ボーイフレンド💛~友情から恋へ発展していく物語~(第35話)
(第35話)
第5章 ~天国から地獄~
1995年 1月。
突然、トオルくんから電話が掛かってきた。
まず、最初に電話を受けたのは、私のお姉ちゃんだった。
「ちょっと待っててくださいね。今、サオリに代わりますね」
「お姉ちゃん。電話、誰?」
私は、電話の相手を問いかけた。
「知らない人。男の子からよ」
男の子?
誰だろう・・・?
「もしもし。お電話、代わりました」
電話口から聴こえてきたのは、小さく低い声。
「サオリちゃん?」
えっ?
トオルくん?
気のせいか、元気がないような気がする。
「ごめん。今の、お姉さんだったんだ。サオリちゃんと声が似てたから・・・」
どうやらトオルくんは、私とお姉ちゃんの声を勘違いしたらしい。
「トオルくん。どうしたの?」
私は、思わず訊いてしまった。
「もう一度だけ、会って欲しいんだ」
トオルくんがそう言った時、すぐに断ろうと思っていた。
でも、この時のトオルくんは、何だか弱々しくて、放っておけないって思った。
「勝手な事を言ってるのは分かってる。会うのは、これで”最後”にするから。もう、綺麗さっぱり、君の事は忘れるから」
そう言われて、断れなくなってしまった。
「本当に、これで最後?」
「ああ。ホントに最後だよ。もう、君に迷惑かけたりしないから」
ホントに、「最後」だよね?
私は、トオルくんと会う約束をしてしまった。
日曜日。
あ そうだ。
トオルくんからもらったカチューシャ。
着けていかないと悪いかな?
でも、今日ぐらいはいいよね?
どうせ、今日で会うの「最後」なんだから。
私は、そのカチューシャを着けて、トオルくんに会いに行った。
「今日は、来てくれてありがとう」
トオルくんは、私に会うと、まずお礼を言った。
「それ。着けてくれたんだ」
彼は、私の頭部の「カチューシャ」にすぐに気付いて、”それ“に手を触れる。
「リョウが、よく許してくれたね」
「えっ?」
トオルくんは、私がリョウちゃんの許可をとって、此処へ来ていると思っていた。
でも、私が自分の意思でトオルくんに会ったことを伝えると、「そっか。なら、出来るだけ早く帰らないとね」って、言った。
やがて、デートの時間が終わりに近づいて来た時、トオルくんが言った。
「最後に、一つだけ頼みがあるんだ」
「“頼み“って、何?」
「最後」だと言われて「私に出来る事だったら」って、つい言ってしまったけど。
次にトオルくんが言った一言は、思ってもみなかった言葉だった。
「キスして欲しいんだ」
「えっ?」
私はそれを聴いて、下を向いてしまった。
トオルくんは、私の反応に気付かなかったのか、続けて言った。
「リョウの記憶がまだ戻ってない時、教室で”キス”していただろ? 実は ・・・見ちゃったんだ。オレ・・・。あの時みたいに、やって欲しいんだ」
高校2年の時、リョウちゃんと初めてのキスをした。
でもあの時は、「していた」というより「された」って言った方が、正解なんだけど‥‥。
「なぁ。頼むよ」
トオルくんが私の肩に手を置いた時、覚悟を決めた。
「これで最後」って言うなら、何だってやる。
でも私は、顔を上げることが出来なかった。
トオルくんは、私の前髪を振り払うと、額に「チュッ」って軽くキスをした。
「ありがとう。じゃ、ホントにもうこれで、”バイバイ” ・・・だな」
この日を境に、トオルくんの熱烈なアプローチはなくなった。
これからは、リョウちゃんと一緒に、新しい思い出を作っていこう。
そう思っていた・・──────。
トオルくんと別れて、家に着くころにはもうすっかり暗くなっていた。
「早く帰ろう」って思ってたけど、遅くなっちゃった。
その時、人影が・・・・・・?
えっ?
家の前に誰かいる?
「何処、行ってたんだ?」
リョウちゃんが、腕組みをして門の前に立っていた。
私は、「友達に会ってきた」って、咄嗟にウソを吐いてしまった。
でも、もうとっくに、リョウちゃんに私のウソを見抜かれていた。
「昼間、電話したら、ナギ姉が『男の子と出かけたよ』って言うから、『じゃぁ、帰ってくるまで待たせてもらう』って返事して、ずっと家の前で待ってたんだ」
えっ?
