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Interview Kamasi Washington『Becoming』- ミシェル・オバマのプレイリストを聴いて、彼女の考え方やバイブズに入り込もうとした(11,000字)

ミシェル・オバマのドキュメンタリーが公開されて、カマシ・ワシントンが音楽を手掛けると聞いた時、大抜擢であるとは思いつつも、同時にとても自然に感じたのを覚えている。

僕にとってカマシ・ワシントンは、激しいスピリチュアルジャズを演奏する豪快なサックス奏者というだけでなく、自分の頭にある世界観や自分の中の哲学みたいなものを音楽を通して表現するために丁寧に曲を作るコンポーザーというイメージも強い。もともと西海岸ジャズシーンの名作編曲家ジェラルド・ウィルソンのビッグバンドの出身者だし、インタビューをすればクラシック音楽の話を嬉々としてする人だし、楽曲のコンセプトにもすらすらと魅力的に話してくれる。だから僕は映画のサウンドトラックに明らかに向いているタイプのミュージシャンだろうなと思っていたし、いつかやるだろうなとも思っていた。そもそも『Harmony of Difference』が美術館で行われるインスタレーションのために作られた作品だったり、他人のアートに対して音をつけることは既に行われていた。いつでも映画音楽への準備は出来ていたはずだ。

そして、これまでにカマシが作ってきた音楽に込められている様々なメッセージがミシェル・オバマと相性がいいことも、このドキュメンタリーにカマシが起用されたことが自然に感じられることのもう一つの、そして最大の理由だ。カマシは人種差別や格差や不平等への抗議も語るし、それを音楽の中で表現しようとしている音楽家だ。ただ、カマシの特徴はそういった様々なメッセージの中でも”多様性の祝福”を自身の哲学の柱にしていることだろう。このドキュメンタリーはそのカマシの哲学と共振することで、絶妙な相互作用を生んでいる。

ちなみにこの映画の監督のナディア・ハルグレンはかなり優秀で、以下のインタビューでもカマシが語っているが、彼女はカマシの音楽を理解したうえで起用していて、その上で的確なディレクションを行っている。映画の中でサントラには収録されていないカマシの曲がいくつも使われている。「Will You Sing」「Testify」「Vi Lua Vi Sol」などがそれなので、ぜひ確認してみてほしい。実はこれらの選曲の多くはナディアのアイデアだとカマシが語っている。ミシェル・オバマが音楽好きであり、センスもいいことは有名だが、だからこそミシェルは音楽にも意識的な監督を選んだということなのかもしれない。そういったことへの配慮がこの映画のクオリティに、そして、カマシが担当したサウンドトラックのクオリティにも繋がっているのは間違いないだろう。

以下、サントラをBGMにどうぞ。

取材・構成:柳樂光隆 通訳:青木絵美 協力:beatink

ーーあなたにとってミシェル・オバマとはどんな存在ですか?

彼女は、間違いなくインスピレーションを与えてくれる人だよ。自分の人生を活用して、この世界をより良いものにしようとしているし、人々にお手本を示そうとしている。人々がより良く生きられるために、自分の人生を捧げている人と遭遇することは、いつだって素晴らしいことだ。そういった意味で、自分が、彼女の物語を語る一員になれたということは有意義なことだったと思っている。この物語はとても感化される内容なんだ。彼女は、並外れた人であると同時に、すごく話やすい雰囲気を持った人でもある。彼女となら、昔から知っている人みたいに接することができそうだと思わない?彼女は、この物語を通して、自分自身の人生を人々と共有したんだ。そのために俺の音楽を使って、その物語を語る手助けができるということは本当に光栄なことだった。

ーー『Becoming』のサウンドトラックのオファーがどのように来たのか教えてください。

監督のナディア・フルグレンから連絡が来て、僕は彼女と会い、プロジェクトの内容を聞かされた。すごくクールなプロジェクトだと思ったよ。そしてまた別の機会にナディアと会った時に、映画のラフカットを見せてもらった。僕はプロジェクトに関わる気は満々だったが、問題はタイミングが合うかということだった。当時、僕はツアーをたくさんしていたから、映画が完成した時に、僕がロサンゼルスに戻ってきていて、映画の音楽を作れる時間があるかどうかにかかっていたんだけど、幸運なことにタイミングも合って、話がまとまったんだ。でも、彼女が最初にオファーしてくれた時点で一応快諾はしていたんだ、スケジュールさえ合えば是非やりたいって感じでね(笑)

