ボーイフレンド💛~友情から恋へ発展していく物語~(第36話)
(第36話)
最終話 ~エンディング~
1996年 6月。
リョウちゃんと別れてから、もう1年以上経っていた。
漸く 気持ちの整理がついてきた頃、看護婦のアユミから、2泊3日の香港旅行のチケットをもらった。
アユミは、私が此処の病院で働き始めて、初めて親しくなった同僚。
リョウちゃんは、今も、薬品会社に勤務しているので、うちの病院にも周ってくる。
私は、あの日以来、彼を避けるようになっていた。
気持ちを切り替えるには「良い機会」だって思い、アユミの誘いに乗った。
これでリョウちゃんの事はもう、忘れよう。
そう思っていたのに‥‥‥。
「運命のいたずら」なのか、見えない糸に引き寄せられるように、また再び出会うことになった。
私たちは、空港のターミナルへほぼ同時に着いた。
「おぅ、久しぶり・・・」
私の姿を確認すると、先にリョウちゃんから声をかけた。
二週間前・・────。
「橘さん。急で申し訳ないんだけど‥‥」
アユミが、私の側へ駆け寄ってきて、謝罪のポーズをとった。
話を聞くと、急な用事が出来て、行けなくなってしまったらしい。
今からキャンセルとなると、「キャンセル料」が発生するって言うし。
仕方がない。
旅行は諦めるか。
と、そう思っていた時、アユミが機転を利かせたのか、笑顔で言った。
「香港のチケットは、”流薬”の彼に、渡しておいたから」
そっか・・・。
アユミは、私とリョウちゃんが別れた事 知らないんだ‥‥。
私とリョウちゃんが付き合っていることは、周りの看護婦と受付事務の人には知れ渡っていた。
でも、「別れた」ことは、誰にも言ってなかったから、まだ”関係”が続いていると思っているらしかった。
搭乗手続きをする為、私たちはまず、チェックインカウンターで「搭乗手続き」をした。
リョウちゃんは、飛行機の中でずっと目を瞑ってて、一言も喋らなくなった。
そして、微妙な空気のまま、香港のホテルにチェックインした。
この時、私は重要な事実に気付いてしまった。
えっ?
もしかして、「一部屋」?
そういえば、アユミに部屋の情報を聞いてなかった。
ホテルマンに、もう「一部屋」空いてないか訊いてみたけど、何処も満室らしい。
すると、リョウちゃんが・・・。
「そっち、寝てもいいよ。オレは、何処でも寝れるから」
そう言うと、部屋を出て行った。
香港旅行2日目。
その日は、独りで観光した。
夜になって、リョウちゃんが部屋に戻ってきた。
どうやら、自分の荷物を取りにきたらしい。
「へっきしょい!」
突然、リョウちゃんがひと際大きなクシャミをした。
「じゃぁ、今夜も他所で・・・」
そう言って、また部屋を出て行こうとする。
待って!
今 出て行ったら、風邪ひいちゃう。
私は、咄嗟に彼の背中にしがみ付き、「ごめんなさい」って、必死に引き止めた。
「お願い!今夜は、此処に泊まって」
私が言うと、リョウちゃんは「いいの?」って、訊いた。
今まで、部屋に「二人きり」っていうのは良くあったけど、「一部屋」で一緒に過ごすのは初めての経験だった。
隣りで、リョウちゃんが寝てると想像したら、なかなか眠れなかった。
「リョウちゃん。まだ起きてる?」
私は、背中越しに訊いた。
すると、彼もまだ起きていたらしく、「あぁ」って小さく返事をした。
「・・隣りに、寝てもいいかな?」
私は、勇気を振り絞って訊いてみた。
「・・いいよ」
リョウちゃんは、背中を向けたまま応えた。
私は、そっとリョウちゃんのベッドに潜り込むと、後ろから彼を抱き締めた。
「リョウちゃん。まだ、怒ってる?」
リョウちゃんは、寝返りを打って私の方へ向き合うと、「怒ってないよ」って言った。
私は、その言葉を聴いてもう一度、彼を抱きしめた。
「リョウちゃん。いっぱいウソ吐いてごめん・・・」
「オレの方こそ、お前が傷つくような事を言って、ごめん」
「リョウちゃん‥‥。大好きだよ」
普段は、照れくさくて言えない事も、異国では自分の気持ちに素直になれた。
そして、私たちはその日の夜、仲直りした。
目が覚めたら、朝になっていた。
いつの間にか、寝ちゃったんだ。
私は、いつもの自分と違う格好を見て、昨夜の事を思い出した。
そういえば私、昨日リョウちゃんと‥‥。
ど、どうしよう。
リョウちゃんは、もう既に部屋からいなくなってて、代わりに「メモ」が置かれていた。
”おはよう。1階のロビーで待ってる”
私は、急いで身支度を済ませると、いつもより丁寧にお化粧をした。
香港旅行3日目。
下の階へ降りると、リョウちゃんがもう既に「チェックアウト」を済ませていた。
私の姿を見るなり、明らかに彼の表情が変わった。照れてるの?
