会社の中では自信があった。でも、外で通用する自信はなかった【第31回 永田朋之】
――49歳から始めた、私のキャリア再設計
こんにちは。ETA.Labメンバーの永田朋之です。
57歳、会社役員をしながら、副業で中小企業診断士として経営コンサルティングをしています。
こう書くと、もともと独立志向が強く、若い頃から将来を見据えて着々と準備してきたように思われるかもしれません。
でも、実際はまったく逆です。
大学を卒業して入ったのは、大手通信会社でした。当時は就職人気ランキングでも上位に入る企業で、社会を支えるインフラ企業としての安定感もありました。
転職することもなく、「この会社で定年まで働くんだろうな」と、ごく自然に思っいました。
そんな私が、自分のキャリアについて真剣に考えるようになったのは49歳のときです。
今回は、そんな私自身の話を書いてみたいと思います。
20代は、同期との出世競争に夢中だった
20代の頃は、とにかく仕事で成果を出すことに夢中でした。
同期より早く成果を出したい。評価されたい。昇進したい。
振り返ると、分かりやすい会社員だったと思います。
35歳で課長になり、初めてグループ会社へ出向しました。
そこで、仕事に対する考え方が少し変わりました。
出向先には、私のようにグループ企業から来た社員もいれば、その会社でずっと働いてきた社員もいました。
経歴も違う。年齢も違う。仕事に対する考え方も違う。
それまで自分が当たり前だと思っていた価値観が、必ずしも相手にとっての当たり前ではない。
そんな多様なメンバーをまとめ、一つのチームとして成果を出していく。
その難しさと同時に、面白さも知りました。
40歳で元の会社に戻ると、今度はいきなり約200人の営業組織のトップになりました。20人近い課長が部下となり、しかも全員が私より年上でした。
そこで身に染みて感じたのが、
「人は理屈だけでは動かない。最後は気持ちで動く」
ということです。
正しいことを言うだけでは組織は動きません。
相手が何を考えているのか。何を大切にしているのか。どうすれば「やってみよう」と思ってもらえるのか。
苦労もしましたが、組織を動かし、人と一緒に成果をつくることに大きなやりがいを感じました。
44歳からは、本社のシステム開発部門で責任者を務めました。
会社の中では、それなりの経験を積んできた。マネジメントにも、それなりの自信がある。そう思っていました。
ところが、50歳を目前にして、その自信とはまったく別のところから不安がやってきました。
49歳。「この先の仕事を自分で選べない」ことが怖くなった
私がいた会社では、管理職は50代になるとグループ会社へ移ることが一般的でした。
どこの会社へ行くのか。そこでどんな仕事をするのか。
必ずしも、自分の希望どおりになるわけではありません。
実際に、グループ会社に移り、かつての後輩のもとで営業をしている先輩たちの姿も見ていました。その姿を見ながら、率直に思いました。
「自分は、ああなりたくないな」
もちろん、後輩の下で働くこと自体が悪いわけではありません。
私が怖かったのは、別のことでした。
自分が興味を持てない仕事を、この先ずっとやることになるかもしれない。
自分の仕事なのに、自分では選べない。そのことに、漠然とした不安を感じるようになったのです。とはいえ、会社を辞めたいわけではありませんでした。
転職や独立にはリスクを感じていましたし、人生を賭けてまで「これをやりたい」という強い信念があったわけでもありません。
だから、動けない。
おそらく40代、50代の会社員には、似たような感覚を持っている方もいるのではないでしょうか。
会社が嫌なわけではない。それなりに評価もされてきた。
でも、
「このまま会社に自分の将来を委ねていていいのだろうか」
そんな気持ちが、頭のどこかから離れないのです。
200人を率いても、「会社の外で通用する」という自信はなかった
もう一つ、私には不安がありました。
会社の中では、200人規模の組織を率いた経験もある。大きな仕事もしてきた。でも、それはあくまで会社の中での話です。
会社の看板がなくなったら、自分に何が残るのだろう。当時の私には、その答えがありませんでした。
今まで評価されてきたのは、自分の力なのか。それとも、大企業という看板や役職があったからなのか。
「自分は、会社の外でも通用するのだろうか」
会社でのマネジメントにはそれなりの自信があったのに、この問いにはまったく自信がありませんでした。
そこで考えたのが、
「会社の外でも通用するための土台をつくろう」
ということでした。
そして49歳で、中小企業診断士を目指すことにしました。
49歳で大学院へ。毎週末、学生になった
中小企業診断士を選んだのには理由があります。
経営コンサルティングに関する国家資格であり、これまで会社で経験してきたマネジメントをベースにしながら、経営について体系的に学ぶことができる。
