕分けていく作業は、指先から感覚がなくなっていくような冷たさとの戦いでもあった。

けれど、体力的な面で自分の成長を実感する瞬間があった。
退職後のこの一年、私はただ寝込んでいたわけではない。愛犬との毎日の散歩に加え、少しずつ筋トレを始め、ゴルフの練習で少しの足腰の強さを体を手に入れていた。その努力が、この肉体労働の現場で見事に活きたのだ。早朝の短時間のハードな動きも、思ったほど体に負担をかけなかった。

「僕の体は、ちゃんと動く。一年前より、確実に強くなっている」
それは、静かな自信に変わっていった。

しかし、肉体的な疲労よりも、私にとって本当の敵は別のところにいた。

朝、四時起き。

10年間の引きこもり生活が染み付いた私にとって、「生活リズムを整える」というのは、何よりも苦手で、何よりもきつい試練だった。凍りつくような冬の暗闇の中、四時にアラームが鳴るたび、重い体を起こすのは格闘だった。フルタイムの就労からドロップアウトした原因の根底にある、この「規則正しい生活リズムの維持」という壁が、冷たい朝の空気とともに、再び私の前に立ちはだかっていた。

それでも、私は毎朝起きた。自力でこの一ヶ月をやり遂げるんだと、自分に言い聞かせながら。
ヘルメットを被り、冷たい冷凍品や重いダンボールをトラックへ運び、そして家に帰れば、大好きな相棒が待っている。

一ヶ月という短い期間ではあったけれど、誰の手も借りず、自分で見つけたこの短期バイトを最後までやり遂げたことは、私の自立への旅路において、大きな一歩となった。

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