フェミニズムが魅力的である理由

フェミニズムに魅力を感じる人は少なくありません。その理由を、フェミニスト批評家、武蔵大学人文学部教授である北村紗衣先生(アカウント名 Cristoforou)によるネット上でのやり取りから見ていきます。

一人目のアカウントamator_vnさんとのやり取り

二人目のアカウントiototakuさんとのやり取り

NHK 2024年のノーベル化学賞に、AIでたんぱく質の構造予測に成功した研究者ら3人

これらのやり取りから、フェミニストであることは特別な存在になることだと理解できます。
これについて、次の6つの理由を説明します。それぞれ独立した説明なので、興味のある観点だけ読むことが可能です。

理由1 童心のままでいられる

まず、「よね?」が日本語では「確認したり、同意を求める時に使う表現」であることから、「コンピュータに囲碁とかやらせる研究って全く「役に立たない」」と北村先生が考えていたことがわかります。

この疑問に対して返答した人にお礼を伝えるのは、幼稚園、保育園までに(社会性を身に着けるために)学ぶことです。しかし、フェミニストであれば、社会性のような煩わしさを気にせず、童心のまま、相手とやり取りができるのです。

さらに、一人目のときのように相手に瑕疵があれば、フェミニストはその点だけを非難します。一方、二人目のときのように、言い返せなければフェミニストはなかったことにします。こういった社会性から解き放たれた、自由なやり取りがフェミニストであれば許されるのです。

理由2 フェミニストからの知識の提供は有償、フェミニストへの知識の提供は無償

北村先生のお話という情報の価値として、学生から1,500円以上、一般から2,000円以上を設定しています。

一方、冒頭の引用にあるように、北村先生の疑問に対する返答を得るために、北村先生は対価を一切払いません。「(略)よくわからないと思ってるだけです。なんか使われてるならもっと広報したほうがよくない?」「これ「深層強化学習に使われてます」じゃ全然ダメで、(略)科学に詳しくない人には全くわからないよ。」ここで科学に詳しくない人とは、北村先生のことですね。北村先生が返答を得るには無料が当然で、わかりやすくかみ砕いて説明しなければならない、と更なる要求をしています。

これが特別でないことは、次の「農学博士の学位を持っている歴史家をすぐにたくさん挙げる」ように北村先生が求めている例から明らかです。

この歴史家に関する疑問について、北村先生が間違っていることは「オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」の自由な言論空間ってこれだ」で示されています。

また、自分の意に沿わない相手であれば、協力を依頼されても断るよう皆を促しています。

つまり、フェミニストの持つ情報の価値は高いので、その情報を得るには対価を支払わなければなりません。一方、フェミニストの疑問への返答は、広報の不足が引き起こしています。このため、その返答を伝える側が費用を負担して伝えなければなりません。このように、フェミニストに快適な非対称性が存在します。

理由3 一般に向けての広報に関する要求の高さ(フェミニストからの広報を除く)


「もっと広報したほうがよくない?」という指摘に対して、現状までにマスメディア、ネットメディアの情報を確認しておきましょう。強調は引用時に付与しました。

二人目のアカウントiototakuさんが紹介したNHKによる2024年のノーベル化学賞発表の記事

ディープマインド社は2010年、デミス・ハサビス氏が共同設立者として立ち上げ、2014年、アメリカのIT大手、グーグルの親会社、「アルファベット」の傘下となりました。
2015年にはAI=人工知能を駆使した囲碁のコンピューターソフト、「AlphaGo」(アルファ・ゴ)を発表し、2016年、世界トップクラスの韓国人棋士との5番勝負の対局で、4勝1敗で勝利。AIの可能性を世界に示したことで大きな話題となりました。
同じ年に、ハサビス氏と同僚の研究者、ジョン・ジャンパー氏はAIでたんぱく質の立体構造を解明するため、「アルファフォールド」の開発に取り組み始めました。
そして、2018年には、2年に一度開催されるコンピューターでたんぱく質の立体構造を予測する技術を競う国際的なコンテストに挑み、開発の着手からわずか2年で優勝を成し遂げました。
また、その2年後に行われた同じコンテストには、より精度を上げた改良版の「アルファフォールド」で挑み、さらに高い精度で課題となる構造を突き止めて再び優勝を飾り、関係者の間で話題となりました。
2021年7月には、「アルファフォールド2」として一般に無料で公開され、多くの研究者が実際に使用し、その予測の精度に驚きの声が上がったほか、「アルファフォールド2」を用いた論文が世界中で発表されています。
2024年に入ってからはさらに精度や分析のスピードを上げ、これまで予測できなかった、たんぱく質と薬剤の複合体の構造も予測できる「アルファフォールド3」を発表し、注目を集めています。