それなら、会社の外で仕事をしていくための最低限の土台になるのではないか。
そう考えました。
妻にも、自分が感じている将来への不安を話しました。理解を得て、中小企業診断士の養成課程がある大学院へ入学しました。
そこからの2年間は、想像以上に大変でした。
平日は仕事。毎週末は大学院。授業数も膨大で、一日休んだだけでも卒業が危うくなるほど厳しいカリキュラムでした。大学院ですから、最後には修士論文もあります。
仕事と学業を両立するのは、正直かなり大変でした。でも、この2年間で、それまでの会社員生活では見ることのなかった世界に触れることになります。
5人の経営者と向き合って、初めて知ったこと
大学院では、中小企業を実際に訪問する診断実習がありました。
5社の経営者と向き合い、その会社が抱える課題について話を聞きました。
売上のこと。
社員のこと。
資金繰りのこと。
会社の将来のこと。
そこで強く感じたことがあります。
経営者は孤独だ、ということです。
最後に決めるのは自分。その判断によって、会社の将来だけでなく、社員やその家族の生活まで変わるかもしれません。
大きな責任を背負いながら、それでも「会社をもっと良くしたい」「事業を成長させたい」と考えている。
そのパワーにも圧倒されました。そして、そんな経営者と一緒に会社の将来を考えることに、私は面白さを感じました。
「こういう人たちを支援する仕事をやってみたい」
会社の外に、初めて自分が興味を持てる仕事を見つけたような感覚でした。
資格を取った。でも、自信はつかなかった
2年間の大学院生活を終え、中小企業診断士の資格を取得しました。
これで会社の外でもやっていける。
……とは、なりませんでした。
資格を取っても、不安はなくならなかったのです。
知識は身についた。でも、実際の企業を相手に、自分の知識や経験が本当に役に立つのかは分からない。
結局、
「実際にやってみるしかない」
と思いました。
そこで、会社員を続けながら、副業として中小企業診断士の活動を始めました。
最初の仕事は、身近な中小企業の補助金申請
診断士になって1年目。
最初に取り組んだのは、身近な中小企業の補助金申請の支援でした。経験を積むことが目的だったので、無償で引き受けました。もちろん、補助金申請の実務経験などありません。
公募要領を徹底的に読み、補助金の仕組みを調べ、分からないことがあれば、また調べる。
そして経営者と、
「この会社をこれからどうしていきたいのか」
「そのために何が必要なのか」
「この会社の強みは何なのか」
といったことを一つずつ話しながら、事業計画書を組み上げていきました。
結果は、採択。
もちろん採択されたことも嬉しかったのですが、それ以上に印象に残ったことがあります。
企業の将来を経営者と議論し、それを一つの計画として形にしていく。
「この仕事、面白いな」
そう感じたのです。
30件応募して、合格は5件。それでも仕事は来なかった
そこから順調に仕事が増えたわけではありません。
とにかく経験が欲しかったので、公的機関が募集している専門家に片っ端から応募しました。
30件くらい応募して、合格したのは5件程度だったと思います。しかも、登録されたからといって、仕事が来るわけではありません。なかなか企業支援の依頼はありませんでした。
転機になったのは、コロナ禍での飲食店支援でした。そこから少しずつ、専門家として企業を支援する機会が増えていきました。
一件一件の案件で、分からないことがあれば調べる。勉強する。そして、何か一つでも相手に役立つアウトプットを返す。
そんなことを地道に繰り返しました。
自分では「普通」だと思っていたことが、外では価値になった
さまざまな中小企業を支援するうちに、思いがけないことに気づきました。
自分では、それほど特別だと思っていなかったことを評価してもらえるのです。
たとえば、
起きていることをいろいろな角度から見ること。
複雑な問題を整理すること。
本当の課題は何なのかを考えること。
それを言葉にして、分かりやすく説明すること。
会社の中では、ごく普通にやっていたことです。
でも外に出てみると、それが価値になる。これは大きな発見でした。
さらに、実務で経験したことを振り返って整理し、それをセミナーや大学院で教えるようになりました。
人に教えるためには、自分がやってきたことを言葉にしなければなりません。
実践する。
振り返る。
言葉にする。
人に伝える。
そして、また実践する。
この繰り返しによって、少しずつ自分の得意な領域が増えていきました。有償の仕事も増えてきました。
そこでようやく、
「自分の知識や経験は、会社の外でも価値になるんだ」
と思えるようになりました。
そして53歳。想像していなかった「経営する側」へ
49歳の頃、私は53歳以降のキャリアを不安に思っていました。
