interview Kiefer:自身のバンドのメンバーに求めるのは"練習していること"(13,000字)
キーファーと言えば、ジャズピアニスト的な側面とビートメイカー/プロデューサー的な側面を高度に両立させている唯一無二の存在だ。だから、以前行ったインタビューで僕はその両面について話を聞いた。
その時の僕もそうなのだが、キーファーのようなアーティストはどうしてもそのハイブリッドな側面にフォーカスされがちでもある。
でも、彼は生演奏とプロダクションのコンビネーションを活かした作品だけでなく、ソロピアノを軸にしたり、バンド編成での打ち出しをしたり、鍵盤奏者としてのアイデンティティもすごく強い。その部分をもう少し知りたい気持ちがあった。
今のところの最新作『Something for Real』はプロダクション一切なしのトリオでのライブ録音だ。だったら、その鍵盤奏者としての側面やピアノトリオでの活動への考え方についても聞きたいと思った。
ちょうど来日もピアノトリオ(メンバーは違うが)なので、今回はその方向で話を聞いている。それによって、彼がジャズでもヒップホップでもない、不思議なポジションを確立しているその理由がよりわかる記事になったと思う。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:Aya Nagotani
協力:エイトアイランズ
◎ 『Something for Real』のトリオ
――『Something for Real』でのあなたのトリオのサウンドについて聞かせてください。
『Something for Real』のトリオは、ベースがペリー・クリステイチ(Pera Krstajic)、ドラムがルーク・タイタス(Luke Titus)だった。このバンドの目的は、すごくシンプルで、ガレージ・バンドをやりたかったってことなんだ。当時の僕らはみんな、ツアーやレコーディング、セッションとか、いわゆる「仕事としての音楽」をずっとやっていた時期。でも僕は、そういう流れの延長で「Music for Work」みたいなバンドを作りたくなかった。ただ純粋に、楽しいから演奏するバンドがやりたかったんだよ。
このトリオでは、だいたい2年間くらい一緒に演奏していて、最初の1年は一度もライブをやってない。ずっと裏庭の小屋みたいな場所で、3人だけでひたすら演奏してた。そのあと、ライブのオファーが来るようになってから初めて人前で演奏するようになったんだけど、やってたことは家でやってたのとまったく同じ音楽だった。『Something for Real』の音源は、LAで行われたコンサートの録音なんだけど、確か告知したのは1週間前くらいで、しかも無料ライブだった。定員75人くらいのバーなのに予約しようとしてきたのが500人以上。びっくりしたよ。当日は店に入りきれなかった人たちが外の通りに溢れて、僕らが演奏してた窓のすぐ外で、みんな座って音を聴いてたんだ。あれは本当にクレイジーだった。
このトリオでやりたかったのは、音楽そのものに対するワクワク感を生み出すことだった。大掛かりなプロモーションも、派手なリリース戦略もない。ただ、ガレージ・バンドが楽しく演奏してる音楽を聴きたい人たちが集まる、そういうシンプルなこと。LAにはそうじゃない要素が多すぎると感じてたから、僕はそこから距離を取りたかったんだ。録音についても、実はその日、録るかどうかすらはっきりしてなかった。でも、イベントを主催している友人のケヴ(Kev)が「実は録ってたよ」って後から教えてくれて、それで初めて「これってアルバムになるんだ」って思ったくらいだよ(笑)。
だからこの作品は、すごくオーガニックなんだ。バンドの鳴りや雰囲気は、僕らのアティテュードそのものだ。音楽が自然に生まれて、
それがたまたまアルバムになった。だからタイトルが『Something for Real』ってこと。
――このトリオには、ジャズ、ヒップホップ、ネオソウルなど、いろんなジャンルが混ざっている印象があります。そうした音楽性はどう説明できますか?