「じ じゃぁ、行こうか」
「うん」
リョウちゃんは、少し緊張気味に歩き出す。
帰りの便までまだ時間があったから、リョウちゃんと2人で観光した。
「帰りは、・・船で帰ろうか」
リョウちゃんが突然、可笑しな事を言ったので、私は思わず「ダメ! 何日かかると思ってんの?」って、言ったけど。
彼は、思いつきで言ったジョークではなかったらしく、遂に白状した。
「実は・・・ 飛行機、苦手でさ・・・」
「えっ 何それ~?」
初めて聞いた。
でも、リョウちゃんが話してくれたお陰で、漸く事情が解った。
飛行機の中で、急に黙ってしまった理由も、今思うと何となく察しがつく。
其れで、何も喋らなかったのね。
行きの便で、急に黙っちゃったから、てっきり「怒ってる」んだって思ってた。
「言ってくれればいいのに」
私がそう言うと、リョウちゃんは急に頬を赤くして「格好悪いだろ」って言った。
知らなかった。
リョウちゃんにも、苦手なモノがあったんだぁ。
フフッ(笑 可愛い。
私は、心の中でこっそり笑った。
「帰りは、サオリが窓側へ座るから」
そう言って、リョウちゃんの座席を窓側から通路側へ譲ってあげた。
「着いたら起こしてくれ。オレはもう、寝るから」
リョウちゃんは、飛行機に乗りこむと、すぐに寝てしまった。
その時、スチュワーデスさんが、私たちの座席まで周って来て、リョウちゃんに毛布を被せてくれた。
「ありがとうございます」
私は、リョウちゃんの代わりに、スチュワーデスさんにお礼を言った。
リョウちゃんが不安にならないように、飛行機の中でずっと手を繋いでいた。そして、夢を見た。
夢の内容は忘れちゃったけど、懐かしくて幸せな夢だった。
飛行機から降りたときも、リョウちゃんはまだ少し寝ぼけてて、
「此処どこ?天国?」
って、言ってた。
「何、言ってんの。此処は、おきなわ!!」
私は、声を大にして応えた。
そう。
私たちは帰ってきたんだ。
此処 沖縄へ。
たった3日間、離れていただけなのに、懐かしさを感じた。
**********
1996年 現在。
「子供が出来た」って分かってから、私たちはファミリー向けの団地へ引っ越した。
此処で、私とリョウちゃんと将来生まれる子供とそして、リョウちゃんのお父さんと4人で暮らすことになった。
まさか、あの時 新しい命が宿っていたなんて、想像もしていなかった。
「・・・ってことは、その子は ”香港ベイビー”? 如何にも、彼らしいわね」
香港で出来た子だから、ユウコがそのように言った。
「ワタシが、あの時 言わなかったら、リョウくんと結婚してなかったんだからね」
「はい。感謝してます」
私は、素直にお姉ちゃんにあの時のお礼を言った。
1ヶ月前・・────。
香港旅行から帰って来てから、体の不調が続いていた。
最初、風邪をひいたんだと思い、内科を受診したけど、どうやら風邪ではないらしい。
お姉ちゃんと一緒に「産婦人科」へ行ってみた。そしたら・・────。
「おめでとうございます。妊娠2カ月ですね」
って、病院の先生に言われた。
突然の出来事にどうしたらいいのか分からず、お姉ちゃんに相談した。
お腹の中の子は、リョウちゃんの子だって察知したらしいお姉ちゃんは、
「リョウくんには話したの?」って訊いてきた。
「ううん。言えないよ」
私は、短く返事した。すると、お姉ちゃんが、
「あんた達、寄りを戻したんじゃなかったの?」
って、驚いたように言った。
「うん。仲直りはしたんだけどね」
私は、そう応えたんだけど・・・。
香港旅行から帰って来てから、リョウちゃんとは一度も会っていない。
