【#あの日母になった私へ】『母になったことは、人生最大の後悔でした』(1話完結)
【第1話:不可逆という鎖につながれて】
―あの日母になったことは、私にとって人生最大の後悔だった―
気づけば娘は小学5年生になった。
子育てに追われた10年間は、かけがえのない記憶のはずなのに、なぜ?
思い出そうとするたびに、頭の中に霧が立ち込めてくる。
まるで、私の意識の深層が”懐かしむこと”を拒むように。
最近、娘は私に甘えてこなくなったが、この日は珍しく私のヒザでうたた寝を始めた。
娘に仲の良い友達ができて、『毎日が楽しい』と言っていた。
私は、静かに寝息を立てる娘の髪をそっとなでた。
喉の奥からこみ上げてくるのは愛しさと、それを覆い尽くさんばかりの『悔しさ』
「ごめんね…身勝手な母親で…。」
娘はかわいいし、生まれてきてくれたことに心から感謝している。
今の私にとって、娘のいない人生なんて考えられない。
『出産しなければよかった』と子どもを邪険にする親もいるが、私は娘がいてくれることが幸せ。
でもね、違うんだ。私が後悔しているのは娘がいることじゃない。
――母になってしまったこと――
現代は生き方が多様化し、結婚や子育てだけが女性の幸せの定義ではなくなった。
歴史の大部分、女性を縛ってきたその圧力から解放された時代に生まれた私は、この上なく幸運なはずだった。
なのに、私は考えることを怠っていた。
「自分にとって幸せな人生とは何?子どものいる人生?いない人生?やりたいことを突き詰める人生?」
無限に開かれた扉を、自由に選んでよかったはずなのに…。
「母と同じようにどこかで夫と出逢い、子どもを授かり、同じように母になるんだろう」
漠然とそんなレールを思い浮かべるだけで、「あなたの人生、本当はどうしたいの?」と自問することさえしなかった。
『孫の顔が見たい』『子どもはいつ?』なんて言葉がハラスメントになる時代になった。
私の親はそれをわきまえていたのか、私に面と向かって言うことは1度もなかった。
子どもの人生に過干渉な親も多い中で、私の親はその点でとても寛容だと思う。
『女性に生まれたからには子どもを産んで育てなさい』という、社会からの無言の圧力は何となく感じていた。男性優位社会の悪しき慣習だ。
私はその圧力をあえて無視したのか、逆らう理由がなかったのか、未だにわからない。
ただぼんやりしたまま、自分の人生の舵取りを放棄してしまった。
私は母になってしまった日から、母として期待されるものをすべて満たさなければ、とんでもない罰を与えられる感覚に陥った。
『母は娘を愛するべき?母性の名のもとにすべてを包み込むべき?』
人間としての振る舞いに加えて、母としての理想の振る舞いもこなさなければ、人々はこう吐き捨てる。
『毒親』と。
母になってしまったら、母の仮面を脱ぐことを許される日は、もう二度と来ない。
この重圧から逃れられる日は、もう二度と…。
私は娘が誰より大切な存在にもかかわらず、「他人の子だったらどんなにいいか」と考えてしまう。
母の仮面を捨て、”1人の人間同士”として生活し、交流できたらどんなに心が解放されるだろう、と。

けれど、そのたびに”理想の母親像”を訴える悪魔が、私に釘を刺してくる。
『そんなことを考えるのは、娘を愛していない証拠じゃないか?母になったのに自分の人生を優先するのか?母になった責任を放棄するのか?』
違う、娘は本当に大切だ。
「私の後悔は母になったこと”だけ”だ」
そう言い返しても、悪魔の耳には決して届かなかった。
母でなければ挑戦できた、いくつもの夢。
母にならなければ縛られずに済んだ、『理想の母の仮面』という鎖。
子育てをしなければ自由に使えた、もっとも若い10年間。
あまりにも重い『不可逆』の3文字が、私の人生にのしかかる。
これからも、ずっと…。
生き方も思想も多様化し、いろんな価値観を認める世界になったのに、私は未だに見つけられていない。
「母になったことを後悔している」という本音を口にして、”毒親の烙印”を押されない場所を。
―――――END―――――
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