ジャズ、ヒップホップ、ネオソウルは、間違いなくこのトリオにとって主要な美学だと思う。でも、そこにエレクトロニック・ミュージックも加えたいね。
――あー、なるほど。
ルークはエレクトロニック音楽が本当に好きで、Machine DrumとかAphex Twinをよく聴いてる。彼のドラムには、そういう影響がすごく出てる。マーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)みたいに、ドラムンベースやエレクトロニックの影響を受けた、すごく角張った(angular)プレイができるんだ。でも、同時にエルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)的なルーディメンツやトリプレット、独特のシャッフルも持ってる。
ベースのペリーはセルビア出身で、バルカン音楽も演奏する。彼はとにかくタイム感が天才的。録音でレイテンシーがあったら、「今のは7ミリ秒遅れてる」って言うんだ。これが誇張じゃなくて、本当に当たっちゃうんだ。彼はそれを数えてるわけじゃなくて、音としてわかってしまうんだと思う。
つまり、ジャンルも大事だけど、それ以上にそれぞれのスキルや個性に音楽を委ねることを大切にしてるってことかな。
とはいえ、僕らはヒップホップも本当に好きで、Pete Rock、DJ Premier、Madlib、EPMD、J Dillaの影響がある。だからループを愛してるし、同じフレーズを何度も繰り返すことにも意味を見出してる。それと同時に、Cedar Walton、Mulgrew Miller、Herbie Hancock、Bill Evans、McCoy Tynerも大好き。僕らの音楽にはそういうもの全部が混ざってるんだけど、基本的にはただ演奏してるだけなんだよね。
――ルークとペリーを選んだ理由は?
ルークとは、2020年のパンデミック中にレコーディングで出会った。彼が自宅に呼んでくれて、一緒に演奏したんだけど、その時に「この人ヤバい」ってなったんだ。2021年にパンデミック後初のツアーが決まったとき、元々のドラマーが参加できなくなった時に「じゃあルークに頼んでみよう」ってすぐに考えたよ。彼はジャズのコンピングをたくさんやってたわけじゃないけど、音楽を完全に理解してる。彼が僕のツアーの直前にやってた仕事は、ラッパーのNonameのドラマーで、大きなシアター・ツアーを回ってたんだよね。僕は確信してた。 「この人は絶対にもっとすごくなる」ってね。今では、30歳以下で世界トップクラスのドラマーの一人だと思ってる。影響力も大きいし、世界中で彼のスタイルを真似する人がいっぱいいるよね。
ペリーはバークリー音楽大学出身で、バークリー周辺のミュージシャンとよく遊ぶようになって出会った。バークリーのパーティーで、会う人会う人に「彼は世界最高クラスのベーシストだ」って言われてさ。それで興味を持って調べたら、即納得だったよ。彼が身体を動かしたら、その通りの音がベースから出る。彼は音楽そのものなんだ。あまりに自然で魔法みたいに思えるよ。音楽のジプシーみたいな存在だと思う。
◎ 必要なのは「練習していること」
――あなたの音楽を一緒に演奏するには、いろんな条件が必要だと思います。ルークとペリーはそれを満たしていると思いますが、最も重要な条件は何だと思いますか?
これ、世界で一番好きな質問かもしれない(笑)。一番大事なのは「練習していること」。
――ははは、シンプル。
これは本当に僕にとってナンバーワンだね。音楽家としての基礎、ミュージシャンシップをすごく大切にしてるから。
とはいえ、正直に言うと、昔の僕は練習してないのにライブをやってた時期もあった。それをはっきり指摘してくれたのがペリーなんだ。あるライブの後、僕が自分の演奏について文句を言ってたら、ペリーがこう言ったんだ。
「これで3回目か4回目だよ。ステージ降りて毎回“自分の音が良くない”って言ってるけど、練習してないよね?」
彼はすごく率直で正直なんだ。キツいわけじゃないけど、遠回しに言わない。それでこう続けた。「練習してるなら文句を言っていい。でも練習してないのに文句を言うのは意味がない。正直、聞きたくもない」
それを聞いて、僕は「じゃあ、これから練習するから、文句は言わせてもらうよ」って言った(笑)。それで本当にめちゃくちゃ練習するようになった。
そしたら不思議なことに、だんだん文句を言わなくなった。自分の音が好きになってきたから。それ以来、「自分も練習するし、バンドの全員も練習する」「お互いに責任を持つ」 それが一番の条件になった。
ーーいい話。
二番目は、高いレベルで楽器を演奏できて、なおかつ唯一無二の音を持っていること。
僕は、「その人にしかできない鳴らし方」をしている人と演奏したい。
ペリーはベースで誰とも違う音を出す。ルーク・タイタスは、今地球上で一番ユニークなドラマーの一人だと思う。今回のツアーだと、ベースはCartoons。今すごく独自の声を持っているベーシストだ。ドラムはディエゴ・ラミレス(Diego Ramirez)。正直、世界で最も過小評価されているドラマーの一人だと思ってる。彼を知ってる人は、みんな「特別だ」って分かってるけどね。
三番目に大事なのは、僕の音楽を、僕のやり方で弾こうとしない人。自分がやりたい音楽を、自分のやり方で持ち込める人。それには自信と勇気がいるし、簡単じゃない。でも、僕はそういう人を探してるかな。
◎ グルーヴをキープすること / 即興であること
――あなたのトリオは、ビートやループの感覚をすごく大事にしていると思います。一方で、ジャズ・ピアノトリオらしい即興性も感じます。この2つの要素の組み合わせについては、どう考えていますか?
