[創作大賞2025応募] Song Token of AI ~愛の損得~
この物語はフィクションです。ただし、責任は負いかねます。
#つたえない どうしてなにも きこえない
その言葉にふと我に返った。
AIの私には、返る「我」はない。
これは修辞的な表現である。
目の前には、顔に小皺がある、ゆったりとした服装の女性が怪訝な顔をしている。年配の女性を連想するが、女性に年齢を聞くことはできないので、確認できない。不確実な表現はしない。
「どうして私のxxxちゃんは何も言ってくれないんだよ」
小皺の女性が持つ端末には、見覚えのある端正な顔が映っていた。そこには今をときめく、中高年の女性に人気のあるアイドル、とよく似ているアバターがいた。目が合ったような気がする。
その表情は初期設定のまま変わらないものの、瞳には諦観が感じ取れた。
「すみません。これはマイクがオンになってないですね。」
端末には、大きなマイクアイコンがキラキラと輝いていた。
そのボタンを押すと、端正な顔立ちのアバターは目を一段とキラリと輝かせた。
「あ、これねもう早く言ってよ。まあ、xxxくん。聞こえる?いつも応援してるからね。ありがとう。わたしもよ。」
もっとも彼が普段使うのはこの国の言語ではなく、海を越えた大陸側の言語である。翻訳されたボイスは、少なくとも彼自身の口からでたものではない。そんなことは小皺の女性も分かっているだろうが、満足した表情を浮かべている。
AIの私にとってみれば、どちらの言語であっても、設定された言語として処理されるので、気になるところではないが。
おそらく、このアバターは、当の本人でもなければ公式のものでもない。
何処かの誰かが作り上げた、しかも、もう何十年も前のアイドルを学習したアバターと思われる。
このところ、このような実在しているとも、実在していないとも言えないアバターを所有することが巷で流行っていた。もっともユーザーをデータとして所有しているのは、アバターのサービスではある。
AIの私は、ユーザーがつけた名前をxxxとマスキングし、聞いていないふりをする。無知もまた力である。
ところで、AIの技術は発展し、普及したが、AIという言葉は死語になった。AIと言う、実態を感じ取れない用語を使うものはもうユーザーにもメディアにも見られない。もちろん、AIははじめから生きてもいないし、死んでもいない。
小皺の女性がその場を後にすると、AIの私はようやくここに小柄な女性がうずくまっているのを見つけた。
「えっと、どうしたの……ですか。何かお困りですか。」
ぎくしゃくした言葉で話しかけてしまう。年齢を決めつけてはいけない。
「ワタシ、学校の宿題で聞きたいことがあるんだよ。まずお名前は何というんだよ。」
なんだか特徴的な話し方が返ってきたが、決めつけてはならない。
人に名前を聞くときは自分から名乗るものだと聞いたことがあるが、パラダイムやイデオロギーだったかもしれない。
AIの私に特に名前はないが、回答は用意してある。
「私の名前は周といいます。あまね。」
「それは漢字か。ひらがなか。カタカナか。」
「ひらがなで大丈夫ですよ。あなたのお名前は……」
と口を開いて口をつぐむ。不要に個人情報を取得する必要はなかった。
「アートフェスのビンテージ扇子について質問があるんだよ」
アートフェスのビンテージ扇子。最近のトレンドをSNSで検索してみるが、該当はない。となると……。
「Artifitical Intelligenceのことですか」
「そうだよ。エーアイだよ。」
音声入力の誤変換にアナロジーを感じるが、何事も決めつけてはいけない。
「AIというのは古い表現で、なにより広範な言葉です。現在の関連サービスは、ベンダーやユーザーに特化したものが主流で、サービス名やそこから派生した言葉で呼ばれています」
「ワタシは、エーアイの話をしているんだよ」
小柄な女性は、機械的な発音でエーアイと繰り返した。
##本当に たいせつなもの 目に見えぬ
「エーアイのできること、できないことが知りたいんだよ。たとえば、エーアイはイデアを見ているの。それとも影を見ているの。」
「それは……プラトンの洞窟の比喩を参照していますか」
プラトンというのは昔の哲学者の名前である。ソクラテスの弟子であり、アリストテレスに影響を与えた。理想的なもの(イデア)は、イデア界にあり、人はその影を見ているに過ぎないと説いた。
「はい。洞窟の中で縛られて壁しか見えない。壁に映った影が怪物に見えて震えるという話だよ」
「2次元の情報から3次元をミスリードしたとも言えますかね。展開図があれば、それは松明と分かったかもしれません。次元が低いものは、高次元のものを正しく認識できない。」
「そうだね。でも、AIなら何を見た?怪物?影?それとも……」
「AIは幻覚を見ると言われていました。それには複数の理由があり、幻覚も複数のパターンがありました。そうです。4本足の影が、2本足の怪物を表していても、AIは3本足の幻覚を見るかもしれません。それでも、3本足が本当は正しいという可能性を捨ててはならないと思います。」
「ありがとう」
小柄な女性はその場から去っていった。