NHK 2024年のノーベル化学賞に、AIでたんぱく質の構造予測に成功した研究者ら3人

朝日新聞による2024年のノーベル化学賞発表の記事

ハサビス氏とジャンパー氏は、AIを活用して、予測の精度を飛躍的に向上させたプログラム「アルファフォールド(AF)」を開発するなどした。
(略)
ハサビス氏が10年に起業したディープマインド社は14年にグーグルに買収され、世界最強の棋士に勝利した囲碁AI「アルファ碁」を生み出したことでも知られる。私たちの脳が計算する原理を計算科学に応用し、深層学習(ディープラーニング)や強化学習など、ChatGPT(チャットGPT)などの生成AI登場にもつながる研究成果を次々に生み出してきた。

朝日新聞 ノーベル化学賞、グーグル・ディープマインド社のAI研究者ら3人へ

読売新聞による2024年のノーベル化学賞発表の記事では、囲碁AIが触れられていないので、北村先生は読売新聞だけをご覧になったのかもしれません。

人工知能(AI)を利用して、たんぱく質の立体構造を予測する技術を開発した。AIが関連した研究が受賞対象になるのは、前日の物理学賞に続き、2日連続となった。
(略)
ハサビス氏とジャンパー氏は、アミノ酸配列などのデータベースを基に、たんぱく質の構造を高精度に予測するAIモデル「アルファフォールド」を開発。これまでは構造を特定するのに何年もかかっていたが、わずか数分で完了できるようになった。

読売新聞 ノーベル化学賞、米英の研究者3人に…AI利用し「たんぱく質」の立体構造の予測技術を開発

また、受賞者はナイトの称号を授与されたイギリス人であるため、イギリスに滞在していれば受賞の話題が日常会話に登場していたかもしれません。

――ディープマインドの2人が今年のノーベル化学賞を受賞します。受け止めは。
非常に誇らしく思っています。CEO(最高経営責任者)のデミス・ハサビス氏はナイトの称号を授与されていますが、ノーベル賞も受賞するということで、ますます誇らしい。

朝日新聞 ノーベル賞のAI開発 英国家技術顧問が語る「日本にない強み」とは

また、一般に向けた無料映像を2つ紹介します。
1つはTEDで公開されているインタビュー (How AI Is Unlocking the Secrets of Nature and the Universe | Demis Hassabis | TED) です。その前半でコンピューター囲碁とたんぱく質のAI構造予測について触れられています。

もう1つは、YouTubeで公開されているドキュメンタリー映画AlphaGo (IMDb awards) です。この映画は7つの映画祭でベストドキュメンタリーなどノミネートされ、3回は受賞を逃しましたが、4つは受賞しています。この映画は、コンピューター囲碁が世界一のプレイヤーと対戦したときに制作されたものなので、ノーベル化学賞についての説明はありません。

理由4 論文の広報に関する要求の高さ(フェミニストの論文を除く)

「もっと広報したほうがよくない?」という指摘に対して、論文の情報の広がりを確認しておきましょう。

論文のアクセス 218万回 被引用数 21301(Web of Scienceによる)22218(CrossRefによる)
ネットでの注目度
同時期のすべての学術雑誌の453,988論文の中で上位1%以内(83位)
同時期のNatureの中の927論文の中で上位1%以内(9位)
(2025年4月30日現在)

https://www.nature.com/articles/s41586-021-03819-2/metrics

一方、この論文が発表された2020年より以前に発表された、北村先生による次の英語文献と比較します。被引用数はGoogle Scholarによれば4件、うち2件が自分による引用なので、引用は2件、およそ1万分の1に満たないことになります。

4 被引用情報 The Curious Incident of Shakespeare Fans in NTLive: Public Screenings and Fan Culture in Japan
https://scholar.google.com/scholar?cites=7012553956705588482&as_sdt=2005&sciodt=0,5&hl=ja

姓名のアルファベット記述による検索では他に見つけられなかったので、北村先生のResearchMapに掲載されている論文名に対するGoogle Scholarが集計した被引用数は次の通りでした。

0 被引用情報 2025 Did Richard II Really Break the Mirror on Stage? A Close-Reading of the Close-Reading Scene

0 被引用情報 2025 Dangerously Seductive Men: Shakespeare's Wars of the Roses Plays and Marlowe's Edward II