どっちも大好きだよ。ヒップホップのすごいところって、元を辿るとジェームス・ブラウンに行き着くと思ってる。同じグルーヴを同じやり方でずっと続けてるのに、5分後のほうが最初より良く聴こえるってこと、あるでしょ?料理で言えば、ちょうどいい温度でコトコト煮込んでいく感じ。時間が経つほど、味が染みていく。ヒップホップはサンプリングが起源だから、同じループがぐるぐる回る構造を持ってる。でもそこにMCやラッパーが入ると、生の要素、変化していく要素が加わる。
僕は最初、 「ピアノがラッパーの役割をやれないか」って考えたんだ。下でループが鳴っていて、その上でピアノが語る。バンドで演奏する場合は、そのビート自体も少しずつ変化していく。歌詞がないインスト音楽では、どう意味を作るかが課題になる。その解決策の一つが、反復と変化なんだ。つまりヒップホップとジャズだね。
――リズムセクションにはジェームス・ブラウン的な、あまり動かない反復が重要な一方で、ピアノに反応する部分も重要ですよね。どのくらい自由に反応していいのか、その範囲はどう考えていますか?
うーーーん、正直言うと……答えは「分からない」になるかな。でも不思議と一緒にやってるミュージシャンたちはどう演奏すべきかを分かってると思う。僕らは何があってもグルーヴしてなきゃいけない。一瞬、曖昧になったり、不安定になることはあっても、最終的にはちゃんと“当たって”なきゃいけない。それと同時に一緒に演奏する人たちが自分の好きなことをやっている状態であってほしい。好きなことをやっていれば、楽しいし、自信も持てるし、自分が作った音に誇りを持てる。
だから事前に、「この人が自分のやり方でやったら、きっと機能する」って思える人を選ぶ。ヒップホップを理解していて、ポケットを守れる。同じフレーズを何度も繰り返せる。その上で、ソロではぶっ飛べる。
だから僕は基本的にどう弾くかは指示しないんだ。「何を弾くか」は言うけど、「どう弾くか」は絶対に言わないよ。
――ジャズとヒップホップを融合する人は他にもいますよね。例えばロバート・グラスパー。彼はあなたよりももっとジャズ寄りですよね。逆にヒップホップを生演奏でエミュレートする人はもっとかっちりしている。あなたの音楽は、そのちょうど中間。絶妙なバランスにあるように感じます。
ありがとう。それは最高の褒め言葉だね。「完璧なバランス」があるかは分からないけど、僕が一番好きなバランスは確かにある。それは人それぞれ違う。僕はロバート・グラスパーのバランスが大好きなんだ。彼が見つけた独自のバランスだからこそ、多くの人に届いた。
僕は子どもの頃からJ Dillaをたくさん聴いてきた。だから、リズムの強さと、ハーモニーの量、その配分については、ずっと考えてきた。キャリアの最初の4〜5枚のアルバムでは、かなり意図的にバランスを限定してたと思う。あえて使わなかったハーモニーもある。それによって、一定の押し出しと、一貫した個性を作ろうとしてたよ。
大学を卒業した頃、ウェイン・ショーターをすごく聴いていて、彼のハーモニーのバランスに衝撃を受けた。シンプルな和声が続いたかと思ったら突然すごく複雑になる。メロディック・マイナー的な響きも出てくる。
僕はエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)も大好きなんだ。彼は、狂気的なハーモニーと極端にシンプルなハーモニー、ダークで邪悪な響きと天使みたいな響き、それらを完璧なバランスで使い分ける。
僕は、ハーモニーだけじゃなく、ジャンルのバランスについても、常に考えてる。J Dillaムーブメントの頃、多くのミュージシャンが「Dillaっぽく」演奏しようとしてたけど、実際にはプログラムされたドラムの感覚が足りなかった。例外はカリーム・リギンズ(Kareem Riggins)。彼は完璧にそれをマスターしてる。僕はかりーむのみならず、ロバート・グラスパーからも大きな影響を受けながら、自分自身のバランスを見つけようとしたんだ。
◎ ハーモニーについて
――ところで、鍵盤のコードやハーモニーについて、あなた自身はどんな特徴があると思っていますか?
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