ところが実際には、53歳でグループ会社の役員になりました。これは、自分でも想像していませんでした。そして取締役になって、もう一つ分かったことがあります。
経営は、勉強しただけでは本当には分からない。
理屈では理解していたことでも、自分が最後に判断し、その結果に責任を負う立場になると、まったく違って見えます。
診断士として中小企業を支援していると、ワンマンに見える経営者に出会うこともあります。
でも今は、その見え方も変わりました。
社員の生活を背負っている。
会社の将来を背負っている。
そして最後は自分が決めなければならない。
経営者は、究極的には孤独な仕事なのだと思います。
だからこそ、その経営者から信頼され、一緒に考えることのできる中小企業診断士には価値がある。
役員としての経験は、診断士としての仕事にも大きく生きています。
50代のキャリアチェンジは、これまでを捨てることではない
49歳の頃の私は、キャリアチェンジというと、
転職する。
会社を辞める。
独立する。
そんな大きな決断をイメージしていました。
でも、今は違います。
これまで積み上げてきたものを捨てる必要はありません。
20年、30年と会社員を続けてきた人には、自分では気づいていない経験や知識がたくさん蓄積されています。
問題は、それが会社の中では「当たり前」になってしまい、自分自身で価値に気づきにくいことです。
私自身もそうでした。
だから、いきなり会社を辞める必要はないと思います。
人に会ってみる。
勉強してみる。
誰かを手伝ってみる。
副業で小さな仕事をやってみる。
会社の外で、自分の経験をほんの少し使ってみる。
すると、
「あれ、自分がやってきたことって、意外と使えるかもしれない」
という瞬間がやってきます。
私の場合、それが49歳から始まりました。
会社員として積み上げた経験で、「会社を経営する」という選択肢
そして今、40代・50代の会社員にとって、もう一つ面白いキャリアの選択肢があると思っています。
それが、ETA(Entrepreneurship Through Acquisition)です。
ETAとは、ゼロから会社を立ち上げるのではなく、既存の会社や事業を引き継ぎ、自ら経営者となって成長させていく起業の方法です。
営業、マーケティング、組織マネジメント、人材育成、IT、財務、業務改善……。
長い会社員生活の中で身につけてきた経験は、転職するときに職務経歴書へ書くためだけのものではありません。
すでにある会社を引き継ぎ、今あるものを伸ばしていく力にもなるのではないでしょうか。
もちろん、会社を買うことは簡単ではありません。
私自身、49歳のときにETAを知っていたとしても、すぐに「会社を買おう」とは思わなかったでしょう。
でも、「そんな生き方もあるのか」と、きっと興味を持ったと思います。
転職してもいい。
副業を始めてもいい。
今の会社でもう一度挑戦してもいい。
独立してもいい。
そして、会社を引き継いで、自分が経営者になるという道もある。
40代・50代だからこそ、これまで積み上げてきたものを生かせるキャリアがあるのかもしれません。
「そんな生き方もあるのか」と思った方へ
「ETAには少し興味がある。でも、会社を引き継いで経営者になるなんて、自分にはまだ想像できない」
そう思う方も多いと思います。
それでいいのではないでしょうか。
私も49歳のとき、今の自分を想像できていたわけではありません。
最初にやったのは、大学院に通い、会社の外の世界に触れてみることでした。
一歩動いてみたら、次の景色が見えた。
そこで、また次の一歩を踏み出した。
その繰り返しです。
ETA.Labでは、ETA実践セミナーを開催します。
実際にETAを経験した方々の話を聞きながら、
「なぜ会社を引き継ぐという道を選んだのか」
「会社員から経営者になるとは、どういうことなのか」
「これまでの会社員経験を、経営にどう生かせるのか」
そんなリアルな話に触れていただく機会です。
いきなり会社を買う必要はありません。
まずは、自分の知らなかった世界の話を聞いてみる。
49歳の私がそうだったように、そこから新しいキャリアが始まることもあります。
▼ 永田朋之のプロフィール
https://vision-partners.jp/about/
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ETAイベント
日程:11月12日(木)18時~20時半
場所:SENQ霞が関
参加費:2,000円
イベント紹介ページは鋭意作成中。ETAイベントにご関心のある方は取り急ぎ永田まで問い合わせください(t.nagata@vision-partners.jp)
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