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琥珀を目指した冬のある一日 〜祈りとコーヒーと愛しき忘却〜

琥珀に酔い、ポニーに逃げられた。そんな私の、冬の京巡りの一日の記録。



一、四条大宮:一号店の咆哮

旅の号砲は、四条大宮の「餃子の王将」一号店で鳴らされた。ここには全国に広がる活気の源流がある。プロたちが鉄鍋を振るうリズムに合わせ、私は注文をする「餃子一人前、肉と玉子のいりつけ、あとライス中で」

すると、元気な声で「コーテル・イー! ムーシーロー、チューラー!」出ました王将用語!その符号が響いた瞬間、私は京都という街の呼吸と一体になった。

プロの仕事に触れ、腹を満たし、私は紫の車両・嵐電へと乗り込んだ。車内は思いのほか空いており、ガタゴトという揺れが、これから始まる祈りの時間を静かに整えてくれた。

王将用語クリアファイル


二、 車折神社:内緒の作法

車折神社駅で下車。目的は車折(くるまざき)神社と芸能神社。自分の願い事もするが、来週に控えたパートナーの合唱演奏会の無事の成功の祈願も兼ねて。

出発前にAIに相談したらこの車折神社をおすすめされた。お守りをプレゼントにとも言われたが、重くなっても嫌なので、「では、お守り代わりの、喉を労わる飴」をおすすめされたので、それを採用し、車折神社の参拝と四条河原町の永楽屋で琥珀という飴を買うのが今日のテーマだ。

車折神社の境内で「祈念神石」を授かる。本殿の前では一組ずつお祈りしている。参拝の列に並びながら、私は伊勢で教わった作法を思い出していた。名前や住所、お願いしたいことを一つ一つ丁寧に心のなかで語るのは時間がかかる。列を気にせずゆっくりと向き合いたい。そんなときの作法だ。

自分の番がやってきたら、正面で居住まいを正し、住所と名前を告げる。そしてスッと横へ逸れ、背後の人々に場所を譲る。 そこではじめて、誰にも邪魔されない自分と神様だけの密やかな空間が生まれる。そう、本殿の正面でなくとも神様は願いを聞いてくれるのだ。私は手のひらの中の「祈念神石」のお守りとともに、パートナーの歌声が冬の空へ真っ直ぐに届くよう、深く、長く、祈りを捧げた。このことはパートナーには内緒だ。


三、 市バスの魔術師と、甘い琥珀色との運命の出会い

丸太町通まで歩き、乗り込んだ93号系統の市バスは、混んではいたが観光地の路線ほどではなかった。それでも、外国人観光客も多数乗車していて、さまざまなイレギュラーも日常茶飯事。それを冷静にそして簡潔に流暢な英語とジェスチャー、そしてハンドルさばきで統制する運転手さんの背中は、まさに「魔術師」のようだった。

AIとの会話で、バスの暖房が恋しいですねと聞かれたことに対して「あったかいんだから〜♪」と返事したのだが、暖房の温もりだけでなく、名もなきプロへの敬意もあったからに違いない。

河原町丸太町で下車し、凍える指先を抱えて「STYLE COFFEE」の扉を叩いた。そこで出された本日のコーヒであったホンジュラスのロス・セドロス。枝を切りすぎて収穫量が減ったという生産者の「失敗」が生んだ奇跡の一杯。

それを一口啜った瞬間、私は絶句し、目を見開いて笑ってしまった。 コーヒーの概念を塗り替える、甘い紅茶のような透明感。この琥珀色の液体に出会うために、私は今日ここまで歩いてきたのだと確信した。

人生で一番好きなコーヒーに出会った


四、 ポニー失踪と、鴨川の祝杯

幸せな余韻を抱え、リカーマウンテン神宮丸太町店へ向かう。目的は「デッドポニークラブ」。漫画「琥珀の夢で酔いましょう」がきっかけで飲んで好きになった一杯。以前もこの店舗で何度か購入しているのであって当然だと思っていた。しかし、棚は無情にも空だった。

ポニーが逃げた。 だが、今の私には落胆している暇はない。代わりに手にしたのは、ブリュードッグとリカマンの限定コラボのセッションIPA。

三条までの鴨川沿い。夕暮れが水面を染める中、プルタブを引き歩きながらゴクッ。 冬の冷気とフルーティーなホップの香り。心はすでに、自由という名の色に染まっていた。

リカマン限定!
鳥の楽園


五、 洛楽の疾走、あるいは愛しき忘却

帰路は京阪8000系、快速特急「洛楽」。いつも帰りは歩き疲れているので、プレミアムカーを選ぶことが多いのだが、プレミアムカーではなく、あのふかふかの一般席を選ぶ。七条を出れば京橋までノンストップ。だから乗客もそこまで多くなく問題なく着席できる。日常のすべてを置き去りにするように疾走する車内、心地よい酔いが全身を巡る。 そして、その微睡みの中で、私は最大の事実に気づく。

「あ、琥珀……永楽屋に寄るのを、忘れてた」

喉を労わる飴を買いに行ったはずの旅。なのに、手元には何もない。まあ酔っていたからなと自分を納得させる。

形あるお土産は一つも買えなかった。けれど、一号店の活気、車折の祈り、目を見開いたコーヒー、そして鴨川で飲み干したビールの苦味。 私は、形のない「琥珀色の時間」に、どっぷりと酔いしれていたのだ。

カバンの中の石が、少しだけ温かくなった気がした。

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