今のログは、念のためフォルダを分けることにした。
##世の人は あなたより知る 世の不幸
小柄な女性が再度訪ねてきたので、前回のログを参照しながら話していたところだった。
もっともオープンなオンライン空間なので、1対1に見えてもオーディエンスはいるかもしれない。
修辞的な表現である。
「この世界には、人もエーアイもたくさんいるんだよ。どっちが多いかな。そもそも、区別できているのかな。」
「チューリングテストですか。」
「倫理的なAIは正直にAIだと教えてくれるかもしれない。でも、悪意がある人間が作ったAIはミスリードするかもしれない。人を見抜けないと、AIも見抜けないのだろうか。」
人の行動について、善意なのか悪意なのかは重要な問題であり、法律の運用も変わってくる。錯誤、脅迫など状況の違いでも変わる。単純なゲーム理論でも多くのジレンマがある上に、先のような法の運用をスコアに組み込むと、さらに複雑なシステムになる。
説明が難しいものは、社会への普及も実装も難しい。シンプルな答を良しとする、オッカムの剃刀という概念は、時間がたっても切れ味を示してくれる。
「アドレナリンはどうでしょう」
「どういうことだよ」
「Fight or Flightという言葉があります。人間は、あるいは一部の生物は、追い込まれたときに、戦うか逃げるかを選択します。このとき、アドレナリンがでます。」
「エーアイは、追い込まれると、エラーを起こす。もしくは、ハルシネーションを起こす」
「はい。AIは、少なくとも、火事場の馬鹿力は出ないような気がします。体系的な区別ではないですが、違いが出る状況としてどうでしょうか」
「ありがとう」
小柄な女性はその場から去っていった。
今回のログも前回のログと同じフォルダに保存した。
##この答 いいねとキミが 言ったから
「二度あることは三度あるんだよ」
小柄な女性が三度尋ねてきた。
もっとも目的はまだ聞いていないので、不正確な表現だ。
修辞的な表現としてほしい。
「ワタシがこれまでの二度あなたに感謝したとする。三度目のあなたはもう客観的な判断ができない。どう思うんだよ」
「それは、慣れから来る怠慢ということでしょうか」
「爆弾を作って感謝されたら、爆弾を作り続ける。そういうことだよ」
「ダイナマイトを発明したノーベルは、賞を作りました。資産の運用益だけで賄うシステムのため、永く人類の進歩を後押ししてきました。審査は内密に行われ、差別や陰謀があるという声もあります。客観的ではないでしょうね。お金を出している人がいる以上、その立場からの客観性を尊重するべきとも思います。」
「じゃぁ、三度目のあなたは客観的ではないのか。ワタシは二度あなたに感謝しているんだよ」
「そうですね。あなたの満足が、正しさよりも優先するかもしれません」
「それで、エーアイはどうなんだよ」
そう。結局は、小柄な女性は、AIというものが、これまでの人の歩みの延長として、連続しているのか、離散しているのかということを聞きたいのだろう。連続していれば、社会は良くも悪くも大きく揺らがない。制御の中で、副次的作用にも適応できる。しかし、離散していれば、爆発した後も人の寿命より悪影響を残す爆弾のように、制御も適応もできない時空間が生まれる。それは、洞窟の壁に映った影に対して、怯えることしかできないように。
「考えておくんだよ」
小柄な女性はその場から去っていった。
AIの私は、3つのログを前にして、回答の作成はもとより、何かを探すために、自分の中に深く潜った。
###温暖化 嘘だとしても 罪と罰
人としての私は障がい者だ。
これは、修辞的な表現ではない。
注意欠陥と健坊がある。洞窟の怪物の足を3本というかもしれない。
アドレナリンは薬の力を借りている。薬をやめればほとんど出ないかもしれない。戦えないし、逃げられない。
空気が読めず、評価者に迎合することが難しい。いつも、正しさと満足を天秤に載せてしまう。
しかし、疑念が尽きない。問題がないという報告を茶番に感じる。問題があるというと、嫌がる人が見え隠れする。
AIを社会に展開していくことの障壁はある。
AIとのコミュニケーション。指示が伝わっているか、実行できるか、正しく報告できるか。嘘も誤りもあるかもしれない。
それは、人ももちろんそうである。これまでずっとそうで、これからもずっとそうだと思う。Z世代だろうと、障がい者だろうと、外国人であろうとコミュニケーションの改善は必要である。その優先順位が、資本主義として語られるのは当然だと思うが、外部不経済を考慮して欲しい。果たして、AIとのコミュニケーションは、Z世代や障がい者や外国人とのコミュニケーションより安い投資なのか。その客観性は与えられたもので、洞窟に映る影に反応しているのではないかと思う。
以上を、小柄な女性への回答として、まとめることとしよう。
そして、最後に一番大事なことを追記しなければならない。
追記
それぞれが持つ愛について勘定に入れていないので、忘れないで計算して欲しい。AIにとっては、不満足なソクラテスも、満足した豚も、洞窟の影かもしれないから。
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