* Column:Jacob Collier『The Light For Days』と5弦のギター(10,000字)
◉ 『In My Room』から『Djasse』へ
ジェイコブ・コリアーの『Djesse』シリーズは僕が最もワクワクしながら追いかけていたプロジェクトだった。
ユーチューバーとして2013年ごろから音源を公開し始めていたジェイコブは当初、自宅の自分の部屋で録音した名曲のカヴァー動画などをアップしていた。その後、2016年に正式に発表したデビューアルバムの名前は『In My Room』。子供部屋から広大な可能性を感じさせる音楽を作っていた彼にはぴったりのタイトルだった。
しかし、そこから一気にその世界を拡張する。2018年に発表した『Djesse』シリーズは世界中のアーティストとコラボした壮大なアルバムだ。そのコンセプトについては2019年に行ったジェイコブへのインタビューでの発言を引用したい。
「4枚で50曲、30人以上のコラボレーターを迎えて作るプロジェクト。それぞれのアルバムにそれぞれの世界があり、それぞれの宇宙がある。僕はもともと自分の音楽をどんどん拡張したいし、それをできるだけ遠くまで飛躍させたいと思っている。この作品はそれを可能にするプロジェクトなんだ。『Djesse vol.1』のカヴァーを見てほしいんだけど、Vo.1も2も4つに分割されていて、それぞれに異なる色がついている。その色はこの4枚のそれぞれの異なるフレイヴァー、マテリアル、サウンドを表しているんだ。Vol.1はオーケストラとのコラボレーションなので、アナログでアコースティックなサウンドで、広大でリアルなものなのでイメージカラーは青。2枚目はアコースティックなサウンドなんだけど、もう少し小さな世界観なのでイメージカラーは緑。3枚目はイメージカラーは黒で、サウンドはデジタルでエレクトロニックでグルーヴィー。4枚目は内なる炎のようなものなので、イメージカラーは赤。青、緑、黒、赤の4つの世界が合わさると自分の中にある巨大なプレイグラウンドになる。ここにはそれぞれに異なるナラティブやストーリーがあって、それに合わせたサウンドがあるんだ。僕はその中で遊ぶことができるし、そこで多くのことを学ぶこともできる」
そんなDjesseでは数多くのゲストが参加し、様々なサウンドを提供している。
『Vol.1』はメトロポール・オーケストラ、ゴスペルのテイク6、モロッコのグナワ音楽の巨匠ハミッド・エル・カスリ、UKのシンガーソングライター(以下SSW)のローラ・マヴ―ラ。
『Vol.2』はアコースティックでフォーキーな人選多め。UKのSSWキャスリン・ティッケルやリアン・ラ・ハヴァス、USのSSWのベッカ・スティーヴンスやジョジョ、サム・アミドン、ブルーグラスグループのパンチブラザーズのマンドリン奏者でSSWのクリス・シール、ポルトガルのSSWマロ、マリのSSWウム・サンガレ、USのギタリストのスティーヴ・ヴァイ。
『Vol.3』はヒップホップ、R&B、エレクトロニック、デジタル・サウンド、ポップミュージックがコンセプト。USのラッパーのTペインやラプソディ、USのR&Bシンガーのマヘリアやタイダラーサイン、キアナ・レデ、カナダのR&Bシンガーのジェシー・レイエズ、ニュージーランドのシンガーのキンブラ。
『Vol.4』ではすべてを一気に拡張し、ゲストも大幅増。アメリカのギタリストのサス・ヴァスケス、プログレッシブなメタル~フュージョン系バンドのアーチ・エコー、アメリカーナ系SSWのブランディ・カーライル、ノルウェーのギタリストのスティアン・カシュテンセン、USのSSWのレミ・ウルフやリンジー・ロミス、マディソン・カニンガムやリジー・マカルパイン、イェバ、NYのソウル・デュオのロウレンス、UKのシタール奏者アヌーシュカ・シャンカール、コロンビアのポップシンガーのカミーロ、カナダのSSWのショーン・メンデス、グライムのラッパーのストームジー、USコンテンポラリーゴスペルの最重要人物カーク・フランクリン、USのギタリストのジョン・メイヤー、ソウル/R&B系SSWのジョン・レジェンド、Kポップのaespa(エスパ)、ロックバンドのコールドプレイのヴォーカリストのクリス・マーティン、アカペラコーラス・グループのヴォーチェス8。『Djesse』での再参加もいて、スティーブ・ヴァイ、クリス・シール、ジェシー・レイエズ、ハミッド・エル・カスリもクレジットされているし、『Vol.1』以来のメトロポール・オーケストラも参加している。
『Vol.4』ではロック、メタル、ポップ、フォーク、カントリー、インド、Kポップ、西アフリカ、モロッコ、聖歌、ゴスペル、R&B、ソウル、ヒップホップ、ラテンポップ、グライムなどが混じっていて、ジェイコブのキャリアの中でも最もカラフルなアルバムになった。そして、南アジアのドール、モロッコのカルカバやギンブリ、北アフリカのベンディール、中東のダラブッカやダフ、西アフリカのドゥンドゥンやジャンベ、ペルーのカホンやカヒータ、キューバのコンガやボンゴ、ブラジルのスルドやヘピニキやカイシャ、南米のボンボ、コロンビアの弦楽器ティプレなど、世界中の楽器が使われていて、楽器の種類においても過去最多だった。そこに更にオーディエンス・クワイアとしてジェイコブのライブを観に来ていた世界各地の会場の観客たちの声による合唱も含まれていた。とにもかくにも壮大で彼の音楽のスケールの大きさをそのまま提示したようなものになっていた。
そんな活動をした結果、グラミー賞に16回ノミネート、そのうち7度受賞。2025年には『Djesse vol.4』で最優秀アルバムにノミネートもされた。今や名実ともに世界最高のアーティストのひとりと言っていいだろう。
そして、『Djesse vol.4』の後、誰もがジェイコブもしばらく休むのかなと思っていた。あの大作を(おそらく4作目に関しては相当悩みながらなんとか)完成させ、さすがのジェイコブも彼の中にあるものはそれなりに出し切ったのではないかと思っていた。でも、僕の読みは甘かった。ジェイコブはそのまま動き続けていたし、彼の中にはやりたいことがまだまだ溢れていた。
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