0 被引用情報 2024 1960年代の「鏡よ、鏡、鏡さん」――寺山修司『毛皮のマリー』と松本俊夫『薔薇の葬列』における『白雪姫』の影響

0 被引用情報 2022 「美しい」王をどう表現するか?――『リチャード二世』の演出と受容

0 被引用情報 2021 A Rose by Any Other Name May Smell Different

1 被引用情報 2020 How Should You Perform and Watch Othello and Hairspray in a Country Where You Could Never Hire Black Actors? Shakespeare and Casting in Japan

0 被引用情報 2020 我々にもオシァン・ジュビリー祭を!――シェイクスピア・ジュビリー祭と、とあるスコットランドのファンの夢

7 被引用情報 2020 波を読む――第四波フェミニズムと大衆文化

2 被引用情報 2020 ウィキペディアにおける女性科学者記事

該当なし 被引用情報 2018 ワイルドが言うとおりにワイルドを解釈することはできるか?――アナーキーと「著者の意図」の間で

0 被引用情報 2018 Shakespeare for Women? Margaret Cavendish and Judith Drake on Seventeenth-century Theatre, Pleasure and Education

7* 被引用情報 2017 A Shakespeare of one’s own: female users of playbooks from the seventeenth to the mid-eighteenth century

該当なし 被引用情報 2015 「シンデレラストーリー」としての『じゃじゃ馬ならし』一一アメリカ映画『恋のからさわぎ』におけるシェイクスピアの読みかえ

0 被引用情報 2014 A Kiss as an Erotic Gift from Cleopatra: Gift-Giving in Antony and Cleopatra

該当なし 被引用情報 2012 感覚のマイノリティ――共感覚と共感覚者をめぐるフィクション

2 被引用情報 2011 ニュー・バーレスク研究入門

0 被引用情報 2011 J・M・クッツェー作『夷狄を待ちながら』における月経の表現 (関東英文学研究)

0 被引用情報 2009 「おネエと女とフリークス――『お気に召すまま』と『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』」

0 被引用情報 2009 イギリス・ルネサンスにおける「クレオパトラ文学」--シェイクスピアのクレオパトラとその姉妹たち

0 被引用情報 2008 「雅にして強かなる罠――『アントニーとクレオパトラ』における紳士の形成の危機」

0 被引用情報 2007 「歪んだ王冠と道化――クレオパトラの死と女王の二つの身体」

「巨人の肩の上に立つ」は17世紀の科学者アイザック・ニュートンが使ったことで有名になった言葉です。似たような表現はその前からあり、今ではグーグルの学術論文検索システム Google Scholar のモットーにもなっています。「巨人」は先行する人々の業績の積み重ねを指し、「肩の上に立つ」はそれをふまえることです。過去の蓄積を参考にしたほうがものがよく見え、遠回りをせずに済むという意味で、知識とは何かという問題の核心を突く表現です。

北村紗衣 批評の教室 p70

ほとんど引用されていないということは、ほとんどの文献が遠回りしないための道しるべとしての業績として参考にされていない、言い換えると学術研究の役に立っていないということです。しかし、「役立たず上等」なので、まったく問題とされていません。

このように役に立たないことは「上等(=申し分がないさま。結構。上出来。満足)」と3か月前に肯定していました。しかし、コンピュータ囲碁の研究が「役に立たない」ことについては、「コンピュータは(略)面白くないし、人間は(略)つまらんだけ」と否定しています。1つの論文だけで2万を超える研究論文に知識を提供しても、コンピュータ囲碁の研究が役に立っているとはみなせないということでしょう。

理由5 同じ性質でも「役立つ」と「役立たない」と正反対にできる

第1回のテーマは「大学で英文学を学ぶのは無駄で役に立たないのか?」です。
(略)
既に一度、 別の記事 で書いたことがあるのですが、 シェイクスピアは今なおコンテンツとして極めて大きなビジネス上のポテンシャルを持っている 作家です。シェイクスピアを無用の長物として攻撃している方々はご存じないことでしょうが、人気俳優が舞台でシェイクスピア劇に出演すると、イギリスでも日本でもチケットがすぐ売り切れます。
(略)
このようにチケットがすぐ売れてしまうのは俳優がスターだからですが、スターはシェイクスピアをやることにいつも興味があります。というのも、 シェイクスピア劇は役者の魅力を最大限に引き出してくれるよくできた台本 だからです。
(略)
経営ではニッチな市場の開発が重視されることがあるようですが、私は、 文学を学んだ人たちがもうけられるような市場を作る つもりで大学教育をしています。
さて、そこで出てくるのが、「でも、それ(文学)を英語教育でやる必要はあるのか?」という問いだと思います。これについては、2部作になっているこの記事の、次回でお話ししたいと思います。

