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憧れの先輩 出会い編(フィクションです)

恋に落ちた。
ガラス張りの部屋の中で、一心不乱に踊る男の子に。

小学4年生の頃、母に連れられて、ダンススクール[SunDance]の体験教室に訪れた時だった。
母は、内向的で友達の少ない私を心配し、ダンススクールを勧めた。口下手な私が、自己表現と友達の両方を手にできるのではと、期待したようだ。
スクールに来るまでは、すぐにでも家に帰りたかったが、彼を見かけ、ここに通いたくなった。
——あの子のように表現したい……!
そう思ったのだ。

彼の名前は、サキと言った。
2歳上の彼は、7歳の頃からスクールに通い、年上のメンバーからも一目置かれていた。彼は一人でも集団でも輝くことのできるスキルを持っていた。誰よりも直向きに練習し、それでいて周りから慕われる人だった。入ったばかりの私にも、すれ違えば、笑顔で声を掛けてくれる。
サキに近づきたくて、一緒に踊りたくて、私は懸命に練習した。

1年後、サキは遠くに引っ越すという理由で、スクールをやめた。

私は1度も同じステージに立てなかった。それでもダンスを続けていれば会えるかもしれないと思った。大会に出られるくらい上手くなる!私は1人懸命に踊り続けた。

「ナギさん、ちょっと良い?」
私は、小学校で担任の先生に呼ばれた。
「何か悩んでることはある?」
心配そうに尋ねる。私はクラスで浮いていた。陰口を言われることもあった。でも気にしていない。特に仲良くなる気もない。私にはダンスさえあればよかった。
「ないです」
「そう……。ナギさんが困ってるんじゃないかって先生に教えてくれた子がいてね。先生にじゃなくても、何か話したいことができたら、誰かに話してみてね。ナギさんを想ってる人はいるからね。もちろん私もね」
優しい声と笑顔で語りかけつつ、目はナギの奥をじっと見ようとしている。
「ありがとうございます」
私は困っていない。好きで1人でいるんだ。勝手に可哀そう認定しないでほしい。あと数カ月の小学校、このまま平穏に終わってくれたら良い。今日に限ってスクールは休みだ。河川敷に行こう。スクールのない日に決まっていく河川敷がある。1人でダンスに集中できるお気に入りスポットだ。

放課後、一度家に帰り、自転車で河川敷に向かう。
自転車を止め、いつもの場所に降りていく。先客がいた。同じスクールの同級生ラナだ。話したことはほとんどない。ラナは7歳の頃からスクールに通い年上メンバーによく可愛がられていた。引き返そうと階段に足をかける。
「あれ? ナギちゃん?」
ラナが気付き、ナギに声を掛ける。
——気まずい。
「やっぱりナギちゃんだ! ここでよく踊ってるよね! 今日も踊りに来たの? 一緒に踊ろ~」
ラナはナギに駆け寄り手を引く。
私は踊っているところを見られていたことに驚いて振り向く。恥ずかしすぎる。ラナと比べたら、私のダンスは下手すぎる。逃げ出したい。
「いや……今日は帰る!」
「え」
私はラナの手を振りほどき、階段を駆け上がる。
「待って! 私帰るとこだったから! ナギちゃんここ使って」
ラナが叫んで引き留める。
私は足を止め、振り返る。
「ね、使って。踊りたいんでしょ。この辺、他に集中できる場所もないし。交代しよ!」
ラナは手早く荷物をまとめ、階段を駆け上がってくる。
「それじゃ、またスクールでね!」
ラナはナギの肩をポンっと叩き、ナギより上に駆け上がっていく。
「あ、あの、ありがとう!」
私はお礼を伝えるの精一杯だった。ラナは眩しい笑顔で答えて去っていく。
それから、私はラナと河川敷で会うことが増えた。少しずつ会話も増え、ダンスも少しずつ教わるようになった。
「私、やっぱりナギちゃんのダンス好き! 前からずっと思ってたんだ~ なんていうかな、クールなんだけど温かくて、熱いの。なんかね……泣きたくなる!あと抱きしめたくなる!」
ラナは笑顔で真っ直ぐに褒める。
「あ、ありがとう」
照れる。太陽のような蘭奈の言動は眩しい。河川敷で会うようになり1ヵ月以上が経つが慣れない。
「あはは、照れてるのもかわい~ ナギちゃんの友達になれて嬉しい!」
「ともだち……」
「うん、友達!」
ラナは笑顔でナギに抱きつく。
「うん」
私も笑顔で抱きしめ返す。ラナは、私にとって初めての友達だ。大好きで、憧れの存在だ。
「あのね、ラナちゃんに話したいことがあるの」
私は初めて人に、サキの話をした。ずっと誰かに聞いてほしかった。サキとも仲が良かったラナに黙っていたくなかった。
「そっか。さっくん、優しいしカッコいいもんね! でも、今どうしてるか私も知らないんだよね。ダンス続けてると良いけど……。みんなに聞いてみるね!」
「待って……」
「大丈夫! ナギちゃんのことは言わないから。まかせて!」
ラナは、笑顔とグーサインを見せる。
「うん……ありがとう」
私は、ラナが少し心配だ。彼女には悪気なく話しすぎるところがあるような気がするのだ。その素直さや裏表のなさが彼女の魅力でもあるのだが。
「でも、これですっきりしたな~ ナギちゃんのダンス誰かに似てる気がしてたんだよね~ さっくんだったか。みんな真似したくてもできない、さっくんの踊りをナギちゃんは再現してたんだね! やっぱり恋は最強だね!」
「再現だなんて……全然届かないよ」
「大丈夫! ナギちゃんならいつか必ず届くよ!」
キラキラの瞳で言うラナの言葉なら叶う気がした。
「うん! ありがとう、ラナちゃん」

それからサキの消息は分からないまま、ラナと同じ中学校で3年間を過ごし、[SunDance]も卒業した。そして、17歳のとき、私はアイドルになった。


お読みいただきありがとうございます。
こちらの作品は一話完結としてお読みいただけます。
執筆中の『幻の青春』の番外編でもあります。また、ナギ目線の恋物語はもう1つ番外編を投稿予定です。
もしよろしければ、『幻の青春』本編や、後ほど投稿の続きの記事も合わせてお楽しみくださいませ。

みなさまに素敵な出会いが訪れますように願いをこめて。

お読みいただきありがとうございます。
またのご訪問をお待ちしております。

kotonoha🍁

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