「それで、”エッチ”だけしてそのまま帰って来ちゃったの?」
お姉ちゃんは、恥ずかしい言葉も平気で言えちゃうタイプだ。
その後、お姉ちゃんは私をリョウちゃんの家に連れて行って・・・。
「大事な話だから、ちゃんと聴いてあげて」
って、リョウちゃんに言った。
私は不安だから「お姉ちゃんも一緒に居て」って頼んだんだけど。
「こういうことは、二人で話さないとダメよ!」
そう言うと、そのまま帰って行った。
今から、リョウちゃんに「妊娠した」ことを言わなきゃいけないことを考えると緊張した。
でも、言わなきゃいけないんだよね。
私は、勇気を振り絞って彼に言った。
「・・出来たの」
「えっ 何が?」
「赤ちゃん」
「今、何て?」
リョウちゃんは、ピンとこなかったらしく、一瞬 静止した。
「だから・・・ この前、香港に行ったでしょ?あの時に出来たみたいなの。どうしたらいい?」
私が、リョウちゃんの顔色を探るように、上目遣いで彼の反応を見た。
すると・・・。
「とりあえず、1回 落ち着こう」
リョウちゃんは、一旦 台所へ行くと、お茶を次いで戻ってきた。
明らかに動揺していた。
「こういうことは、落ち着いてから、よく考えないと・・・」
そう言って、「ゴクン!」ってお茶を飲み干す。
「あっちぃ!」
「落ち着いてないのは、あなたでしょ?」
私は、舌を火傷したリョウちゃんに言った。
数分後・・────。
「ょ、よしっ! 結婚しよう」
「えっ?」
突然、リョウちゃんが「プロポーズ」した。
「後は、”結婚式”か。式場も予約しないといけないよなぁ」
私が応える前に、リョウちゃんは自分ひとりで勝手に決め出した。
まさか、こんなに早く進むなんて、思ってなかった。
こうして、私たちは慌ただしく「結婚式」の日取りを決めることになった。
周りの人たちは、私たちが突然「できちゃった婚」の報告をしたので、最初ものすごく驚いていたけど、「おめでとう」って祝福してくれた。
1996年 現在。
私たち3人が話し込んでいる時、玄関のドアが開く音がした。
「旦那さんが帰ってきたみたいよ」
ユウコが、物音がした方を見て言った。
リョウちゃんは、お酒を飲んできたらしく、かなり酔っぱらっていた。
「ん? まだ、起きてたのか?」
私に気付くと、目が座っている状態で私を見た。
「じゃ アタシらは、帰るわね」
「うん。じゃね~ ありがとう」
ユウコとお姉ちゃんが帰って行った。
「トオルくんと、”仲直り” 出来たんだね。良かった」
私がそう言った時、リョウちゃんが玄関先で私を抱きかかえると、そのまま寝室へと向かう。
「ちょっと。リョウちゃん!何処 行くの?」
そして、私をベッドの上に降ろすと、そのまま寝てしまった。
「まるで、大きな子供みたい」
私は、リョウちゃんの寝顔を見て、ふと思った。
君は あの日のことを覚えていますか?
初めて出会ったあの日───。
私も君も まだ小さな子供だった。
2度目の出会いは 中学生のとき。
君は 転入生として私たちの教室に入ってきた。
それはまさに 偶然の再会───。
そして 3度目は成人式の日。
もうすぐ 二十歳になるころだった。
一生のうちに、同じ人間に 3度出会ったら、奇跡に近いのかもしれないけど。
私たちは、そうやって・・・。
何度も、何度も、出会いと別れを繰り返してきたよね。
これって 偶然なの?
それとも 運命なの?
・・・完結。
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