* スイスとノルウェーのスタジオでのECMの録音について考えたこと(8,500字)
ECMの所属アーティストの取材をして、色々考えたことがある。
特に僕はスタジオのことを考えていた。
◉ Rainbow Studio(Oslo Norway)
例えば、ECMにとっての拠点のひとつであり、ファンにとってはある種の聖地にもなっていたノルウェーのオスロにあるレインボウスタジオのことだ。
ECMの数々の名作を手掛けてきたレジェンド・エンジニアでもあるヤン・エリック・コングスハウクが1984年に設立したこのスタジオを使い、ECMは数々の名作を生み出してきた。
ECMは1969年に設立されているので、レインボウ・スタジオができるまでの15年間はその多くを別の場所で録音を行っていたことになる。
それ以前はノルウェーのオスロにあるアルネ・ベンディクセン・スタジオが使われていた。
ヤン・ガルバレクの初期の名盤の『Afric Pepperbird』(1970)『Sart』(1971)『Witchi-Tai-To』(1973)『Belonging』(1974)などは全て、アルネ・ベンディクセン・スタジオで録音されている。他にはキース・ジャレットの『Facing You』(1972)もここだ。
ここは1966年に設立されたスタジオ。ここで働いていたのがヤン・エリック・コングスハウクだった。
他にも同じくノルウェーのオスロにあるタレント・スタジオが使われることもあった。
テリエ・リピダル『After The Rain』(1976)、コリン・ウォルコット『Grazing Dreams』(1977)、エグベルト・ジスモンチ『Dança Das Cabeças』(1977)、ゲイリー・バートン『Passengers』(1977)、ジョン・テイラー&ノーマ・ウィンストン&ケニー・ホィーラー『Azimuth』(1977)、キース・ジャレット『My Song』(1978)などはここで録音されている。
これらもヤン・エリック・コングスハウクが手掛けている。
つまり、ECMはスタジオ録音をする場合はヤン・エリック・コングスハウクがその多くを手掛けていて、彼とオーナーのマンフレート・アイヒャーの手腕でその作品をECMらしいものにしていた、ということになる。スタジオはそんなに重要なファクターではなかったと言える気がする。
なので、レインボウ・スタジオに関してはECMの名作を数多く録音してきたエンジニアが独立して、自身のスタジオを作り、そこがECMにぴったりの環境になっていた、ということでもある。おそらくレインボウ・スタジオはECMにとってのある種の理想を形にしたものだった、と言えるだろう。
ちなみにレインボウ・スタジオは2004年に移転しているので、それ以降の録音は新レインボウ・スタジオでの録音ということになる。
◉ ECMとリヴァーブ
ECMというとリヴァーブの印象が強い。独特な透明感と空間性を感じさせるリヴァーブのサウンドがこのレーベルのトレードマークにもなった。初期は「EMT 140」を使っていて、その後、「Lexicon」がリヴァーブを開発するとECMはそれを採用。ECMといえば「Lexicon」くらいのイメージがある。あまり手を入れ過ぎないで元々の音の良さを活かすのがECMだというイメージがあるが、このリヴァーブの追加がECMの特徴とも言えるので、作られた音である部分も強い。
特にレインボウ・スタジオの音にはその部分が強い。ECMの録音の面白さはホールでライブ録音されたものと、スタジオで録音されたものが同じような響きで再生されることだ。ヨーロッパに多いクラック音楽でも扱われるホールとポップスを録音するようなホールでは響きの質が全く異なる。その全く別の響きで鳴らされていたはずの音がレーベルのトレードマーク的なサウンドとして、同じような響きのものにパッケージされていることは非常に興味深い。
キース・ジャレットで言えば、ホールで録音された『Koln Concert』とスタジオで録音された『Facing You』をどちらも「ECMサウンド」として聴かせてしまうある種のプロデュース能力こそがECMたるゆえんだ。
そのために使われたのがリヴァーブ。それが年を追うごとに完成度を高めていき、60-70年代にはそれなりにばらつきもあったものの、80年代になるとECMサウンドが完ぺきに確立される。そこにレインボウ・スタジオとヤン・エリック・コングスハウクが大きな貢献をした、ということだろう。響きの少ないデッドなスタジオで録音されても、響きまくるホールや教会で録音されても、どこで録音しても同じようなECMの音になる。
つまりレインボウ・スタジオのサウンドはホールや教会で録音した音源と同じように響くようにデザインされたもの、ということだ。
ここから先は
このnoteの執筆や編集の費用や通訳への支払いなどは皆さんの記事購入で賄っています。制作費用のサポートをお願いします。
