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不条理な夜にカフカを思う

学生時代、試験前になると決まって読書に逃げていた。現実からの逃避。勉強そっちのけで本を開くと、気分が上がってくる。

そんなとき出会ったフランツ・カフカの『変身』の衝撃は、今も忘れられない。

朝起きたら巨大な虫になっていたというまさかの状況で、主人公がベッドの中で考えたのは「もう少し眠りたい」「右下の姿勢になりたい」ということだった。え、そこ?

不条理という言葉を知ったのもこの頃だ。不条理とは、世の中や現実が思い通りにならない不可解さのことである。

カフカが描くのは、ある日突然、わけのわからない状況に放り込まれ、いくら努力してもそこから抜け出せないという悪夢のような世界観。

なぜそんな目にあっているのか原因がわからないまま、主人公だけがパニックになり、周りの人たちは奇妙な状況を淡々と処理する。真面目に対処しようとすればするほど、状況が悪化していく。

そんな果てしない絶望にもかかわらず、思わずクスッと笑ってしまう滑稽さもある。登場人物は真剣だし、暗く重いテーマなのだけど、すいすい読めてしまう。

そして、巨匠というイメージとは裏腹に、生前のカフカはかなりの自己否定人間だったらしい。

プラハで裕福な家庭に生まれたが、その環境は劣悪で複雑だった。支配的な父親に怯え、どこにいても疎外感を感じていたという。

社会人になり、昼はサラリーマン、夜は執筆していたが、作品への自信のなさもすさまじかった。遺言では「未発表原稿をすべて焼却してくれ」と友人に頼んだほどだ。

恋愛でも「夫にふさわしくない」と婚約破棄。そのくせ筆豆で、手紙を送りまくった。そこには情熱的な愛と「僕はダメ人間だ」というひたすらウジウジした文章がつづられていた。

カフカはいつも、社会のシステムや周囲の圧力の前に立ちすくみ、傷つき、悩んでいた。些細なことに怯え、自信のなさから決断を先延ばしにした。

「あのカフカでさえ、頭痛を言い訳に現実から逃げていた。自信のカケラもなかった」と思うと親近感がふつふつと湧いてくる。私の自信のなさはカフカの遺伝子かもしれない。都合の良い解釈が頭をよぎり、謎の自信に満たされる。

やるべきことから逃げまわり読書に走る悪癖は、治るどころか加速中です。


【毎朝7:00投稿】
月曜〜金曜:1分小説「儚き人生の二重奏」
土・日曜日:エッセイ、ちょっとした雑談

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