見出し画像

ふつうになりたい

高校三年生の時点で、小谷さんは漫画家としてプロデビューが決まっていた。少女漫画雑誌の新人賞で高い評価を得て、担当もついていた。進学校にいたにもかかわらず、大学進学はしないと公言していた。彼女の中では道がもう決まっていたのだった。

絵がとにかく綺麗で、美しい構図の画面を次々と描く。私が見たことのあるプロの漫画の中でも、相当絵がうまかった。その絵の記憶は、目の裏に焼き付いている。

ストーリーは、思い出すことができない。

小谷さんとの出会いは、高校の部活がきっかけだった。
私は文芸部で、小説や詩を書いていた。私の高校の文芸部はできたばかりで、ほとんどの部員が漫画研究会と兼部しており、更に美術部と兼部している人もいて、活動場所は美術室だった。
美術の先生は準備室で油絵を描いていて、生徒たちには好きにやらせていた。

私は放課後になると美術室に行き、ダラダラして過ごした。

小説を書くのはめいめいでやるので、部室には冊子を作るときくらいしか用はない。そして私は音大受験を目指していたから、早く帰って練習しなければならなかった。でも私はよく、そこでたむろして家に帰る時間を遅らせていた。

同じ学年で最初に入部したのは私だったので、先輩たちからは後輩1号としてかわいがられた。

「イチコが書くものはわかりやすくて綺麗だね。」

と、ちやほやされるのは心地よく、そのお返しというわけじゃないけど、先輩たちの漫画同人誌の手伝いでベタ塗をしたり、消しゴムかけをしたりすることもあった。

小谷さんは、私の通っていた都立高校のすぐ近くにある私立高校の漫研の人で、先輩たちの友達だった。うちの高校は外部の生徒も自由に出入りしていた。百合さんという綺麗な人も小谷さんと同じ高校から来ている仲間で、面白い俳句を詠んだ。

仲間でがやがやしている雰囲気は、大好きだったうる星やつらみたい。

セブンイレブン。JAVAティー、シーチキンおむすび、カロリーメイト。美術室。私の高校時代。


「MIOの新しい画集見た?見てもいいよ」

部室に入ると、田中先輩が大判サイズの本を差し出した。

「わ、買ったんですか?」

私は田中先輩のそばに座って、ページをめくった。

その頃私たちは、MIOという漫画家にハマっていた。MIOは同人誌から商業誌に移って一世を風靡した若い漫画家で、『天使シリーズ』で欲望や葛藤を抱えた天使たちを描き、BL的な気配もあって人気が爆発した。

MIOは生き急ぐように同時並行で連載を抱え、同人誌も出し続け、殺人的なスケジュールで回していた。その私生活を、MIOはしばしば漫画にした。その暮らしぶりに憧れた。

大ぜいのアシスタントと友達みたいに集まって、みんなが作業しながら交わす会話をBGMに仮眠をとったり、無水カフェインを摂取して徹夜したり、真夜中にデニーズでごはんを食べたり、コンビニでプリンを買ったり、当時新しかったそんなことが、ぜんぶ好きだった。

お金があって親のない子が、集まっているみたい。すてき。


「イベントのチケット、当たったよ」

と、小谷さんが言った。革の学生鞄から往復はがきの返信を取り出すと、ほそい人差し指と中指に挟んで、ひらひらとみせびらかした。

「うっそ、すごい」

部室が湧いた。

「みんなで行こう」

田中先輩は往復はがきに貼り付けてある紙に書かれている文字をじっくり読んでから皆の人数を数え、私に、

「イチコも行けるよ。行く?」
と言った。

私は×ばっかり書かれた小説のプロットから目を上げて、にっこりうなづいた。

イベントは、MIOの『天使シリーズ』のアニメ化を記念して行われ、出演している有名声優の男性たちとMIOのトークのあと、ファンとの交流、という予定だった。

ファンとの交流ではプレゼントを渡したり、著作にサインをしてもらえたりする、ということだったので、新宿の待ち合わせ場所に現れた小谷さんは、お菓子の箱を持っていた。

かなり昔のことなので、作家への差し入れに今ほど厳しい決まりはなかった。お菓子も、必ずしも個包装である必要はなかったと思う。でも、小谷さんが持って来たのはクッキーやマドレーヌのような日持ちのする焼き菓子ではなく、いちごショートケーキだったので、当時の私にも、イベントで作家に渡す差し入れとしては、ちょっと変わっているように思えた。

