自認レゼおばさん
二十数年ぐらいお世話になっている美容師さんがいる。同年代の、オシャレな男性美容師さんだ。
途中、私の引っ越しなどで他の美容室に浮気していた時期もあるが、なかなか長い付き合いだと思う。
私は、オシャレな人の前では挙動不審になってしまう。子どもの頃からオシャレに無頓着だったため、どうしていいかわからなくなるのだ。
「わ、わたしも、ひ、人並みにオシャレに関心ありますよ〜、ふ、ふふん」
などと取り繕おうとするので、無理が出る。もうバレてるのに。
結果、喋らずに(そもそも話せるオシャレな話題がない。)、そっと静かに微笑む、謎のキャラクターを演じるのが無難だと悟った。
美容師さんに対しても、長年そうだった。おかしなところはできるだけ見せず、なんとか普通の大人に見えるようにしていた。
家の近くの美容室なので、長男も次男も、中学生からそこに行っていた。年齢が上がるにつれ、息子たちは、それぞれ自分が好きな、今どきの髪形にしてもらっていた。
特に次男は、美容師さんと話が合ったようだ。息子が初めて女の子と付き合いはじめたのを、私は美容師さんから聞いた。息子は自分のこともよく相談していたし、私の話もよくしていたらしい。
私が家でずっとゲームしている話も、暑くて床に転がっている話も、始めた家庭菜園にすぐ飽きた話も。忍者のアニメにはまって、休みの日にずっと見ている話も。
チェーンソーマンの映画、初日の夕方に高校生やら大学生やら、若者に紛れて、おばさん1人で見に行った話も。IRISOUTを熱唱し、レゼな気分で「ボンッ」とか言ってる話も。
『あ、〇〇さん(美容師さん)に話しといたよー』
するんじゃなーーい!!
翌週、髪を切りに行った際、ニヤニヤする美容師さんに、「髪形どうするー?レゼに近づけるー?」と言われた。
「いやー、息子くんから話きいて、今までとイメージ変わったわー」と、爆笑された。
おい。息子よ。
私がつくってきたイメージを、勝手に壊すんじゃなーい!
自認レゼおばさんという、間違ったイメージになっちゃうだろうがー!
美容師さんとの付き合いは、今も続いている。「今のブームは何〜?」などと、毎回楽しそうに私の様子を聞いてくれる。正直、困る。
今まで、できるだけ「ふつう」に見えるように、薄布一枚隔ててきたのだが、急に布が消えてしまった。素顔がさらされるのは、気恥ずかしく、今も、どう応えるのがいいのかわからない。「静かにほほ笑むキャラ」に戻れなくなったことは、確かだ。
美容院で流れる有線放送に、IRISOUTが流れないことだけは、切実に祈っている。