ずっと、外で待ってたの?
すると、リョウちゃんが私を凄い顔で睨み付けて。
「まさか、トオルに会いに行ったんじゃないだろうな?」
って、言った。
そして、私のカチューシャに気付いたリョウちゃんが、「やっぱり」って言うと。
「此れ、トオルからもらった”カチューシャ”だよな?」
って、私を責めた。
「明日っ!」
リョウちゃんは、声を大にすると。
「話がある」
それだけ言うと、帰って行った。
お姉ちゃんに、その事を話すと「もしかして、プロポーズじゃない?」
って、言ってたけど、違うような気がする。
何だか嫌な予感がした。
もの凄く怒っていたし。
その日私は、眠れない夜を過ごした。
翌日・・───。
不安な気持ちのまま、待ち合わせ場所の「ファミレス」へ向かった。
どうか、「嫌な予感」が的中しませんように。
私は、祈る気持ちで、リョウちゃんが現れるのを待った。
やがて、5分ほど遅れて彼が店に入って来た。
そして、私の方へ真っ直ぐ歩いて来ると、何も言わずに腰掛けた。
「何飲む?」
私は、リョウちゃんが話しかける前に、彼にメニューを見せてドリンクを選ばせた。
その時は、不安を消し去るように、いつも以上にお喋りになっていた。
それを遮るかのように、彼が私に言った。
「昨日も言った通り、話があるんだ」
リョウちゃんが、いよいよ本題に入り出した。
その先は、多分・・・良くない話?
私は、直感で感じ取っていた。
「正直に応えてくれ。クリスマスの日に、トオルに会ってただろ?」
リョウちゃんに追求された時、私はトオルくんに会っていた事を全て話した。
「何で、直ぐに言わなかった?」
「だ だって・・・。また、喧嘩になっちゃうって思ったんだもん」
私は、不安な気持ちを彼に打ち明けた。
すると、勝手に勘違いしてしまった彼が。
「オレにコソコソ隠れて、こっそり会ってたって訳か・・・」
「っ!違っ・・・。そういう意味じゃなくて・・・」
「ごめん。信用出来ない」
誤解が解けないまま、重い空気が流れていく。
「トオルくんが、『会うのはこれで最後』だって言うから」
私 何、言ってんだろ・・
焦って、言わなくていい事まで喋ってしまう。
「分かった。もういい」
リョウちゃんが、ポケットベルを私の目の前に差し出した。
「返す」
「えっ?」
彼はもう、私の事を信じてくれなかった。
「オレ達、別れよう」
リョウちゃんが店を出て行った後、テーブルに置かれた2つのポケベルを眺めながら、私はしばらく呆然としていた。
店内からは、私たちの別れを予感していたかのように、「ポケベルが鳴らなくて」のBGMが流れていた。
まるで、天国から地獄へ突き落されたような、そんな気分だった。
**********
「どうだった?」
私のお姉ちゃんが、期待と不安が入り混じった表情で、私に訊いて来た。
家に辿り着くまで、涙も出なかったのに・・・。
お姉ちゃんの顔を見たら、しゃくり上げるように号泣してしまった。
「お姉ちゃん・・・。リョウちゃんと、別れちゃったよ」
それを聞いたお姉ちゃんは、私と一緒に泣いてくれた。
・・──────それから2週間くらい、毎日のように、もう二度と鳴ることのない2つのポケベルを眺めながら、辛い日常を過ごしていた。
今までも、会えなかった日々はあったけど、「幸せ」を知ってしまった今となっては、比べられない程の耐えがたい気分だった。
そんなある日・・──────。
私がいつまでも塞ぎ込んでいたので、お姉ちゃんが「サオリ!新しい彼氏 探すわよ」って、私を「合コン」に誘った。
初めは、あまり乗り気じゃなかったけど、お姉ちゃんの強引さに根負けして、とりあえず、色んな男性と会ってみた。
その中に、「結婚を前提としてお付き合いしてくれませんか?」って言う
1人の男性も現れたけど、私は、それを断った。
でも、お姉ちゃんは・・・。
その合コンで知り合った男性といい感じで、交際が始まった。
お姉ちゃんには、私の分まで幸せになって欲しい。
そう願わずにはいられなかった・・──────。
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