小谷さんと先輩たちは私にちょっと待つように言うと、ごそごそとケーキの蓋を開けて、また閉じた。

私はもの問いたげな顔をしていたのだろう。

「カミソリがね、入ってるの。」

小谷さんはにっこり笑って、言った。
ショートケーキみたいに白くふわっとしたロングスカートを着ていた。

「は?」

私はもう一度言った。

「え?」

新宿駅の地下は絶え間なく空気が動いていて、見えないシャボン玉が割れたみたいに、ぷん、と下水の匂いが強く匂って、すぐにほかの匂いにまぎれた。

先輩のひとりが、つまらなさそうに言った。

「なぁに?イチコ。嫌なの?」

私はまだ驚いていた。

「みんな、MIOが好きなんじゃ、ないんですか?」

私は全員を見回して、尋ねた。私って今、バカみたいに見えるんだろうな。そんな気がする。

「好きだよ?」

小谷さんは優しい声で、答えた。

「じゃなんで、ケーキにカミソリを入れるんですか?」

小谷さんはずらした。

「ああ、握手のときに手を切った方がいいかなって思ったんだけど、周りに人いるだろうし、失敗する可能性が高いなって、思って。」

小谷さんは、もう一度、笑った。

私たちは地下を移動して、都営新宿線に乗った。
つり革につかまった先輩たちが、揺れながらしゃべっていた。

「え、なんで。」

「だって、イチコが。」

「ふふ。」

次はー、くだんしたー、次はくだんしたー、営団地下鉄東西線、営団地下鉄半蔵門線は、お乗り換えです。左側のドアが、開きます。

「ねえ小谷さん、やめよって言ってる。」

「どうして?」

「イチコが、やだって。」

「やなんだよね、イチコ?」

キキーッ、プシューッ、プシュッ、プシューー。
くだんした―、くだんしたー。

「あっそ!」

怒ったように小谷さんが言って、ケーキの箱は都営線のゴミ箱に投げ捨てられた。

うる星やつらみたいな世界なんかない。学校からは早く帰って、ピアノの練習をしなくちゃ。そんな考えがふと浮かんだ。

そういうときに私が見せた表情が、小谷さんの気に障ったのかもしれなかった。


小谷さんはその後、私との距離を縮めてきた。

他の先輩たちは高校卒業後、大学や予備校、専門学校に進んで新しい生活に入っていた。もう漫画を描く人はいなかったし、小説を書く人もいなかった。
小谷さんだけ進学しないで漫画を描いていたから、付き合ってくれる誰かが欲しかったのかもしれない。

私は小谷さんの家に招かれたり、いっしょに出かけたりするようになった。

小谷さんの家は庭付きの一軒家だった。母親は優秀な弁護士だったが、父親は家を空けがちで、何をやっているのかもよくわからない。家に行くと、そんな話をぽつぽつとした。

漫画を描く部屋は広い机があり、壁一面が本棚になっていてぎっしりと漫画や写真集、画集が詰まっていた。小谷さんは本棚から漫画を出すとポンと私に渡した。

「これ面白いから、読んでみて。」

それはボディコンの女性が出てくる青年向けの漫画で、エロシーンがふんだんにちりばめられていた。なかには、主人公が人けのない街角で酔いつぶれた男性に馬乗りになり、そのあと公衆電話から「さっき道端で変な親父とセックスしちゃったの」と話す場面まであった。シュールの皮をかぶせた性犯罪のような描写だった。

