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【☘保育のいろは】ママがいい!――登園時、玄関で大号泣する友だちを応援する優しい眼差しが奇跡を起こす。


承認と感謝、太陽のマネジメントのひなたのりこです。
今日は「保育のいろは」のカテゴリーとして、先日お伝えした前中後編のお話しを創作大賞2026年エッセイ部門にエントリーする為に1つにまとめて投稿します。
ある日の朝、保育園の玄関から始まった、3歳の男の子と、お母さまと、私、そして可愛いお友だちとの
とても愛おしいお話です。

ある日の朝。
3歳児クラスの男の子が、激しく泣きながら登園してきました。

お話を聴くと、家を出る前に喧嘩をしてお母さんに叱られてしまったのだそう。彼は、そのモヤモヤした気持ちをそのまんま抱えて、小さな心でがんばって、保育園まで登園してきたのです。でも。
やっぱり、お母さんと離れることが出来ません。
「ママがいい……!」
お母さんも、朝から叱ってしまったことを、少し後書きしているような、切ない様子でした。
「もう行くよ、もう時間ないよ!」
「帰りはママがお迎えに来るからね!」
そう声をかけながら、玄関に戻ったり、保育室まで行ってみたり。
気づけば、15分くらいの時間が過ぎていました。私は職員室の窓から、
その様子を「ここだ」と思うタイミングが来るまで、ずっと静かに見守っていました。そして、スッと間に入って声をかけました。
「お母さん、今日はどうされましたか?」
お母さまは少し苦笑いを浮かべながら、朝の出来事を私に教えてくれました。
「お時間、もうギリギリで難しいですか?どうしましょうか。ここでお預かりしますか?」
私は男の子の目線に合わせて、優しく語りかけました。
「〇〇くん、先生と一緒にいようよ」
お母さまは「すみません……!」と言って、足早に玄関を出て行かれました。もう、後ろを振り返らずに。
大好きなママの姿が遠ざかっていくのを見た瞬間。
その子は、さらに激しく泣き始めました。そして、玄関のガラス張りのところにピタッと張り付いたまんま、完全に動かなくなってしまったのです。
「ママがいいぃぃぃ!!!」
ものすごく大きな声で泣いているので、私の声は届きません。
そもそも、今の彼は私の声なんて聴くつもりもありません。私は、彼のすぐ横に、そっと腰掛けました。
そして、小さな小さな彼の背中に、優しく手を当てながら、
その子が涙と一緒に呟く言葉を、
ただそのまま静かに繰り返しました
「ママがいい!」
「……ママがいいよね」
「ママと、バイバイしたかった!」
「……ママと、ちゃんとバイバイしたかったよね」
彼の閉ざされた心の扉の前に、私はただ、優しい太陽になって寄り添い続けました――。
私と彼がそうして玄関に座り込んでいるうちに、同じクラスの子どもたちが次々と登園してきました。
いつも穏やかで優しいお友だちがやって来ました。
彼は、門のところで目を真っ赤にして泣いている男の子の姿に、釘付けになりながら玄関に入ってきました。
普通なら、「どうしたの?」と聞いたり、「中に入ろう」と言ったりするかもしれません。
でも、その子は違いました。
入ってくるなり、すぐに泣いている男の子の隣へ行き、言葉は何も掛けずに、そっと彼の小さな肩に手を回したのです。
そして、泣いている子がガラス越しに見つめている景色を、
「ただ一緒に、じっと見つめる」という行動を選びました。
言葉なんて、いらない。
ただ隣にいて、君と同じ悲しみの景色を見るよ。

