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喪失感新婚旅行 [1] 旅する理由

私は夫と付き合った頃に、夫が営むハンバーガー屋を手伝い始めた。
それから、2年経ったくらいの時に私たちは結婚した。
思えば結婚する前から私たちは朝から晩まで定休日もあってないようなもので、とにかく働き倒しており、遠出と言ってもイベントの出店の翌日に出店先の近場をぶらぶらするだけだったり、弾丸日帰りの旅だったりでガッツリとどこかへのんびり旅行に出掛けるなんてことはなかった。いつしか旅行に行きたいという言葉が口癖になり、観光地で働きながら旅への憧れが大きくなり、観光客を羨ましく思っていた。

2020年の秋、
近隣の廃墟から出火した火災の被害によりお店と家を失い、強制的に無職になり、望んでもいない時間がドカンとできてしまった。
貰い火というのは、残酷なもので、火元の人たちが、私たちに新たな仕事や家を与えてくれることは無いし、社会的な補償もほどんど無い。
私たち夫婦の、その日着ていたコーディネート一式と、避難する時に急いで持ってきた貴重品以外は燃えた。
火災当日は、ユニクロに駆け込み下着や翌日の服、靴、鞄などを揃えたのを覚えている。
着る物、履くもの、鞄など、全てをユニクロで揃え、全身ユニクロ夫婦になった。

新婚早々、本当に笑えないくらいの不幸が私たちに降りかかってきてしまった。
しかし、失ったものが多すぎたり、辛いという感情が一線を越えると、人は前しか向けなくなるのかもしれない。
悔しくて悔しくて仕方がないけれど、人を恨んでも何も始まらない。
周りの人達からは、火災保険入ってるんでしょ?と数えきれないほど聞かれたし、同じ質問に何度も答えなければならないのは非常に辛かった。
火災の事後処理などに追われる以外は、からだの中から何かがぽっかりと抜けたような寂しい時間が流れるばかりで、突然の暇な時間についていけず、喪失感と、数ヶ月は持ち堪えられる貯金はあるにしても、どこかへ働きに出ないという焦り。あれこれ考えることが増え、身も心もおかしくなりそうな状態だった。

そんな中、夫がこの旅のことを提案してくれた。
次にやりたいことの勉強をしに、まずは東北から北海道を巡る旅をしよう。
そしてそれを新婚旅行にしようと。
なんて面白い人なんだと思った。
夫こそ、火災でいろいろなものを失ったことが私以上に悲しいはずなのに。
お店を作り、あの世界観、そしてお店の歴史のようなものを作り上げたのは夫なのだから。それを失ったことを想像しただけで、胸が張り裂けそうになる。
しかし、この提案はとても嬉しかったし、ポジティブに捉えたらこれは新婚旅行をするにはぴったりなタイミングじゃないか!だってつい半年前に結婚したんだから!
ネガティブな感情に夫婦揃って共倒れするわけにはいかないんだ!
ということで、この先もまた旅行に行けなくなっても後悔することのないよう、たっぷりな旅に出ることになった。
ひとまずのゴールは北海道。
それまで転々とどこかに泊まり、旅をすることにした。

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