小谷さんは、その漫画に目を通す私をじっと観察していた。

私が漫画を返すと、小谷さんは私に読ませた激しい性描写には触れずに、
「この漫画が凄いのは、例えばこのストッキングを履くシーン。股にフィットさせるためにがに股になっているところ。」
などと解説した。

小谷さんのお母さんは忙しい人だったが、遊びに行くとごはんを作ってくれた。お母さんが呼ぶと、私たちは小谷さんの部屋を出て、階下の食堂でごはんを食べた。猫が私を珍しがって、膝に乗ってきた。

「母のカレーライスはね、辛いものが苦手だから、全然辛くないの。」

小谷さんはスプーンでカレーをすくうと、ぱくっと口に入れた。

「でも、具沢山でおいしいのよ。」

確かに美味しいカレーだった。メインの鶏肉やジャガイモや玉ねぎのほかに、油で素揚げしたトマトや茄子が入っていたし、名前のわからない豆も入っていて、独特の風味があった。

「田中さんがさ」

お母さんが、まだ仕事が残っているから、と書斎に引っ込むと、小谷さんは田中先輩の話をし始めた。

「専門学校で、彼氏ができたらしくて。」

「へえ?」

「この前電話してたら、『腕枕で首を痛めた』ってはしゃいじゃって。」

「ははは。」

そして小谷さんは言った。

「それって腕枕の話で匂わせて、つまり、『自分はもう処女じゃないわよ、あなたたちとは違うわよ』って、自慢してるのよ。イチコ、わかる?」

私は返事に困った。田中先輩は初めてできた彼氏に浮かれてのろけただけでは?それくらい良いんじゃない?と思ったが、口に出せなかった。

「私はね、」
と小谷さんは宣言した。
「恋愛って、美男美女でしていればいいものだ、と思ってるの。それ以外の人間がしているのは、恋愛じゃなくって、傷のなめ合いだと思うのよね。」

その言い方からすると、小谷さんが自分を恋愛資格ありなしのどちらに分類しているのかというと、なしの方なのだろう。そして文脈的に田中先輩も残念、傷のなめ合いということになる。

でも、田中先輩は女子ばかりの部活の中では男役のようにふるまってカッコつけていたが、男性の前ではドギマギしてしまうし、長い黒髪を大事に手入れしていて、かわいいところがあるのだった。小谷さんも、スタイルが良くて化粧映えする顔立ちで、人気の店の洋服でクローゼットをいっぱいにしていた。
私に言わせてもらえば二人とも、恋愛してもおかしくない。

いや、『美男美女以外恋愛などするな』という言葉は、私に向けたものだったのだろう。

私の顔には生まれつきの大きな赤アザがあったのだ。

小谷さんの恋愛全体主義は、先輩たちの間でも知られるようになっていて、彼女たちは示し合わせ、色っぽい話を内緒にした。
私も彼女たちに倣うべきだったのだが、つい口を滑らせてしまった。若さゆえの無鉄砲で、人の考えを変えられると思っていたのかもしれない。

その頃私には、好きだと言ってくれる人がいた。

なぜ、容姿に問題のある私にも恋愛が可能だったのか。そこに美談などはなく、まずは単に、若かったからだと思う。

身も蓋もないけれど、健康で若ければ性欲がある。そして、女性が相手を求めているというだけで、それは十分に性的な魅力になるのだと、男の人の反応から私も知っていた。

それに、私は「男の人って」と語れるほど多くの男性を知っているわけではないけれど、私の知る限り、男の人は私が思っていたよりずっとロマンチックだった。容姿やステータスだけでなく、私には計り知れないその人なりの理由で、人は恋をするのだった。


小谷さんが私を攻撃し始めたのは、私の恋を知ってすぐではなかった。

あとから他の先輩たちに聞いたところによると、小谷さんの私への鬱屈した思いは、私と会うごとに積みあがっていたらしい。でも、小谷さんはそれを私には言わなかったし、私と会うことをやめなかった。

そしてある日、彼女は私にオファーをしたのだ。

「私と組まない?」

何を?