5分くらい、2人はそのままの姿勢で、じっと外を見つめていました。
しばらくして、後から入ってきた別のお友だちが、私の方を見て、
「……なんで泣いてるの?」と小さな声で聞いてくれました。
私は、泣いている子がどうして今こんなに悲しいのか、周りの子どもたちが彼の気持ちを想像できるように、出来る限り丁寧に分かりやすく話しました。
それを聞いたお友だちは、
「ふうん」と言って、やっぱり隣に寄り添ってあげることを選びました。
子どもの世界の圧倒的な優しさと共鳴。
職員室の前で、信じられないほど温かい光景が広がっていました。
けれど、ずっと後ろで待っていたお友だちのパパが、
「そろそろお部屋に行こうか。準備してからまた、ここに迎えにこよう」
と優しく促しました。パパもお仕事の時間があります。
でも、隣に寄り添うお友だちは、ニコニコしながら、
「いや、それは今はできないんだよね」という感じで、頑として友だちの側から離れようとしません。
パパは困って、
「パパにもお仕事があって、このままここにいたら、パパが困っちゃうんだ」
と正直に伝えました。
するとその子は、なんと「僕は大丈夫だよ!」と言って、パパに向かって無邪気に笑ったのです(笑)。
(いやいや、大丈夫なのは君だけど、パパが困っちゃうんだよ、と思わず突っ込みたくなりましたが、子どもの純粋さに胸がキュンとしました)
「えっと、そっか……。そうかもしれないけれど、パパはね……」
パパが言いかけたところでようやくそのお友だちは納得したように靴を脱ぎ始め、お部屋へと向かっていきました。
私は、その一部始終の様子をすべて言葉にして、ガラスに張り付いて泣いている子に、優しく語りかけました。
「お友だち、ずっと隣に一緒にいてくれたね」
「パパも、ずっと優しく待っててくれたね」
「これね、さっきの〇〇くんのママと、全く同じだったんだよ」
「時計を見て、『もう時間なんだよ』ってパパもママも言ってたね」
「パパやママには、お仕事の大切な『時間』があるのかもね」
「パパは5回くらいお部屋に誘って、先に向かったね。お友だちは5回目でついて行ったね。
 〇〇くんも、5回目くらいだったら、ママとお部屋に行って笑顔でバイバイ出来たのかなぁ……」
まるで、1つの優しい物語を読み聞かせるように、トントンと背中を触りながら伝えていきました。
すると、さっきまで激しく泣いていて、私の声なんて一切聴くつもりのなかった彼の耳が、
ピクッと動いて、私の言葉に静かに耳を傾け始めているのが分かりました。
その時、保育室の方からも、別のクラスのお友だちが顔を出してくれました。
部屋まで聞こえてくる彼の泣き声を心配して、わざわざお迎えに来てくれたのです。
「大丈夫? 一緒にお部屋に行こうよ」
「リュック、持ってあげるよ?」
みんなが、彼の安全基地になろうと、優しい手を差し伸べてくれています。
しばらく見守ってくれた後、その子たちもお部屋に戻っていきました。
張り詰めていた彼の心が、周りのみんなの愛によって、少しずつ、少しずつ緩んでいくのを感じていました――。
お友達みんなの温かい愛に包まれながら、彼の張り詰めていた心が、少しずつ緩み始めていたその時。
また別の、クラスのお友だちが、
びっくりしたような表情で、いそいで玄関に入ってきました。
ガラス張りから外に見える、大好きな友だちの様子が、どうしても心配だったのだろうなと思います。
入ってくるなり、
「……どうして泣いてるの?」と私に聞いてきました。
私はさっきと同じように、彼の心に寄り添いながら、どうして今こんなに悲しいのかを、出来る限り、丁寧に話しました。すると…
その子もまた、彼の横にそっと並んで、外の同じ景色を、静かに一緒に見守り始めたのです。
その子のパパも、しばらくその場に一緒にいてくれて、
「一緒にお部屋に行こうよ」と優しく声を掛けてくれました。
やっぱり10分くらいが過ぎた頃。
お仕事の時間があるパパが、
「そろそろ行かないとね。準備してからまた戻ってこようよ」と優しく誘いました。
パパが5回くらい同じ温かい言葉を伝えた時、ようやくそのお友だちも納得して下駄箱の方へと歩いていきました。
私は、隣でガラスを見つめる男の子の背中をトントンしながら、声をかけました。
「あ、また5回目くらいでお部屋に行ったね」
「あのお友だちも、そのくらいだったら大丈夫なんだね」
「パパと笑顔で、バイバイ出来るんだね」
そう言いながら、ふと彼の顔を覗き込むとあんなに激しかった涙が、いつの間にか、すうっと止まっていました。彼の気持ちが切り替わったその時、私はこう切り出しました。

「え、あれ……?」
…5回目でお部屋に行ったと思っていた友だち。まだ下駄箱の奥の方に座っていました。

「行ったと思ってたら……まだ行ってない!」
「ほら、あそこ! 小さな足がちょこっと見えてる(笑)!」
お部屋に向かったはずのお友だちの足が下駄箱の陰から、ちょこんと隠れて見えていたのです。
私がそう言った瞬間。
さっきまで大号泣していた彼が、
お顔をクシャッとさせて、
「ニコっ!」と最高の笑顔を見せてくれたのです。
そして、勢いをつけて、
お友達の待つ下駄箱まで、タタタッと力強く走っていきました。
靴をどこか自慢げに脱いで、自分で上履きをパッと履きました。
おっ!
なんて、いいお顔なんだろう!

「お友だち、みんながお部屋で待ってるね」
私がそう言って声をかけると、彼は本当に、本当に嬉しそうでした。
大人の力で無理やり連れて行かれたのではなく、
「自分の力で、気持ちを切り替えたこと」が、たまらなく誇らしくて嬉しいのだろうな。
ちょうどそこへ、出勤してきた彼が大好きな担任の先生が、
下駄箱まで優しくお迎えに来てくれました。
彼は担任の先生を見つけるなり、
体いっぱいに、思いっっっきりのハグをしました。そのまま、クラスの前に一緒に行きました。
すると、お部屋の中からお友だちが次々と集まってきて……。
なんと、みんなで彼に向かって、パチパチパチと温かい「拍手」をして迎えてくれたのです。
なんて、なんて良いクラスなんだろう。彼は顔いっぱいの輝く笑顔で、私を優しく見上げ、少し恥ずかしそうに、小さな手を大きく振ってくれました。
ふと、壁の時計を見たら。
ちょうど「1時間」が経っていました。
今日の朝に予定していた事務仕事は、何も出来ませんでした。
だけど朝一番、この世で「一番大切な仕事」をしました。保育という仕事は、こんなにも素晴らしいのです。
0歳から6歳まで、子どもの人生の土台となる根っこを育てる保育園は人生の中で最も重要な人生学校。豊かな学び合いの場です。子どもは決して何も出来ない小さな存在ではありません。子ども達の美しい世界を『保育のいろは』として、届けていきます。

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