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みのりの夏あらし 1章-(5)   姉ミドリとの電話

「ボッテリアでアイス食べて帰ろうか」

ワコに誘われたけれど、今日はダメなんだ、と断った。
「おばあちゃん、そんなに悪いんだ。じゃあね、お大事に」

仲間たちは、口数少ないみのりをいたわって、あっさり別れてくれた。      みのりはほっとする。 

ほんとはひとりきりでいるより、仲間の騒ぎ声の中にいる方がラクだった。でも、ミドリの帰りが気になってならない。母の帰宅よりも前に、ミドリと話しておくべき事が、あるような気がしてならなかった。

C棟1階の5号室のドアを開けると、ちょうど電話のベルが、鳴り出した ところだった。おねえちゃんだ。みのりはスイミングバッグを放り出して、電話に走った。チラと時計を見た。4時だ。

「あ、みのり、もしもし」
やっぱりミドリだ。甘えたようなささやき声が、耳元で聞こえる。少し言いよどんでいるのは、気が咎めているからだ。

「あのまま2人で泊ったんでしょ」
「ん」

逆らわない。みのりの方が言葉につまって、うろたえた。

「みのり、お母さんに話した? きのう」

「言わない!」

言うわけないよ。みのりは、いらいらしてくる。妹の性質を、知りぬいて いて、姉はつけこんだんだ。厚かましいったら。  

「みのりは気にしなくていいのよ。朝まで彼と話してただけ。じゃ、今から帰る」

うそ! 耳が変な音してるもん。おねえちゃんたら、ほっとしちゃってる。お母さんたちに知られていないかを、確かめる電話だったんだ。みのりは、でも、心の中に、細い光が射し混んだのを感じる。何もかも、みのりの思いこみに過ぎないのかも。おねえちゃんはほんとうに夜通し、ギターを弾いたり、話しこんだりしていただけなのかもしれない。

ひどい疲れを感じて、みのりは2段ベッドの上段によじ登った。眠気がドット襲ってきた。夢も見ないで、そのまま夕方までぐっすり眠ってしまった。


「よし君て、面白い子なの・・おひるねの時間に・・」
「ふふ、その子、おかあさんが好きなのよ・・」

目をさましかけて、うつらうつらしているみのりの耳に、台所から母と姉の声がとぎれとぎれに聞こえる。2人で夕飯を作りながら、いつものように 母は、保育園での話をしていた。

「山小屋へまた行ってもいい? おかあさん。今度は3日くらい」

話がとつぜん変わった。タイミングを狙ってたみたいに。

「そうね、いいわ。ギターの練習はこの家ではムリだもの。ただ食糧だけは、きちんと持って行かなくちゃ」

その声で、みのりははっきりと目をさました。また晃君と約束してきたんだ。お母さんは何も知らないで、姉を信じ切っている。ミドリは山小屋に、ひとりで泊まれる勇気なんてない。その事は今までずっと同じ部屋で暮してきたみのりが、誰より良く知っている。

ミドリはますます大胆になってきている。どうしてあんなに変わってしまったのだろう。恋をすると、大胆になるの? そして、妹の私はオジャマムシってわけ?

みのりは改めて考えこんでしまう。恋をするって、素晴らしい憧れだったのに。おねえちゃん、恋人ができてすてき、うらやましいって、叫んだ日も あったのに。今は薄汚れて、色あせて見える。なぜ? みのりは薄うす勘づいている。たぶん、家族の目を盗んで、だましたりごまかしたり、こそこそすることで、美しいはずの物を、汚しているのだ。好きなら好きと、堂どうとしているべきなのだ。