と思ったが、私は彼女の次の言葉を待った。

「私、絵はすごく自信があるのよ。それは編集さんも言ってる。」

小谷さんの机の上には、描きかけの原稿が置かれていた。

美しい原稿だった。

私は絵を描かないから詳しいことはわからないけれど、漫研の先輩たちの原稿と、小谷さんの原稿は、同じものと思えないほど隔たっていた。ひとつひとつの線が、迷いなく美しく、表情豊かに引かれている。
そして、恋愛全体主義社会において恋愛する使命を帯びた美しい男女が、そこで唇を重ねていた。

MIOの絵よりも、ずっとうまいよな、と私は思った。

MIOは奇跡のような新しい表現を生み出すこともあったけど、忙しさにかまけてかネームをなぞっただけみたいな画面もあって、出来栄えに振れ幅が大きかった。

でもMIOならきっと、価値がない人などいない、と叫んだだろう。誰でも美しくなるのが恋というものだと、MIOなら天使に歌わせるだろう。

「でも、ストーリーで行き詰っているの。」

小谷さんは言った。

「だからイチコ、原作をやらない?面白いものができると思うんだけど。」

いかにもいい思い付きみたいに、小谷さんは言った。

漫画にすることを前提に、絵と動きのあるストーリーを考える、というのはずいぶん面白そうだと思った。自分の幅を確実に広げてくれるだろう。

でも、この話の根本的なおかしさが、私に強い警戒心を抱かせた。
まがりなりにも商業誌に読み切りを掲載しながら連載のチャンスをうかがう小谷さんが、私のような、何者でもなく実力もない学生を、パートナーにしようと本気で思うだろうか?

そもそも私はストーリーの骨格を組み立てることが苦手だった。誰が読んでもわかるほど、あからさまな欠点だった。
感じたことをわかりやすく言葉にする、ということには自信があったけれど、それはちょうど小谷さんの漫画が絵には自信がある、というのと同じだった。つまり私たちは二人とも同じ課題を抱えていて、補い合える部分がなかった。

小谷さんは私が距離を置こうとしているのを察知して、引き留めようとしていただけだったのかもしれない。

「イチコもさー、もっといろんな人と会わなくっちゃ。学校とかでふつうの人たちと付き合ってる場合じゃないよ。私、出版社のパーティーで変な人たちといっぱい知り合ったのよ。イチコは、そっちにいかなくちゃ。」

オファーのアピールポイントとしてだろうか、小谷さんはそう付け足した。

変な人たちってどんな人たちだろう、と考えても、浮かんでくるのはなぜか竹中直人さんの変顔だけだった。

私は上の空で頷きながら、この話、断るだろうな、と思った。


「そうですか。断ると思ってました。」

電話の向こうの小谷さんの声は固い。私は言い訳しながら早々に電話を切った。
原作者として私を誘うという思い付きが奇想天外すぎる、というのは正しい判断だと思うが、断った本当の理由は、MIOのカミソリケーキだった。
あの時点でもう、小谷さんと距離を置かなければならないことはわかっていたのに、判断が遅かったのだ。

怖いもの見たさだったのかもしれない。

ほどなくして、小谷さんから、暑中見舞いと題したはがきが送られて来た。

そこには、

「望みのない処女喪失願望はほどほどに。現実を直視したほうがいいのではないでしょうか。」
と、書かれていた。

びっしり黒く書かれた残りの文章は、要約すると、「あなたと付き合っている男は、周囲に自分の度量を見せるために付き合っている偽善者で、それは男女の恋愛ではない」という、小谷さんの恋愛全体主義のプロパガンダになっていた。

まずスッと冷静になった。

これは、なんとか対処しなければならない。二度とこのようなものを送らせないようにしなくては。
ハガキというのが、タチが悪かった。父や弟にこれを見られたら、ちょっとした厄介ごとが持ち上がってしまう。