ーーどのようなリクエストが制作側からあったのか教えてください。

制作側から多少のリクエストはあったけれど、話し合いのほとんどはナディアと行われた。映画の全体的な雰囲気や、各シーンのフィーリングについて話すことが多かったね。話す内容は感覚的なことが多かったと思う。結果的に音楽にも一貫性が出たけれど、それは映画に一貫性があったからだと思う。そして映画の題材である人物にも一貫性があったから。でもその一貫性は意図されて作られた訳ではなく、自然にそういう仕上がりになっただけなんだ。

ーーまず映像を見てから、それに合わせて楽曲を作り始めたと思います。最初に映画のデモを見た時に、映画に対してどんな印象を抱いたのか教えてください。そして、どんな音楽がふさわしいのか、もしくはどんな音楽をつけたいと思ったのかを教えてください。

映画を初めて見た時は、ミシェル・オバマが心を打ち明けているのを見て驚いたよ。自身の本心をさらけ出しているなと思った。政治関係の人やセレブはそういうことがあまりできないからね(笑)

最初に見た時は、自分もオープンマインドでいて、結論を急がないように努めた。だから、時間をかけて、ミシェル・オバマと監督のナディアのマインドセットに入り込もうとしたんだ。ナディアと話し合いをした後、僕はミシェル・オバマのプレイリストを聴いて、彼女たちの考え方やバイブズに入り込もうとしたよ。音楽は非常に柔軟なものだから、どんな方向にでも持って行くことができると僕は考えている。これはとてもパーソナルな映画だから、ミシェル・オバマだと感じられる音楽を作りたいと思ったんだ。

ーー作曲をして録音をして、その音楽がどのように映像に付けられたのかそのプロセスを教えてください。

すごく強烈なプロセスだったよ。僕がプロジェクトに参加した時点ではまだ映画の編集が終わっていなかった。だから僕はテーマになるような音楽を作曲したり、シーンに合う音楽をスケッチしたりしていた。つまり僕は、映画が完成に近い状態になるまで待っているという状態だった。
映画が完成してから、僕が音楽を制作できる期間は、たった2週間程度だった。強烈な経験だよね。寝ずに作業したよ(笑)。寝ないで作業したらなんとか間に合う仕事だったからね。だから僕は必死で音楽を作曲したよ。
そして、全ての音楽を録音できる期間はたった3−4日しかなかった。本当に大変だったんだ!あまりに忙し過ぎて、あるパートを録音するのを忘れそうになったりしたよ。全て作曲済みで、録音する準備も整っていたけれど、録音が終わったあとの音楽を聴いたら何かが足りないと感じたんだ。そうしたら、楽譜が1枚だけ別のところに置いてあるのに気付いて「(足りてない音は)これだ!」ってことがあったりね(笑)
本当に大変な数日間のレコーディングだったよ。録音に関わってくれたミュージシャンやエンジニアたちには、2倍も3倍もの残業をしてもらったから本当に感謝している。トニーというギタリスト兼エンジニアの人がいるんだけど、俺とトニーは、朝5時か6時まで作業していた日もあった。作業を始めたのは午後の1時くらいで、翌日の朝6時までずっと作業していたんだ。そんなクレイジーな日もあったくらいだよ。

ーーところで、あなたが好きなサウンドトラックや、自分の音楽性に影響を与えたと思うような映画音楽の作曲家がいたら教えてください。

バーナード・ハーマンの作品は全て好き(笑)!ジョン・ウィリアムズも大好き。でも、今回のサウンドトラック制作で参考にしたのは、ジェームズ・ブラウン『Black Caesar』という映画のために作った音楽。今回の映画と似たようなサウンドスケープだと思ったからね。

映画音楽は大好きだよ。『Vertigo(めまい)』(監督 アルフレッド・ヒッチコック、音楽 バーナード・ハーマン)とか『Taxi (Driver)』(監督 マーティン・スコセッシ、音楽 バーナード・ハーマン)や、『Chinatown』(監督 ロマン・ポランスキー、音楽 ジェリー・ゴールドスミス)などの映画の音楽はとても好きだし、『Star Wars』(監督 ジョージ・ルーカス、音楽 ジョン・ウィリアムズ)の音楽も好き。『Catch Me If You Can』(監督 スティーヴン・スピルバーグ、音楽 ジョン・ウィリアムズ)の映画音楽も、クラシックなサックスが使われていて気に入っているよ。最近は『シン・ゴジラ』(総監督 庵野秀明、監督・特技監督 樋口真嗣、音楽 鷺巣詩郎・伊福部昭)を観たよ。最近のお気に入りなんだ。今は新しいアルバムの作曲をしているんだけど、「シン・ゴジラ」の映画音楽を聴きながら作曲したりしていて、自分のストーリーを書き上げるためのツールとして役立っているよ。

ーー以下、それぞれの楽曲についての質問です。どんな意図で、どんな手法を使って、その場面に合わせる音楽を作ったのかをひとつずつ聞かせてください。

まず「Shout out of a Cannon」はミシェル・オバマがホワイトハウスを去る際のエピソードを語り、ファーストレディの重圧を回顧する場面で使われていましたが、この曲のサウンドはどんなことを表現しようとしたものですか?