文学不要論者が知らない、シェイクスピアが「もうかる」理由【北村紗衣:大学の英語教育①】

前回の記事(注 文学不要論者が知らない、シェイクスピアが「もうかる」理由【北村紗衣:大学の英語教育①】)では、なぜ大学で英文学を英語で学ぶ必要があるのか、という話をしました。

TOEICやビジネス英語で「実用的な英語の運用能力」が獲得できない理由【北村紗衣:大学の英語教育②】

「それ(文学)を英語教育でやる必要はあるのか?」という問いについて、第1回の最後で「2部作になっているこの記事の、次回でお話ししたいと思います。」と書き、その第2回の冒頭で「前回、なぜ大学で英文学を英語で学ぶ必要があるのか、という話をしました。」と書く。このようなパラドックスの文章を平気で公表する北村先生とENGLISH JOURNALですが、注目すべきはその論理的破綻ではありません。(これだから、ENGLISH JOURNALは休刊、事実上の廃刊になったわけですが。)

「シェイクスピア劇は役者の魅力を最大限に引き出してくれるよくできた台本 だから」シェイクスピア(を大学で学ぶこと)は役に立つ、と主張しています。一方、「役に立たない」コンピュータにゲームさせる研究は、そのゲームが将棋ならばシェイクスピアと同じです。

「ソフトを使って、自分の棋力をどう向上させるかが焦点になっている」と千田五段。自身でも棋士同士の実戦で現れた難解な局面についてソフトに形勢判断をさせながら次の手を探ったり、強いソフト同士を対戦させた棋譜を並べて勉強したりする。
ソフトの考え方を取り入れることで、将棋の進化につながる、との考えもプロ棋士の間で広がる。実際、将棋ソフトが指した手がプロの戦い方にも影響を与えるようになった。

AIが導く進化 将棋ソフト、プロが戦略分析に活用

コンピュータ将棋がプロ棋士にとっての将棋の勉強道具となり、プロ棋士の棋力を向上させる。つまり、コンピュータ将棋とプロ棋士の関係は、(北村先生の説における)シェイクスピア劇と役者の関係と同じです。しかし、シェイクスピアは役に立つが、コンピュータ将棋は役に立たない(その技術が応用されない限り)という正反対に、北村先生は結論づけています。

これは、フェミニストだからできることであり、そうでない人にはこのような論理的に導くことが不可能な正反対の結論は出せません。

理由6 同じ性質でも「役立つ」と「役立たない」と正反対にできる(続)

文芸作品は言語で表現された芸術というとらえかたがあります。

芸術が批評を受け変更されることで文化コンテンツは発展する、と北村先生は考えています。この点で、批評に価値を置いているように思われます。

一方、AlphaGoのドキュメンタリー映画 (映画祭受賞作、YouTube) では「囲碁棋士は芸術家だ」と現役の棋士が語っています。また、「この(囲碁の)手は美しい」という表現も出ています。将棋やチェスでも同じように語る人もいるでしょう。つまり、囲碁や将棋、チェスも美を表す芸術であり、文化コンテンツです。

コンピューター囲碁やコンピューター将棋は、既存の棋譜や棋士の手に対して、より良い手を示します。これは現状を批判し改善を示す、とみなすことができます。実際、コンピューターと対戦することで学ぶ棋士も少なくありません。つまり、より良い芸術を創造することで改善を促しているコンピューター囲碁やコンピューター将棋は、批評家であるとともに芸術家であると言えます。

この観点では、次の2つが並び立っているのは不合理です。
- 文芸批評が我々の日常生活に生かされているのかがよくわからない、とは考えない。
- 批評家であり芸術家でもあるコンピューター囲碁やコンピューター将棋は日常生活で生かされなければならない
しかし、フェミニストならば、このような不合理な指摘が堂々とできるのです。

まとめ

武蔵大学北村紗衣先生のネット上でのやり取りから、フェミニストであるということは特別な存在だということを説明しました。フェミニストでない一般とは、次の違いがありました。

童心のままでいられるvs社会性
知識の価値 フェミニストの持つ知識の提供は有償、フェミニストに必要な知識の提供は無償
広報に関する要求 一般に向けての広報、論文による広報
同じ性質でも「役立つ」と「役立たない」と正反対にできる 「役立つ」シェイクスピアvs「役立たない」コンピュータ将棋、「役立つ」文芸批評vs「役立たない」コンピューター将棋

これらの1つでも違いをなくすと、冒頭で引用した北村先生から始まるやり取りは存在できなくなります。フェミニストであればこれらの違いを超越することができるので、フェミニズムに魅力を感じる人が現れるのも納得です。