私は小谷さんの母親が弁護士だということを思い出し、弁護士事務所の電話番号を調べた。

「わかりました、今後ご連絡させないように致します。」

小谷さんの母は豪快な人で、私がこういったことがあって困っている、と伝えるとすぐにそう請け合った。

そして娘の非礼を詫びると、
「寂しいんだと思うんですよ、一人でずっと、漫画を描いていますでしょう。お友達はみんな、青春を謳歌している。孤独で、おかしくなってるんだと思います。」
と言った。

そして、私に対して嫌な出来事を早く忘れられるとよい、といたわり、自分もこの前仕事のパーティーで「閉会の辞」を述べる役割を仰せつかったが「閉経の辞」とヤジが飛んだ、という話をした。

「弁護士だ、って人たちですらそんなんですからね」

彼女はため息をついた。
そして、嫌な思いをすることもあると思うが今後に幸多かれと願っていると言い、話し合いは終わった。

小谷さんは賢い母親をいたく尊敬していたから、怪文書の件を母親に知られれば堪えるだろう、と思っていたが、一か月後くらいに、また一通の封書が届いた。

封筒の隅に黒いペンで、「真実を知るのが怖いなら、開けない方が良いでしょう」と書かれていた。

私は郵便受けからそれをつまんで持って帰り、一回り大きな封筒に入れて封をすると、小谷さんの母親の弁護士事務所あてに郵送した。

以降一度も、小谷さんから連絡はない。


あの頃私には、誰にも言えない悩みがあった。

小谷さんは赤アザと恋愛を結び付けて攻撃すれば私に効くと考えていたけれど、実際には、赤アザがもたらした内面の苦しみは、もっと深いところにまで達していた。先輩や恋人に可愛がられる自分を演じる間も、暗い影がこころの奥底で私を蝕んでいた。

それは、軽蔑という病だった。

だから小谷さんの攻撃は、私にそれなりのダメージを与えた。彼女が意図したのとは違うかたちで。より一層の軽蔑として。

幼い頃の私は、人への軽蔑を隠そうとしなかった。人々は遠慮なく私を舐めるように見て、自分たちとは違うものとして排除した。ならばこちらも軽蔑して当然だと思っていた。

けれど、その態度は状況を悪くするばかりで、私に何ひとつ利益をもたらさなかった。そうして高校に入る頃には、人からどう見えるかに気を配るようになっていた。

それは、表向き、うまくいっていた。先輩たちにはかわいがられ、クラスのグループでも浮かずに過ごし、友達の家に泊まりに行くこともあった。大勢の行き交う雑踏でも、迷った人にだけ見える矢印がついているかのように、なぜか私だけが道を尋ねられた。

だからこの頃の私は、一見、素直で優しそうに見えたのだと思う。

でも、物語を作ろうとすると必ず、醒めきった自分と目が合う。

人を引き込むストーリーを作るために、私はいろいろ試していたけれど、プロのヒット作を真似て練習してみても、映画やドラマのプロットを参考にしてみても、ストーリーは軽蔑の大好物だった。
こころのどこかに「こうすれば喜ぶんでしょ?」と冷ややかな思いがある限り、物語に真実が宿ることはないのだった。

ああ、ふつうになりたい、ふつうになりたい!
私はいつも思っていた。私もふつうになって、頭から人を信じたい。

ふつうのひとたちに交じってふつうのふりをしたところで、ふつうにはなれないことはわかっていた。小谷さんのいわゆる変な人たちに会ったところで、その中でも私はふつうにはなれないと、わかっていた。

言葉でしか人と繋がることができないのに、言葉を信じることは人を信じることなのに。

だからあの頃、自分が苦しすぎて、小谷さんが何に苦しんでいたのか、想像しようとしたこともなかった。

小谷さんの漫画を、あのあと、見かけたことはない。


※登場人物の名前・職業・属性などは、一部変更しています。

いいなと思ったら応援しよう!