威厳を表現したかった。それと前進するようなフィーリングだね。あのシーンでは彼女たちがヘリコプターの方に歩いて行くんだけど、その時の彼女たちはとても優雅に見える。それと同時に、駆り立てられたフィーリングというのも表現したかった。なぜなら、あの瞬間から、彼女の人生は変わったから。王族みたいな存在である人間から、実際の王族になっていくという二面性のようなものがあるんだ。僕はこの曲でその両方を伝えようとしたんだ。曲は短調でメランコリックに始まり、彼女が「Shot out of a Cannon」と言った時点で、長調に変えて、前に押し出される感覚を表現している。

ーー「Southside 1」はオルガン入りのソウルフルな楽曲でした。どういったイメージで書いた曲なのでしょうか?

あのシーンを見た時、僕の地元であるロサンゼルスのサウスセントラル(=サウス・ロサンゼルス)みたいだなと思ったんだよ(笑)家族が庭でバーベキューをしている画像を見て、僕の家でも家族でやっていたバーベキューを思い出した。そのフィーリングを捉えようと思ったんだ。僕が若い頃はそこでギグをよくやっていたんだ。「裏庭ブギー(Backyard Boogies)」と呼んでいたよ(笑)みんなを楽しませるために音楽を演奏していたんだ。この曲にはそういうフィーリングを反映しようとしている。

―シカゴのサウスサイドの音楽でイメージするアーティストは?

たくさんいるよ。モーリス・ブラウンとは共演したことがあるし、カニエ・ウェストもシカゴ出身だし、チャカ・カーンもそうだ。シカゴは素晴らしいミュージシャンを数多く輩出している。

ーーアルバムには未収録ですが、「Will You Sing」がミシェルの祖父の黒人としての不遇を映したシーンで使われていました。なぜこの場面でこの曲だったのでしょうか?あなたの静かなサックスが印象的なアレンジでしたね。

「Will You Sing」は僕のアルバム『Heaven & Earth』からの曲で、ナディアがシーンを見てこの曲が合うと思ったみたいで、このシーンに「Will You Sing」の別バージョンを合わせたらクールだと思うとナディアに提案されたんだ。

このシーンではミシェルがとても複雑な感情を話していて、そこを捉えたかった。ミシェルと彼女の祖父の関係性にあった、悲劇という状態を表現すると同時に、心を鼓舞するという状態も表現したかった。ミシェルは祖父が、どれほど苦難に見舞われているかも分かっていたし、どれほど祖父が有能な人で、可能性を秘めている人かというのも分かっていた。そんな状況の中、祖父は、ミシェルやミシェルの兄弟たちに対して”自分たちが望むものになんでもなれる”、”やりたいことはなんでもできる”という考えを教えた。その結果、ミシェルたちは、世界もそういう考えであり、自分たちはやりたいことはなんでもできるのだと解釈した。

そこには複雑な感情があり、だからこの曲には、絶望という状況の中に勝利が存在している。それは『Heaven & Earth』で僕がこの曲を書いた時とは、少し違う意味合いを持っている。『Heaven & Earth』では、世界を変えるための能力を持っている人に対して、”それをやってくれるかい?”と歌っている。それは大変なことだから。

今回の映画のシナリオでは、ミシェルの祖父は自分の現状に対して失望するという態度も取れただろう。そして、自分がやりたいようにさせてくれない世界に対して憤慨して、世界に対して悲観的でいることもできただろう。でもそうしていたら、孫のミシェルにモチベーションを与えらることができなかったかもしれない。祖父からの鼓舞があったからこそ、ミシェルはアメリカ合衆国のファースト・レディという立場まで昇り詰めることができた。どの時点で、人々の考え方が構築され、その人の視座が確立されるのかは分からないけれど、祖父がそういう人であったからこそ、ミシェルは想像を超えるような現実が開けたのだと僕は思ったんだ。


ーー「The Rhythm Changes」(原曲は『The Epic』収録)がバラク・オバマの最初の選挙のシーンで使われていました。ここでこの曲を選んだ理由は?原曲とかなり異なるアレンジでしたね。

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